第125話:姫様復活!
和歌宮様、名前の元ネタは小学校時代のクラスメイトの名前と公女和宮様から。
マリーが姫様と肌を合わせる。さすがに姫と呼ばれるだけあって透き通るような白さをしている。マリーの裸が綺麗なのは今に始まったことじゃないからスルー。
「それじゃあやりますね」
マリーは周りをフィールドで……囲まないんだ。あ、魔力は自然界のものを取り入れる必要があるから空間を閉じれない、と。よく分からないけどなるほど。
マリーの身体がほのかに光り、そんなマリーが姫様の身体に自分の身体を重ねていく。姫様の身体も薄い光が包んでいく。
そんな感じで退屈な時間が随分続いた。あまりに暇だからどこかに遊びに行こうかと思ったくらいだ。なんなら裏庭の草、食べてても良かったんだけど。地上まで上がるのも手間だなと思って。
そうこうしてたらマリエさんたちが帰ってきた。エリンが幻庵先生に調合室の場所を聞いていた。いや、エリン? 調合室なんかエリンが使ってるの見たことないんだけど?
夜が更けて、さすがにそろそろ寝る時間じゃないかなってタイミングで姫様が目を覚ました。
「う、ううっ、ここは……たれかある?」
「おお、姫様、お目覚めに!」
「むっ? そなたは?」
「レッドエリアの医師、幻庵と申します」
レッドエリア、という単語を聞いて姫様は視線を落とした。そうか、本来なら自分のお城で目覚めるはずだものね。
「妾は、かどわかされた、のか?」
誘拐なんてしてない、いや、亜久台とかいう奴が姫様の居場所を襲ったのは昏睡してからだもんね。状況把握ば出来てないか。
「姫様、我々は姫様を匿っております」
「匿う……だと? ジョーカーとやらが侵略してきたのか?」
「いいえ、その最悪は姫様のお陰で免れました。ですが、統括管理官が倒れた姫様を狙って」
「何? 亜久台の奴が?」
姫様は相当びっくりしているみたいだ。どうやら亜久台というやつはひたすら小物的なムーブをしていたみたい。
「妾の知っておる亜久台の奴は、腰の低い、太ってはいるが、お調子者の軽いヤツじゃったがなあ」
「ジョーカーが来てから奴は変わりました。いえ、ジョーカーが来る前から変わっていたのかもしれません。今ではこの街は奴の思うままです」
「むむっ、それならばすぐにでも城に戻って亜久台を問い詰めねば」
姫様はすくっと立って歩き出そうとする。全身裸のままだから上からかけてた着物がはらりと落ちる。
「ひ、姫様! お召し物を! どうか、どうか!」
「な、なななななな、なんじゃ! なんで妾が裸なのじゃ!」
両腕をクロスさせて胸の前で遮蔽物にして、そのままペタンと座る。いや、遮蔽物が必要な程には育ってない……あ、マリーやエリンよりかは大きいけど。
「まだ無理はされませんように」
「な、なんじゃ? 背中に羽根……天使なのですか?」
「はい、熾天使ですね。マリーと申します」
「おお、天使様とは御無礼を致しました。妾は和歌宮と申す京家の姫にございます」
おや、姫様の態度が変わったなあ。なんで? と思ったらなんでも京家というのは巫女の家系で、創始者は昔の天使、それも主天使クラスのものだったとか。いや、天使の階級とか知らんし。
待ってましたとばかりに天使の階級をマリーが滔々と語る。天使は一番上位がマリーたち熾天使、これは全天に十二体しか居ないらしい。その下に智天使、座天使、主天使と続くらしい。へー、マリーって偉かったんだ。
で、京家にはその天使の力の名残があって、それで街を守ったりしているんだって。なるほど。人間との共存ねえ。
「やはりそうでしたか。道理で普通の人間よりも魔力量が多く、私との親和性も高かった訳です」
「熾天使様が直々に私を? なんと恐れ多い!」
だから服着ないと幻庵先生いつまでも頭上げられないよ?
「……こほん。幻庵とやら、すまなんだ、続きを話してくれ」
「は、はい!」
そうして服を着てから幻庵先生が話し出す。朱里さんが姫様を背負って脱出し、ここまで逃げてきたというところまで話した。
「そうか。大儀であった、朱里とやら」
「ははっ、勿体ないお言葉!」
「して、何故妾は城に戻れんのか?」
「今戻れば亜久台の手の者に暗殺される可能性が高いですからな。真正面から戻ろうと同じです。城に入ってしまえば奴の思うがままでしょうな」
姫様は悔しそうに唇を噛む。あんまり噛むと傷がしみて熱いものが食べられなくなっちゃうよ?
「ならば城を取り戻さねばならんな。朱里、幻庵、協力してくれるか?」
「はっ、勿論です!」
「この老体の生命に替えましても」
「よさぬか。生命など賭けられても困る。妾はそこまで重いものは背負えん」
苦笑しながら言う。グレンと同じ顔をしている。仲間が死ぬのが耐えられないって顔だ。協力、してあげたいなあ。




