第136話:戦い(まつり)のあと
宇多正信と亜久台は従兄弟同士というどうでもいい裏設定です。母親同士が姉妹なんですよ。本当にどうでもいい。
虹香のブレスが敵を包み込む。さっきの相殺の時とは比べ物にならない威力だ。周りへの影響はない。ちゃんとエリンがガードしてくれた。
いや、一箇所空間にヒビが入ってんな。何かが生まれてきそうだぜ。上等だ。何が出て来てもオレの敵じゃねえ。等しく恐怖で縛ってやるぜ。
パキン、と音がして中から出てきたのは……げげぇ、マリー!
「らーびーきゅーーーーーん!」
そのまま物凄い速度でオレに突進してきて、オレを抱き締め、肋骨ですりおろし始めた。や、やめろ! 痛い、痛い、痛いんだよ! オーラで覆ったはずのオレの防御力が全然通用してねえんだが!? こんなのゴメンだ! もうヤツも倒れたし、コントロール戻すぜ。
ふと目覚めるとマリーの腕に抱かれて肋骨にガリガリすり下ろされていた。肉が、肉が削げちゃう!
「ああーん、ラビきゅん、私疲れちゃったあ。充電させて」
「マリー、そんなにしたらラビが削れる」
「エリン、これは私の心の健康のために必要な事なの!」
「それは納得出来ないこともないけど、ラビの無事も考えてあげてよ」
ありがとう、エリン。キミが止めてくれなかったらぼくはもうこの世に存在してなかったかもしれない。
「ええと、おかえり、マリー。あのベリアルとかいう奴はどうなったの?」
「ええ、もちろん始末したわ」
「さすがマリーだね」
「まあ厳密に言うと私が始末したんじゃないんだけど」
どういうことだろうか? いや、それでも魔王軍の側近を倒したって事は喜ばしい事なのでは? 今頃はグレンも魔王軍と戦ってるみたいだし、少しは助けになれただろうか?
「熾天使様!」
こちらに駆け寄ってきたのは姫様。駆け寄ってきて土下座。見事なスライディング土下座である。
「妾を救って下さっただけでなく、魔王軍のベリアルまで討伐していただけるとは。熾天使様は大阪の救世主でございます!」
「え? あ、ちょっと。ベリアルは私との因縁があったから」
「どういう理由があれ、救っていただいたのは紛れもない事実!」
姫様は、お城の方は良いのかな? いや、実際城は跡形も無いくらいに崩壊してはいるんだけど。そりゃ中からあんなのが出てくればねえ。
「姫様、城の再建はしなければなりませんが、それまでは京家のお屋敷にお戻りください」
太黒屋が姫様に奏上する。まあ姫様にとっての実家?に帰るのはいい事なんじゃないかな。ぼくも故郷の森に帰るために旅をしてるんだし。
「そうじゃな。気は進まぬが戻らねばなるまいて。資金も調達せねばなるまいしな」
「資金でしたらこの度反目に回った奴輩から絞り取ればよろしかろう。問題ありませぬぞ」
「おお、それは心配事が一つ減ったの」
そういえばお金。そう、人間が生活するにはお金が必要なんだよね。ぼくはお腹空いたらその辺の草を食べたら何とかなるけど。
「これは、偉く派手にやり申したなあ」
聞き覚えのある声が聞こえて何かと思えばそこにはモンドさん、いや、幸之助殿と言うべきか、が居た。
「幸之助さん、どうしてここに?」
マリエさんのびっくりした声が一オクターブ高くなった気がする。
「江戸よりの使者でござるよ。あのブタがまたぞろ悪さをしておるというのでな」
「お知り合いなんですか?」
「まあな。思い出したくもないが一応の知り合いだ。江戸から追い出したと思ったら大阪で力を得ていたとは。宇多の身内と言えばなんとなくは分かるだろう」
宇多……ああ、あの。確かにどっちも偉そうなデブだわ。
「お主が江戸からの?」
「はっ、恐れながら京家の姫君とお見受け致します。拙者、三芳野幸之助と申します。老中第三席を拝命させていただいております」
老中って年寄りになったってこと? まだ若いのに年寄り扱いは酷くない? えっ、違うの? そういう役職? へぇ、エリンはやっぱり物知りだね。
「して、この不始末、どうつけるおつもりか?」
「はっ、この度の不始末は幕府の落ち度。よって、大阪の街から江戸は手を引きまする」
「随分と思い切ったのう。なんぞ思惑でもあるのか?」
「正直を申しますと、先の江戸での騒動でとてもではありませんが人が足りぬのでございます。大阪に派遣する者を募りましたが皆目」
心底困った様子のモンドさん。そこに姫様が追い討ちをかける。
「お主が来ればよかろうが?」
「いえ、その、拙者は江戸表に妻と子がおりますれば」
「ここに来れば選り取りみどりじゃぞ? ほれ、この朱里なぞどうじゃ?」
「ちょっと、姫様!?」
おっぱい揉みながらモンドさんを挑発する。モンドさんは顔を挙げずに答えた。
「ありがたいお話ではありますが、妻も子も裏切れませぬ」
「ふむ、堅物じゃな。あいわかった」
一先ずは一件落着したようだ。




