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第139話:黒山羊遭遇戦

黒山羊戦。まあ中の人(?)が出てくればすぐです。

 山頂に続く道を進む。草が疎らに生えているのを見ながら。周りの草はどんどん少なくなっていく。ゴツゴツした岩がそこかしこに転がっている。


 ええと、もしかして、これってやばいのでは? まず、エリンが出て来れない。いや、それは最初からアテにはしてないんだけど。


 次にぼくが上手く走れない。ぼくが走るのは草原などのフラットな地形であって、ゴツゴツの岩場じゃないんだよ。こういうところはぼくみたいな足よりもむしろ羊とか山羊とか……あっ!


 ゆらり、と何かが視界の端に踊った気がした。注意深くそちらに意識を向けてみる。最初に見えたのは黒い影。ゆっくりそちらを向くと、全身が真っ黒な山羊がこちらを見ていた。


 良かった、本物の黒山羊っぽくて。これで泡立ち爛れた雲のような肉塊だとか、のたうつ黒い触手だとか、黒い蹄を持つ短い足だとか、粘液を滴らす巨大な口を持つだとか言われたら正気でいられるか分からないよ。SAN値直葬になるところだった。


『ココハ、ワレノ、ナワバリ。ナンピト、タリト、タチイラセヌ』


 酷く歪な発音だが確かにこちらに警告を飛ばしているようだ。そんな事言われてもここを通らなきゃ帰れないじゃないか。ぼくは帰りたいのに。


『あの、この山を越えたいんです。越えたら直ぐにいなくなりますから』

『ミトメヌ、ワレノリョウイキヨリ、タチサレ』


 ダメだ、話が通じない。問答無用っぽい? ならば横を駆け抜ければなんとかなるかな?って思ったけど、山道が通ってるのはここだけで、後は岩が道を塞いでいる、というか道になっていない。


『あなたに危害を加えるつもりはありません!』

『イマイチドイウ。タチサレ、シカラズンバ、シヲクレテヤル』


 塩くれるの? 意外と優しいね。あ、でもそこまでたくさんは要らないよ。これでもちょこちょこ摂取してるからね。


 そんなことを考えていたら、突然空が真っ暗になった。夜じゃなくて曇天の暗さだ。直ぐに雲が光って、一条の光が大きな音を立てながらこっちに落ちてきた。


 ガラガラドッシャーン。ぼくが慌てて飛び退いたらそこの場所が真っ黒に焦げていて、穴まで空いていた。落雷ってやつだろう。


『なっ、何をするんです……』


 ガラガラドッシャーン!


『ちょっ、やめて』


 ガラガラドッシャーン!


『待って待って話を聞いて!』


 ガラガラドッシャーン!


 連続で何発も雷が降ってくる。こりゃあどうしょうもない。ぼくの足が速くても雷には負けるだろう。実際、クロさんには速さで負けてたし。ああ、ここにクロさんがいてくれたらなあ。


『チョコマカト!』


 黒山羊が宙に舞った。それまで動かなかったのに。動きは割と俊敏だ。右に左にとステップを踏みながらこちらに降りてくる。あっという間にぼくのところまで来た。


『うわっ、速い!?』

『クラエ!』


 下から突き上げるような頭突き。ぼくの顎を目掛けたその一撃はぼくが間一髪でかわしたところで辺りにあったでかい岩にぶつかり、その岩を粉々にした。


『ハズシタカ』

『ひょぇぇぇぇ!』


 ぼくは腰を抜かさんばかりに驚いた。いや、正直、今までジョーカーとかと戦ってきて、それなりに勝てるかなって思ってたんだよね。でもこいつ、それより強いかも。


『ヨケルギジュツハミゴトダナ。ダガ、ソレナラ、ヨケサセヌ』


 黒山羊の足元から何か黒いものが染み出して来た。黒いものはどんどんと拡がり、辺りを覆っていく。ぼくの足元にもそれは来た。でもなんともない。なあんだ、見掛け倒しか。


『デハ、トドメダ』


 黒山羊は再び突進体制に入る。ぼくはそれを華麗に避けて、避け、よ、足が、貼り付いて、動かない!?


『ワガイフカラハニゲラレヌ!』


 これ、イフって言うのか。イフ、女神転生? ファイアーエムブレム? とかいうよく分からない記憶ネタはおいといて、イフというのはなんだろう。意符? 異父? いや、恐らく「畏怖」だろう。相手がそれを使うならばぼくだって! ぐぬぬぬぬぬぬ!



 いや、まあこのままじゃ危ねぇから出てきたんだが、また厄介なやつだよ。ありゃあまともな生物じゃねえぞ? なんかの実験体とかそういうのじゃね? それに「畏怖」使って動き縛るとか初見殺しにも程があるぜ。そりゃあ誰も戻ってこねえ訳だよ。


 だが、相手が悪かったな、三下! ここにいるのはな、オメェよりも遥かに上の「畏怖」の遣い手なんだよ!


『赤き恐慌のオーラ!』


 オレの身体から赤い気が迸る。それは足元の黒いものも、薄暗い空間も、周りの岩々も全て赤く染める。


『ガガッ!?』


 悪ぃな。オメェは運が悪かったんだよ。オレって名前の絶望に遭遇しちまったんだ。オレはな、帰らなきゃいけねえんだ。そこに、何があるのか、理解しているとしても。


 動けなくなった黒山羊をオレのツノが貫いた。黒山羊はそのまま崩れていく。全く、そろそろ肉のストックも切れそうなんだがな。肉、自分から食ってくれよ。

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