第133話:古の因縁。ワレ、ちょう、ツラ貸せや!
ラビ君、覚醒、しませんっ!
「ウラアアアアアアアアアアアアア!」
ホワイトエリアに入ってもうすぐ城に着くというタイミングで、大きな揺れが起こり、城が崩壊した。えっ? ぼくらまだ何もしてないよ? もしかしてマリーが何かやったの?
マリーの方を見たら高速で首を横に振っている。じゃあエリン? エリンを見るとふう、やれやれみたいな表情をしている。あの顔は「木々もないのにそんな事が出来ると思うかい?」って顔だ、多分。
城が見る間に崩れ、出て来たのはデカくて丸い、そしてところどころがなんか融解してる変な物体だった。音はそこから響いている。
「これはこれは、随分と醜い姿になったものだ。まあ元から醜かったが」
そう言っていたのはタキシードを着た男。頭にはシルクハット、手にはステッキ。どういう原理か空中に浮かんでいる。
「あなた、ベリアル!?」
「おや、これは珍しい。マリアヌスじゃないですか!」
「その名で私を呼ぶなっ!」
その男を見た瞬間、マリーが激昂した。あんなに怒りを漲らせたマリーは始めてだ。マリーは背に三対六枚の翼を拡げて男目掛けて飛び出した。
「ここで私と貴女がやり合うとこの街が壊滅してしまうぞ? 私は一向に構わんがな!」
「分かっている。一緒に来てもらおう。異空間転移!」
ぐにゃりと空間が歪んでマリーが男と共にそこに吸い込まれていった。大丈夫なんだろうか?
「ウラアアアアアアアアアアアア!」
いや、そんな呑気な事を言っている場合じゃない。変な物体から何かが上に持ち上がった。形的には腕みたいに見える。
「ゴルァァァァァァァ!」
その腕がそのままこっちに振り下ろされた。ホワイトエリアの城の前は公園になっているのだが、その公園の上に直撃し、建物の倒壊などはなかった。
「ひ、酷い。ラビ、私はあの木々を守るから後は頑張って!」
エリンが公園の木々を守る為に結界を張り始めた。変な物体は公園に攻撃できずに戸惑っているみたいだ。
「何が何だかわかんねえけど、こうなったらあのデカいのをぶっ倒すしかねえよ!」
そう言ったのは朱里さんだ。朱里さんは腕をぐるぐる回しながらそこに炎を纏わせていく。
「炎熱獄滅拳!」
なんかいかにもな名前の必殺技を変な物体に叩き込む。ダメージを食らったところは少し焦げてへこんでいる。
「ふむ、物理攻撃は通じるか。ならば、斬るのみ!」
山田さんが飛び上がり、怪物に斬撃を加えていく。身体の一部なのか、いくつかのパーツが切り落とされた。
「クロ、篝火、虹香、総攻撃!」
そこにマリエさんの号令が飛ぶ。大号令だ。まずはクロさん。クロさんはその身を稲妻に変えて、突っ込んでいく。攻撃が振るわれて迎撃されそうになるが、そんなの関係ねぇとばかりに表面を切り裂いている。
続いて篝火さん。五本の尻尾に炎がゆらゆら揺れている。その炎が轟々と燃え盛る。いや、別に熱くはないんだけどね。狐火っていうやつだ。葛葉も時々使ってたよ。まああっちは九本尻尾あるけど。
「呪炎」
それぞれの紫色の炎がそれぞれ意志を持っているみたいに飛んでいく。肉に突き刺さり、そこをジリジリと侵食していく。
「グララララララララ!」
カパッと肉の塊が開いてそこから大容量のエネルギーがこちらに向いた。まとめてこちらを吹き飛ばす気だろうか。
「させんよ!」
虹香さんが巨大化、というか元に戻ったのかな? 大きな身体に戻って口からブレスを吐く。向こうの大容量エネルギー波と相殺しているみたい。普通あんなにエネルギーぶつかったら大爆発起こりそうだけど、そこは虹香さんが上手くやってるのだろう。
みんな攻撃の手を緩めることなく肉の塊に立ち向かっている。ぼくは、やる事がない。グレンが戦っている時にも感じた無力感、それをここでも味わっている。
このままじゃいけない。たとえ通用しなくてもぼくもやらなきゃ! そんな気持ちに突き動かされ、ぼくは敢然と肉の塊に突進する。
「ぼくのツノを喰らえ!」
「ぐぼぉ?」
ぼくの一撃は確かに肉の塊に刺さったはずだ。だけど何のダメージを負った様子もない。必殺技なのに。
「ぐぼぉ!」
肉の塊は何かを横薙ぎにぼくに向けてきた。まるで蚊に刺されて不快だったから追い払おうとするみたいに。
ベチン、と音がした。いや、ぼくにヒットしたんだ。不思議と痛みは無い。でも衝撃は凄まじく、ぼくは吹っ飛ばされてしまった。ツノは折れてない。丈夫なのが自慢なんだ!
肉の塊の暴れが酷くなった。攻撃が聞いている感じはあるがこのままだとどれくらい掛かるかも分からない。何とか一刻も早く止めたいもんだ。あ、こんな時こそ晶龍君とか。いや、来るわけないか。
依然として肉の塊が暴れている。人々はホワイトエリアからグリーンエリア、イエローエリアに脱出して行った。




