第132話:大阪(たいはん)の支配者(亜久台視点)
ベリアル、三分間クッキング()
何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ! 私はこの街の支配者だ! いや、和歌宮との共同統治だったが、和歌宮の小娘は追い出したから私の天下のはずだ。
ジョーカー様に忠誠を誓い、大阪の街を任され、内側から結界に綻びを入れて負担を掛け、更には一服盛って和歌宮を昏倒させてから確保しようとしたというのに。この城の主は私なのだ!
それがなんだ? あろうことかジョーカー様が倒され、二度と目覚めないと思っていたハズの和歌宮がレッドエリアから攻め上って来て、しかもイエローエリアの山田の奴が負けたともなればここに来るのも秒読みであろう。
まずい、まずいぞ? ジョーカー様がご存命なら麾下の魔物を借り受けてなんとでもなったものを。何とか、何とかしなければ。
商業組合員? 奴らも尻に火が点いて居るからな。金に任せて傭兵は大量に雇っておる。食い詰めものの浪人も飼っておるからそいつらも迎撃に出させろ。その間に何とかなる様に考えねば……
「お困りのようだねぇ」
部屋の片隅にいつの間にかタキシードを着た男が立っていた。頭にはシルクハット、手にはステッキ。どこの紳士なのかと問いたい。ここは大阪だから江戸に比べればそういう毛唐の格好をする奴も珍しくはないのだが。
「どうやってこの部屋に入った? 誰も入れないように言っておいたハズだぞ?」
「おやおや、ニンゲン如きの警備で私を止められるとでも?」
ニンゲン如き? どういう事だ? この男は人間ではないと言うことか?
「自己紹介がまだだったねえ。私はベリアル。魔王様の側近を勤めているのだよ」
魔王様! あのジョーカー様よりも上位の存在。江戸を手中にしたあかつきには私を魔王様にご紹介していただけると仰っていたが、その側近の方がどうして?
「魔王様があなたの事をジョーカーから聞いておられてね。見どころがありそうだ、と仰っていたんだよ」
「お、おお! 魔王様が私に!」
やはり、私は認められるべき存在なのだ! 江戸のバカ共は私の偉大さを理解せず、大阪の統括管理官という閑職に回したのだ。
そう、本来は閑職なのだ、統括管理官は。私が実権を握ったからこそここまで権力を持っているが、本来なら京家と商業組合が力を持っているのだから江戸派の存在はお飾りなのだ。
のし上がるまで随分と金も撒いたし、暴力で脅したりした。商人はまとまれば怖いが一人一人ならばそこまででもない。豪商と呼ばれる太黒屋を除いては。
そうして手に入れた地位にあぐらをかかずに更に上を目指して努力してきた。ジョーカー様からの誘いは渡りに船であった。
「聞いてるか? おい、そこのデブ」
「デ、デブ?」
「なんだ、文句があるのか?」
私がデブという言葉に憤慨すると、ベリアル様は驚く程酷薄な笑いを浮かべた。ダメだ、種がそもそも違う。生物としての格が違う。
「まあいい。身の程は弁えている様だからな。見どころがある、というのは魔王様の評価だからな。そこについては疑っておらん」
「は、ははー!」
「そこで、だ。お前にこれを授けよう」
そう言ってベリアル様が取り出したのは一粒の丸薬であった。黒い飴玉よりも小さいサイズのもの。
「そ、それは?」
「これは増強薬だ。飲めばそこら辺のニンゲンでは相手にもならん」
「私に、飲めと?」
「いやいや、私とてこれは欲しいものだ。魔王様に賜りたい。だがねぇ、これは魔王様からの恩賜なのだよ。私が横取りする訳にもいかん」
ベリアル様が大変残念そうな顔をする。ということはあれが魔族に伝わるという増強剤。
「飲むか飲まぬかは貴様の自由にすれば良い。ただし、飲むならば我らは貴様を同胞として迎えよう」
つまり、人間を捨て、魔族に付け、という事か?いや、あの日ジョーカー様について行くと決めた時から私は人間を捨てたのだ。私は迷うことなく丸薬を飲み干した。
「ふおおおお、これは、身体に、力が、み、な、ぎっ、て、き、た!」
薬を飲み込んた腹の辺りに強い力が集まってくるのを感じる。やがてそれが全身に広がっていった。身体が力で満たされる気分。とても清々しい。
どんどん湧き上がって……いや、そろそろいいんじゃないだろうか。確かに私はデブだから身体中に光が巡るまで時間がかかるだろう。だが、これはあまりにも……
むっ? 私の皮膚がボコボコと波打っている。しかし、痛みは感じない。むしろキモチイイ。そういえば一回り大きくなったような。これは身体に力がしっかり入るように細胞を作りかえているのだろう。ふははははは。私は無敵だ。
無敵無敵無敵無敵! あばばばば、ンー、キモチイイ! オデ、チカラ、アリアマル! ゼンブ、ゼンブ、コワス! ウラアアアアアアアアアアアアアア!




