第126話:京家公女和歌宮(和歌宮視点)
和歌宮様視点。熾天使様、バンザイ!
目覚めたらレッドエリアの救護院とかいう場所であった。そうじゃ、レッドエリアは貧困層が多いでな。病に倒れるものが少しでも減る様にと設立したのじゃったな。
目の前には年老いた男が一人。それに他にも居るようじゃが。
この男、幻庵とやらから妾がジョーカーの攻撃を防ぐために結界を張った後に亜久台の奴が襲撃して来たらしく、力を使い果たして気絶した妾がここに運び込まれてきたと聞いた。
なんという事じゃ。気絶したのも不覚であるが飼い犬に手を噛まれようとは。いや、幕府のものを信用したのが良くなかったのかもしれん。
それならばすぐにでも妾が立てば、城を取り戻せるはず。そう思って意気込み立ち上がったら……裸であった。ぶ、ぶぶぶぶ無礼者! 妾を裸にひん剥くなど、何人であっても許されぬ!
そう思っていたら犯人、いえ、してくださったのは天使様、それも熾天使という至高の存在。しかも妾を助けてる為にしていただいたとなればなんの否があろう。感謝致します。
妾を助け出してくれた朱里、確かこやつはレッドエリアの責任者であったな。よく妾のところまで助けに来てくれたものよ。
しかし、城は取り戻さねばならん。朱里に幻庵が協力してくれるとは言っているが。ん? なんかぴょんぴょん跳ねてるホーンラビットが居るな。なんじゃ、主も協力してくれるというのか? 頼もしいヤツめ。
「ラビきゅんがやるなら協力してもいいわ」
熾天使様から協力のお言葉を賜った。びっくりだ。この、ホーンラビットはそこまで大切にされているのか。
「まあまあ、とりあえず今はこの薬を飲んで落ち着いて」
ふと声をかけられた方を見ると、エルフがそこに立っていた。この都市にエルフなんかいただろうか? いや、いたら我が居城に招いているはず。
「あー、私はエリン。そこの熾天使のマリーとホーンラビットのラビの友だちだよ」
「あら、エリンの友だちになった覚えは」
「連れて帰らないけどいいの?」
「……申し訳ありませんでした」
どうやら熾天使様と気安い口を叩けるくらいの間柄みたい。という事はハイエルフというやつだろうか? となればこの薬はハイエルフの妙薬?
エリン様の手元にある薬瓶を見る。中には薄い青っぽい液体が入っている。ポーションの類だろうがなんのポーションなのかは分からない。
もちろん、熾天使様のお仲間なのだし、疑う余地などない。一気に流し込む。身体の芯、へその下辺りが熱くなるのを感じた。これは、力が漲ってきた!
「魔力回復薬だよ。エルフ特製のね」
「そのような貴重なものを妾に。感謝致します」
とんでもない。辛うじて起き上がれる、行動できるくらいの魔力しか無かったのに、あっという間に魔力が満ちていく。エリン様曰く、大気の魔力を効率よく取り込み、自分の身体の中で循環させながら増やしていくんだそう。
しかし、これだけの人数では多勢に無勢。あの亜久台は金を持っておるからな。何とか対抗すべく金を集めんといかん。えっ? そのまま殴り込む? い、いえ、それでは世論操作をされてこちらの不利になります。
賢い妾は考えました。商業組合を頼ろうと。今のトップの太黒屋の奴は亜久台の事を嫌っておったはずじゃ。朱里に言えば呼んできてくれるという。それまでしばし待つか。
見慣れん顔が増えたの。お主らは? なるほど、テイマーのマリエと申すか。何? 幕府の御免状じゃと? むむっ、という事は亜久台の手先か? 何、違う? 御免状はジョーカーを倒したら手に入った……ジョーカーを倒したじゃと!? これは、とんでもないお人じゃった様じゃ。
しばらくしたら籠が着いてそこから太黒屋が顔を出した。妾を見るなり「ご無事でようございました」と頭を下げてきおった。妾は太黒屋を労うと共に、亜久台を倒す為に、城を取り戻すために協力する様にと要請をした。
「協力したいのはやまやまですが、何分、商業組合でも意見が二分しておりまして。大半は亜久台についてしまっております。副組合長の越智子屋を筆頭に向こうが七割といった所でしょうか」
七割が向こうについたという事を聞いて頭が痛くなった。機を見るに敏なのが商売人とはいえ、変わり身が早すぎんか?
これは、万事休すかのう。太黒屋はそれでもこちらにつく者は多くいると言うが。
「悩んでも仕方ないわ。力づくで何とかしてしまえば寝返るものも出てくるのでは無いかしら?」
熾天使様のお言葉に全くその通りだと思った。だいたい、熾天使様がいらっしゃるのだ。負けるはずもない。
「では、私、朱里が先導をつとめます」
幻庵は救護院に残し、ジョーカーを倒した英雄たるマリエ殿にも助力を乞い、我らはホワイトエリアにある妾の居城へと向かった。第一関門はイエローエリアの門である。ここには確か、人斬りが居るのでな。




