第142話:sideグレン その4-3
まだまだグレン。
這う這うの体でぼくらはティリミナスの街門まで戻ってきた。ここ、ティリミナスもまたお通夜のようなムードであった。
だけど、街の中はそれなりに喧騒で賑わっていた。荒くれ者の冒険者が何人も屯しており、そいつらの相手をするべく、商人たちの馬車がひっきりなしに行き交いしていた。
ぼくらは街に入り、冒険者ギルドを目指す。ミナサノールであったことを報告しないといけないのだ。
冒険者ギルドはそれなりに大きく、また、急遽規模を増やしたかのように建物が増設されていた。見れば仕事の斡旋はあちらでやっているようだ。ぼくらは報告がメインなので普通に入る。
冒険者ギルドに入ってまずみんなの目がこちらに向いた。そりゃあそうだ。ぼくのそばにはブラン、ノワールの二頭に見目麗しいと言っていい美女、美少女が四人。後はシルバー爺とフレイが居るのだ。
「おうおう、綺麗どころ連れてんじゃねえか、兄ちゃんよ」
「悪いけど、相手をしている暇は無い。一刻を争うんだ」
「なんだと? てめぇ! オレをナメてんのか? オレはな、あの魔王軍四天王のガロンと戦って生き延びたほどの男だぞ!」
倒した訳でもないのに誇らしげに言われてもなあ。それにあのガロンってほとんどブランが一人でやっちゃったんだよね。困ったなあ。
「グレン、こいつ殺っちゃう?」
「さすがに待ってくれないか。問題は起こして欲しくない」
血気に逸っているのかブリジットが尋ねてくる。これは、さっきの戦闘が不完全燃焼だったのもあるんだろう。ブリジットは何もしないうちに撤退したからな。
「心配なくていいわ。ちょっと遊んでやるだけよ」
ブリジットが畏怖威圧わ発動させる。普通にその場にいる全員が強烈な恐怖に身体が動かなくなっている。ぼくらはマリーが結界張ってくれて居るから大丈夫だ。
「こ、こりゃあ一体……」
奥から出てきた冒険者ギルドのお偉いさんだろうか。そいつは辺りの様子にオロオロしていた。ぼくはブリジットに威圧をやめるように言い、ギルドの人に歩み寄った。
「ぼくはグレン、と言います。ミサナノールの事についてお話が」
「わかった。話を聞こう。全員で二階に来てくれるか?」
そうしてぼくらは冒険者ギルドの二階に通された。
「改めて、ここのギルドマスターをやらせてもらってるガナダンってもんだ。あんたがグレンかい?」
「ぼくのことを?」
「もちろんだ、四天王のうち三人をも倒したと言われているあんたの活躍は聞いてるさ。ようこそ、ティリミナスへ。歓迎するぜ」
どうやらぼくの名前もそこそこ知られているようだ。ぼくは先程のミナサノールで出会った最後の四天王と思しきオヅヌの事について一通り話した。
「そんな事になってんのか。ああ、あのミナサノールは一ヶ月ほど前に原因不明の病で人がどんどん倒れちまってな。残ったヤツはどんどんこっちに逃げて来たんだ」
病という事はオヅヌは関係なかった? いや、違う、きっとオヅヌが病らしきものをばら蒔いたのだろう。
「今は対策を練っていたんだが、病が相手じゃ冒険者としてはどうしようもなくてな」
「ぼくが見た時には街の人は幽鬼の様に歩いていました。あれが病気なんでしょうか?」
「わからん。誰かに調べてもらわねばならんが、今の状態ではどうにもなるまい」
うちでそういう病の対処となると葛葉かエリンだろう。でも葛葉はまだ興奮が収まっていなさそう。玉葉というのは恐らく葛葉に近しい人物だったのだろう。
「エリン、薬は作れそうかい?」
「うーん、本当に病気かどうか分からないから葛葉にやってもらった方がいいと思うんだけど……まあ今の葛葉じゃあ仕方ないかな。わかった、やってみるよ」
そう言いながら薬効のある草を集め始める。その間にぼくらはミナサノール奪還の計画を立てる。
「まずはそれなりに精鋭が欲しいです。冒険者ギルドではどれくらいを?」
「今、各地にいる色つきに声を掛けているところだ。赤はまだだが、白の騎士と緑の魔道士には連絡がついた。こちらに来てくれるそうだ」
色つきと呼ばれる、冒険者ギルドでも屈指の実力者。勇者にも引けを取らないと言われるが、肝心の勇者の実力がアレだったからあまりあてには出来ない。
「他にも各地の実力者のパーティを召喚している。何でも南方の不穏な情勢が解決したからあまり心配要らなくなったんだとか」
南方と言えばラビを送り出した方面だ。危ないと分かっていればもっとほかの場所で解放したのに。まあ、それでもその辺の問題が解決していたのはありがたい……いや、待てよ? もしかして、ジョーカーを倒したのがラビだったってのは冗談でも何でもなかったのか?
それからガナダンさんが何かを説明していたようだったがあまり頭には入らなかった。気付いたらなんか全部終わっていて、宿屋で休んでいるところだった。




