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第138話:草原から山麓へ。

エリンの名前はグレンがつけた訳ではなく、エルフとして活動してた時の名前です。獣の奏者じゃないよ?

 朝、草の中で目覚めて、いつもの温もりがないのを知る。そういえば野原で寝るのなんて久しぶりだった気がする。まあぼくには自前の毛皮があるから大丈夫なんだけどね。


 遥か遠くに見える山々。山頂の方には雪がうっすら積もっている。寒さにはそこまで弱くは無いけど雪は沈むし、草が見えなくなるから嫌いなんだよなあ。


 ぼくは草原を疾走しながら辺りを見る。ところどころに羊やら山羊やらがウロウロしている。人間が管理している様子は無い。野生なのだろう。山羊とかもっと山の上の方じゃないの?


『すいません、山に登るのはこの道でいいんですか?』


 年老いた山羊に道を訪ねてみる。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥だ。知らない道を聞くのに躊躇うことは無い。


『おやまあ、珍しいもんだ。あの山に行きなさるのかね?』

『はい、ちょっと山を越えたくて』

『ふうむ、それはちょっと難しいかもしれんなあ』


 山羊のおじいさんはそう言いました。えっ、あの山何かあるの?


『あの山にはのう、黒山羊と呼ばれるバケモノが住んでおるのだよ。ワシらは皆、あの黒山羊から逃げて来たという訳じゃ』


 どうやら麓に山羊がいるのはそのためらしい。なんとも厄介な。まあそれでも帰るためには登らなきゃいけないんだけどね。


 山羊のおじいさんに礼を言って、改めて山を目指す。山道の入口は少し森のようになっている。狼たちがこっちを伺っているが、襲っては来ない。ぼくが疲れるのを待っているのか、それとも獲物は他にもいるからぼくに見向きもしないのか。


『おい、そこのお前、この森に何の用だ?』


 頭上から声を掛けられた。見ると翼を広げた大きな鳥がぼくを見ていた。ミネルヴァさんを思い出す。懐かしい、元気だろうか?


『ここを通りたいだけです。通して貰えませんか?』

『なんだと? そんな事は認められん。今すぐに引き返すがいい!』


 鳥は居丈高に言ってくる。なんだよ、上からものを言いやがって。いや、物理的に上から言ってるわけだけど。


『ここを通って故郷の森に帰りたいんです』

『この山は諦めろ。森で暮らしたければここに居ても構わんが?』

『ダメです。故郷でないと』


 森ならどこでもいい訳じゃない。グレンが、グレンとぼくが暮らしたあの森だから意味があるんだ。


『少し痛い目にあわねば分からぬようだな!』


 鳥がぼくに向かってくる瞬間、周りの木々が鳥を絡めとる。


『なっ!? 貴様、何をした!』

『ええっ? いや、ぼくは何もしてないですけど』

「はーい、そこまで。まあ落ち着きなよ、ヴィゾ」


 そう言いながら木に顔面だけ出したのはエリンだ。いや、帰ったんじゃなかったの? それにこの鳥とお友達なの?


『何故ワシの名前を……ドライアド様!?』

「今はエリンって名乗ってるよ。ヴィゾ、そこの子は私の友人なんだ。通してあげてくれないかな?」


 困った様に頼むエリンに鳥、ヴィゾさんは難色を示す。


『ドライアド様、いえ、エリン様、それは出来ぬのです。この先に進ませる訳にはいかんのですよ』

「へぇ、そうなのかい? 何か理由がありそうだね」

『ぼくが余所者だったから止められたんじゃ?』

『そのような事では無い。この先には黒山羊のバケモノがいる。引き返して来るものもいなくなってしまった。この様な勇者でもなんでもない単なるホーンラビットでは直ぐに仕留められてしまうに違いない』


 つまり、このヴィゾさんはぼくが黒山羊にやられないように止めに来たってことか。まあぼくとしてもむざむざやられるつもりは無いんだけどね。


『いざとなったらぼくの自慢の足で逃げ切ってみせますよ!』

『上に行ったやつには足自慢の獣もおったんじゃがなあ』


 足自慢の獣、草原で見るような奴ならだいたいぼくより遅かったよ! 普通のホーンラビットよりも速いんだからね、ぼくは。まあ三倍速いは言い過ぎかもだけど。


「ヴィゾ、責任は私が取るから」

『まあエリン様にそこまで言われては拒む事も出来ませんな。わかりました。気をつけてお進みください』


 そう言ってヴィゾさんはぼくを通してくれた。しかし、エリンはまた見てたの?


『そりゃあ私の領域だもの。マリーは今グレンに怒られてるから来ないよ』


 あはは、いや、無理やり通ってこないなら別にいいんだよ。すり下ろされなければね。


 ぼくはエリンと別れて(と言っても森の中ならどこでも顔を出せるし、見てるよって言われたんだけど)山頂への道を一心に進んだ。


 やがて、森の木が低くなり、ところどころに岩がチラホラ見られる様子になって、ぼくはそのまま走って森を抜けた。


 森を抜けた先には岩肌がゴツゴツとした地形が広がっていた。細いながらも道はある。ぼくはその道なりにゆっくりと山頂を目指した。黒山羊に見つからないように慎重にだ。山頂まではまだ大分ある。先は長そうだ。

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