第134話:再びの覚醒。
エリンが「また」と言ったのは観察してたからです。
みんなが頑張ってる。このままならきっと倒せるだろう。戦うのはみんなに任せるのがいい。ぼくは、何も出来ないから。いや、あの力を、あれを出せばぼくだって何とか出来るはずだ。
でも発動方法なんてわかんないよ。ええと、どうすればいいの? 味方がやられる? いや、そこまで親しいのはマリエさんたちくらいだし。朱里さんや山田さんが傷ついてもそこまで心揺さぶられないよね。
エリンとかマリーがそんな目にあったらきっとなるだろうけど、あの二人がそこまでやられるところなんて想像出来ない。
マリー残ってたらきっともう終わってるんだよなあ。でもあのベリアルとかいう奴を追って行っちゃったからなあ。
エリンは公園守るんじゃなきゃ何とかしてる気もする。いや、樹木が足りないかもだけど。普通に魔法で何とか出来ないのかな?
「ゔろろろろろろろろろろ!」
肉の塊がまた吠える。身体から何かがこそげ落ちて、落ちたものがうぞうぞと動き出した。ひょえー、気持ち悪い。
「ホワイトガード、抜刀!」
向かってくるうぞうぞに駆け付けた兵士たちが立ち向かっていく。これだけの数相手に頭数は少しでも多い方がいい。
「ふしゅるるるるるるるるる!」
ぐにゃり、と肉の塊に触手が生えた。エリンの触手(エリン「触手じゃなくてツタだっての!」)よりもグロテスクでなんかヌメヌメしてそう。
その触手はこちらに伸びてきて、姫様を絡めとろうとしている。太黒屋さんが必死で防いでいるが、いつまで持つやら。姫様の顔が恐怖に引きつっている。そりゃあそうだよね。捕まりたくないよね。
よし、ここはぼくが颯爽と駆けつけてかっこよく守るしかないな! いや、触手をどうしようか迷っちゃうけど。まあ当たって砕けろだ!
ぼくは一目散に走り出した。ツノ特攻しなければその場所にいたんだけど、それはチャレンジのための代償だと思ってもらいたい。
『どけえ!』
まあ叫んでも理解できないだろうけど、こういうのは勢いが肝心。触手を切断すべくツノを突き出す。
べチン!と音がして、ぼくの身体はきりもみ回転しながら吹っ飛んだ。いや、痛くはないんだよ。でもまあ衝撃は凄かったから吹っ飛ぶよね。
な、なんのこれしき。全然痛くないもんね。やらせはせん、やらせはせんぞ! ぼくは再度の突進を敢行した。
そうすると肉の塊の触手は一箇所に集まり始め、巻き付くように複数の触手が重なって……あれ? なんかヤバくない?
矢が放たれる様に、物凄いスピードで触手が螺旋を描いて飛んでくる。だからドリルは外せと言ったのだ! いや、言ってないか。
触手はすんぶんたがわず、ぼくの腹に直撃した。このままでは貫かれてしまう。くそ、何とかなれー!
さすがにこんなダメージわざと食らう訳にもいかねえからなあ。しゃあない。これからはオレが引き継ぐか。オレは毛に魔力を込めて硬質化する。これでそんじょそこらの攻撃じゃ貫通出来なくなったぜ。
さてと、それじゃあこっちのターンだよなあ。よぉし、いい子だ。動くんじゃねえぞ? と言っても恐怖心が残ってたら動けねえだろ? 元はニンゲンみたいだし、まだ心が残ってんだな。いや、本能か。
あの肉の塊は魔力で再生してる。厄介なやつだ。と、なれば再生出来ないくらいに吹き飛ばすか、どこかに閉じ込めるかだ。マリーとか葛葉の姐さんとかいれば異次元に放り込むんだが。
でもまあ似たようなことが出来ない訳でもないんだよな。まあオレの場合は精神だけ吹っ飛ばす訳なんだが。
『赤き恐慌のオーラ』
オレの身体から赤い気が迸る。今回は動けなくするのが目的だ。再生能力もこれで抑え込んだしな。後は奴らの努力次第だ。
「動きが止まった!?」
「むっ、勝機!」
朱里が拳を叩きつける。しかし、あいつ、拳を振るう度に上下にボインボイン揺れてんだが、痛くねえのかよ?
山田は持ってる刀でぶった斬る。普通はあのサイズ斬るのってすっげえ大変だと思うんだが。普通に斬れてんだよなあ。
クロさんはひと吠えすると、完全雷光化して突っ込んでいく。きっとまたマリエに攻撃いかないように気を張ってたんだろうよ。本当に頭が下がるぜ。
篝火は大技の為になんか魔力を練ってる。攻撃自体そこまで得意じゃないのかね。葛葉の姐さんはもっと火力高かったんだが。やはりしっぽの数が足りねえとそうなるのかね。
虹香は何故かこっちを見てる。いや、そんなに見られても何も出ねえぞ。肉の塊に集中してくれ。とか思ったらブレスの準備を始めた。一気にぶっ飛ばす気か?
『エリン、エーリーンー』
「あれ? ラビがまた変になってる?」
『うっせえよ。それよりもあの虹蛇がブレス使おうとしてるから周りのガードしてくれ』
「えー、まあ仕方ないなあ。マリーはいないもんね」
エリンが結界をドーム状に張ってくれたお陰で周りへの被害は大丈夫そうだ。やれやれ、世話が焼ける。




