第124話:大阪(たいはん)の闇
いかにも悪いやつな名前にしたのがやっと出てきました(笑)
幻庵先生はまじまじとぼくを見る。よせやい、そんなに見つめられると照れちゃうじゃないか。
「こやつがなあ、うむむ」
「信じられないと思うのは分かるけど、実際倒したのはこの子だから」
うん、ぼくは記憶ないんだけど、モンドさんが「成敗!」とか言って切り倒したりしたんじゃないの? だいたい、マリーが知ってんのはなんでだよ?
「そうか、ありがとな」
そう言ってぼくに頭を下げる幻庵先生。やったかどうか分からないことで頭を下げられるのはちょっと居心地悪い。
「それで、蒼尉の脚が治ったってのは?」
「私が治してあげたのよ!」
マリーが大してない胸を張る。張るだけの事はしてるんだけど、いかんせん迫力は無い。
「あんたが? よっぽど腕のいい治癒術師なんじゃな」
腕がいいというか人間レベルでは治らないものも治すレベルっていうか。
「で、まだここにいらっしゃるんだろう?」
「あんなところに戻す訳にもいかんからな。まさか」
「そのまさかだ。姫様の病気を治してもらおうと思ってな」
姫様? そう呼ばれる人間がこんなレッドエリアの奥深くにいるというのだろうか?
「わかった。朱里が信用したんなら大丈夫だろう」
そう言うと幻庵先生はあばら家の中に入っていった。ぼくらは幻庵先生の後を追う。
家の中は思ったほどボロくない。というか整然と片付けられていた。そのまま奥に進んでいく。下に降りる階段があり、幻庵先生はそのまま下に降っていく。
やがてぼんやりとした灯りが着いている場所に辿り着いた。そこの扉を開くと明るい部屋の中にドームに包まれた状態の年齢にして十七、八歳くらいの少女が横たわっていた。
「お顔の色は悪くなっていないようだ」
「うむ、眠っておるだけだからな」
朱里さんと幻庵先生は二人だけでわかったように会話している。
「ええと、この方はどなたですか?」
「この方は京家の姫君、和歌宮様じゃ」
そんな説明では分からないよ! ほら、マリエさんもポカーンとしてる。マリーとエリンもわかんないみたい。
「この街がジョーカーの手下に襲われた時に、街を守る結界を張り続けて、侵略を防いでくれたお方じゃ」
つまり、結界術師って事かな。朱里さんの追加説明によると、この街は江戸の将軍と京家の当主の二重支配なんだそうな。江戸から派遣された統括管理官と京家の姫がお互いを監視しているのだが、ジョーカーの襲来でそれが崩れたらしい。
で、街を守るのに姫様は結界を張ったが、統括管理官は何もしなかった。逃げるとかそういうのもなかったらしい。怪しいよねえ。だってこないだのあのデブでしょ?
姫様が昏睡されて、統括管理官がドカドカと京家のところに入り込んできた。ジョーカーが攻めてきたのは結界をサボっていたからだと言いがかりをつけて。昏睡状態から目覚めない姫様を朱里さんは懸命にこのスラムの幻庵先生のところまで連れて来たという事だった。
現在、この街は統括管理官である亜久台完太蔵が好き勝手にしているそうな。それだとぼくらも危なかったのでは?とか思ったが、あのホテルはそういうの関係なしに守ってくれる場所なんだそうな。
「姫様が目覚めてくださればあの様なやつなど」
ぼくはマリーの方を見た。
『何とか出来そう?』
『出来ない事はないです。単なる魔力枯渇ですからね』
魔力枯渇。普通なら一晩寝たら回復すると思うんだけど、姫様は違うのかな?
『今まではこの辺りまでジョーカーの瘴気が来ていたみたいですから。あと、この姫様とかいう子の許容量が大き過ぎて回復が間に合っていないのです』
枯渇するまで使ったら回復するまで時間がかかるって事か。それだけ凄いものを持ってるんでしょうね。
『ちょっと、私も話に入れてよ。そういうことなら私が起きた後の回復早める薬を処方してあげるから』
『もちろん、私が目覚めるまでの魔力の吸収を助けますね』
エリンも協力してくれるみたい。
「よぉし、じゃあマリエさんだっけ? もう一度森に行こうか。薬の材料取りに行かなきゃ」
「帰ってくるまで私が回復させておきますね」
エリンの言葉にマリエさんはびっくりしながらも頷く。エリンなら一人でも大丈夫そうだけど、門の出入りはマリエさんが居た方が面倒がない。
マリーは幻庵先生にドームの解除をしてもらった。横たわっている姫様の服を脱がせようとする……っておい!
「全身から魔力を取り込むのだから裸でないと効率悪いわよ?」
マリーがケロッとしながら言う。医療行為だもんね。幻庵先生は朱里さんに後を任せてそのまま上に行ってしまった。一応見張らないといけないけど、姫様の裸は恐れ多いという事なのだろう。ぼく? 人間の裸なんて見て何が楽しいのさ?




