第127話:とある下っ端門番の悲運
一応、レベル的には隊でも上の方なんですよ、こいつ。
イエローエリアの門。レッドエリアから剣呑な雰囲気の集団が通り抜けようとしている。しかも、その一人はレッドエリアの朱里。その凄まじいボディもさることながら、豪腕を振るっての殲滅力はもっと凄まじい。
「どけどけどけ! 朱里様のお通りだ!」
俺たち門番が何人束になって掛かっても止められそうにない。朱里一人でもこうなのだ。その他にもジジイや何故かいるホーンラビット辺りはともかくとして、どう見ても只者じゃない感のある美女二人、更にはどこかで見た事ある様ながっしりした体格の中年男性が一人。それにテイマーらしき女が一人。確か幕府の御免状を持っていたはず。御免状を出せば普通にフリーパスだろうに。なんで暴れているのだ?
「道を空けやがれ、ヒャッハー!」
どこかの世紀末珍走団みたいな叫びをあげて蹂躙していく。こ、これ以上はダメだ! えっ? あ、いや、俺は怖いので早々に逃げているんだけど。こんなの止められるかよ!
「おや、これは随分なことになっていますね」
首の後ろを何か冷たいものが通り過ぎた気がした。あ、あ、あ、隊長、山田隊長がきた! これで勝つる!
「報告を」
あ、これ、俺に言ってんのかな? はい、答えます。答えますとも!
「レッドエリアより、武装集団がイエローエリアに侵入を試みて現在応戦中です。相手にはレッドエリアの朱里も居ます」
「ほほう? 朱里に、テイマーの少女、それに得体の知れない二人の美女、後は、これはこれは、太黒屋殿ではありませんか」
太黒屋と言えば商業組合のトップ! そんな方が何故わざわざレッドエリアに? 普通は出かけるにしてもグリーンエリアまででしょうに。
「仕方ありません。私が出るとしましょう。あ、あなたは抜刀隊を呼んできてください」
抜刀隊、レッドエリアからの不法侵入者を取り締まる為に結成された、隊長直属の粛清組織。三刃と呼ばれるトップは凄まじいまでの腕を持つと言われる。
俺は急いで溜まり場に走った。いつもの待機場所にいると思われる。門番の仕事などしないでブラブラしているのだ。それもこういう非常事態の時のため。
「失礼します!」
扉を開けると四つの目がこちらを見ていた。そして、俺の首に巻きついている、これは……
「気持ちよくなってるところに怒鳴り込むたぁ、いい度胸してんじゃねえかよ」
「全くよ。これで大したことなければその首落ちるわよ」
鋼糸が巻きついた首から血がたらりと落ちる。脅しでもなんでもない、殺される!
「も、申し上げます。山田隊長より、招集命令が降りました! レッドエリア方面の門にて侵入者と交戦中であります!」
それを聞いて場が歓喜に包まれたように感じた。
「ひひっ、待ちわびたぜ。暴れていいんだよなあ」
「全く、血の気が多いんだから。でも、悪くはないわね」
「ならば我も出るか」
突然、見えてないところから声が聞こえた。そちらには闇しかない。だが確かに居るのだ。
「案内してもらおうか」
「は、は、はい!」
俺は後ろに三人を連れて門へと向かった。一人はいかにも戦闘狂といった感じの男。おそらくはこいつが「鎌鼬」由良正雪。手足が異常に長い女は「女郎蜘蛛」紫菫。そして姿がゆらゆらしていて見えないのは「陽炎」闇竜天白。
詳細は名前しか知られてないが近付くな、と言われた三人だ。まさかこの俺が三人ともを見る事になろうとは。
門の前に着いた時、膠着状態に陥っていた。山田隊長が困った様子で相手を見ている。
「隊長、連れて来ました!」
「御苦労。三人ともお仕事だよ」
山田隊長が声を発すると三人はその場に跪いた。明確に上下関係が出来ているのだ。
「困った事に向こうに姫様がいらっしゃるんだよねえ」
姫様!? と言うと和歌宮様? いやいやいやいや、この大阪のトップじゃないですか! 雲上人ですよ!
「お通ししたいのはやまやまだけど、統括管理官殿から見つけ次第捕縛、と言われているのでね。申し訳ないが大人しく渡してくれるなら見逃してあげるよ?」
ニコニコしながら話しかける。向こうは朱里が前で交渉している。あれは交渉というのだろうか? 誰が渡すか、バーカ! としか言ってないが?
「だろうねえ。それなら仕方ない。みんな、やるよ?」
「ボス、俺たちゃ何したらいい?」
「朱里と後ろの姫様は私がやろう。君たちは残りを頼むよ」
「御意」
ゆらりと立ち上がる三人。向こうも戦闘態勢に入る。美女二人とテイマーの女が戦うらしい。まあ爺さんも太黒屋殿も戦闘向きでは無いからなあ。それなら俺は……あ、あそこにホーンラビットがいるじゃねえか。あれを捕まえて人質、いや、物質にするのはどうだろうか? 我ながらナイスアイデア! ホーンラビットくらいなら俺でも勝てそうだからな!




