第137話:やがて来た別れ
ラビ君一人旅
「さて、妾は京家に帰るが、お主らはどうするつもりじゃ?」
姫様がぼくらに向かって言う。
「江戸がどう出ようと私はイエローエリアを見廻るのみでございます」
「あたしも山田のダンナみたいに難しいこと言わねえで孤児院の為に働くつもりだぜ」
山田さんと朱里さんは分かりやすく現状維持である。
「私は北の方から大陸をぐるっと回ってみようかと」
マリエさんはもう南の方には行かないのか。となるとここでお別れ? いや、ついて行くという手もある。
「私たちはそろそろグレンのところに戻ります」
「そうそう、ベリアルだっけ? やつを倒したのも言っとかないといけないし」
マリーとエリンともお別れ。まあこれは仕方ない。むしろよくぞここまで一緒に居てくれたものだよ。
「なるほど。それではだいたいバラバラになるの」
あれ? ぼくには聞かれてないけど?ってまあそりゃあそうか。ぼくはホーンラビットだもの。マリエさんと一緒に行くのが一番丸いんだろう。
三々五々別れた後で、ぼくらはマリーとエリンを見送る。マリーに抱き着かれて連れて帰られそうになったけど、エリンの「肉体は持っていけないから精神だけ持っていくなら」って言葉にマリーが諦めた模様。危なかった。
見てる間にスルスルと木に吸い込まれていく二人を見送って、マリエさんに向かう。
『マリエさんにお話があります』
「えっと、私に話があるって言ってるのかな?」
『せやね。まあ話してみい』
しまった、意思の疎通が出来てない。困ったなって思ったら篝火さんが通訳を買ってでてくれた。
『ぼくはここからマリエさんと別れて故郷を目指そうと思います』
『さよか』
『驚かないんですか?』
『アホやなあとは思っとるよ。マリエの従魔になればええのにって。でもちゃうんやろ?』
その通りである。マリエさんの従魔である、篝火さんやクロさんとは随分仲良くなった気もする。でも、グレンの仲間であるマリーやエリンの様な「身内」という気がしないのだ。
『あの姿見た時から、マリエにはテイム出来ひんやろなあ思とったから別にええよ』
『マリエさんが嫌いってわけじゃないんですが、でも』
『皆まで言わんでええて。よっぽど好きやったんやねえ、そのグレンさんが』
篝火さんは分かってくれた。自分がマリエさん至上主義(本人談)だからか理解も早かった。
『まあ行く道決めたんやったらお気張りやす』
『はい、ありがとうございました』
「ちょっとちょっと、篝火だけ離さないでよ。ラビ君なんだって?」
「前のオトコが忘れられへんからマリエは選べんのやって」
言い方! それにグレンもぼくも男同士だ。なんというかその、腐臭のする言い方はやめてください。ぼくが発情するのはメスうさぎだ!
「まあ、それは、ええ、分かりました。では、ここでお別れですね。短い間でしたが楽しかったですよ」
そう言うとマリエさんはぼくを抱き上げてくれた。抱き方がとても丁寧で心地よい。でも、これじゃないって思ってしまう。しっくり来ない。
「この道を真っ直ぐあちらに行くと京家の領地ですね。だけど、さらに南に行くと草原地帯に着くそうです」
マリエさんが語ってくれる。もしかしてこの先の地形を調べてくれたのだろうか。
「草原地帯を抜けたら山越えがあります。その山を越えたところにまた森が広がってると聞いてます」
その森がもしかしたらぼくの故郷かもしれない。そういえば森に山もあった様な気もする。まあ山を越えようとした奴はあまり知らないんだけど。
「元気でね。そしてまた、どこかで」
マリエさんは優しくぼくの額に口付けをするとぼくをゆっくりと地面に下ろしてくれた。そして、シロさん、ホワイトタイガーの従魔を呼んでその背に乗った。
「今度はこの子も連れて行くわ。なるべく一緒に居なくちゃね」
そうしてにっこりと笑った。そうしてぼくはみんなと別れて再び一人になったのだった。
しばらく変わらない景色、麦畑を横目にぼくは走る。一人旅というのは気楽でいい。誰に遠慮することも無い。まあ少し今までに比べて寂しいなと思ったりはするけど。
草原地帯の中で夜になる。明日は山に差し掛かる。かなり高い山だからどれくらいで越えることが出来るかなんて見当もつかないけど。
ともかく草を食み食みしながら草原の中で眠りについた。お腹いっぱいになったし、疲れてるからなあ。すやすや寝るよ。
はあ、結局オレ一人かよ。まあ恐らく森に帰ったところで一人には違いねえだろうが、ラビは、オレはすがってんだ。グレンの痕跡が残ってればそこで暮らせるって。あの懐かしい、小屋でなら一人でも寂しくねえって。焼きが回っちまったかね? まあいい。周りに恐怖はばら蒔いておくか。バカが近付かねえ様によ。




