第122話:天使の祝福
見た目は絶世の美女、理性は三歳児、頭脳はポンコツ、その名は熾天使マリー!
他には誰もいない。蒼尉さんはぼくに微笑んだ。
「こっちにおいで」
ぼくは素直に抱っこされた。優しい抱き方だ。線は細いのに身体つきはしっかりしている。体幹を鍛えてたんだろう。グレンも腕だけ、脚だけ鍛えててもダメだって頑張ってたしね。
「ラビ、ここですの?」
そして入ってきたマリー。蒼尉さんが見とれてる。うん、先入観無しで見ればマリーって美人らしいんだよ。まあ天使だからね。
「あ、あの……」
「おや、脚が不自由な様ね」
「は、はい、以前にやられて下半身を」
「まあ気休めは言いませんので奇跡でも起こらない限りはそのままです」
そっかぁ、マリーでもダメなのか。それは残念だ。マリーに治してもらいたかったのに。まあ出来ないなら仕方ないよね。ありがとう、マリー。もう帰ってもらっても。
「ででで出来ないなんて言ってません! ええ、やりましょうとも! ラビきゅんがそれを望むなら!」
マリーは布団を剥ぎ取る、膝から下が無くなってるのがよく分かる。むしろ失血死してなかったのが不思議なくらいだ。
「もう組織が定着してますね。これは難しいかも」
『無理そう?』
「そ、そんな事はありません。私に不可能はないのです!」
マリーはまずはフィールドを展開して、その中に蒼尉さんを閉じ込めた。ぼくはベッドから転がり落ちたよ。
「ラビ、しばらくの間この部屋に誰も入らないようにしてくださいな」
『任せてよ!』
そう言ってぼくは扉に向かう。ちょうどそこに仁太が通りがかった。
「おい、お前! 誰だよ! 蒼尉にーちゃんに何してやがる!」
部屋の中に押し入って来ようとする仁太。ぼくは頑張って仁太のみずおちに頭突きをかました。頭の角は危ないから折っといた。
「ぐぼぉ!?」
みずおちに衝撃をくらって仁太は吹っ飛び、気絶した。
「何の騒ぎ……仁太!? おい、誰だ、こんなことしたやつァ!」
朱里さんの顔に怒りが満ちた。そして視線を上げた先には、角の折れたぼくとなにかに包まれている蒼尉さん、そしてそこにいる謎の美女。
え? 荷車運んだ時にあってるんじゃないかって? いやいや、あの時はエリンもマリーも人から姿を見えない様にしてたからね。
「なんだ、てめぇはよぉ! 蒼尉から離れろぉ!」
怒りの鉄拳ぱーんちが飛んでくる。それをとめたのはエリンだった。
「はいはい、ストップ。ちょっと落ち着こうか」
「だ、誰だよ、てめぇも!」
「私はエリン。ラビの元仲間、いや、私は今も仲間と思ってる」
「あのホーンラビットか? マリエの従魔じゃねえってのは聞いてるけどな」
朱里さんも落ち着いてきた様だ。エリンが木のツタで拘束してるから大人しくせざるを得ないというか。しかし大きいおっぱいが縛られてる様っていうのはなんかこう卑猥だよね。
「それでラビ、これは?」
『中でマリーが治療してる』
「そうかい」
『中に誰も入れるなって』
「そういう時は私を呼ぶんだよ、ラビ。それにしてもそこまでしなきゃいけないほどなのかい?」
エリンがびっくりしている。まあエリンは出会ったばかりの頃に片腕落とされた冒険者の傷を再生して腕を生やしたマリーを見てたりするからね。あれを「教会の秘儀です」で通したマリーもすごいけど。
しばらく部屋の外で待っている。途中でマリエさんがご飯が出来たと呼びに来たのでぼくらは食堂へ。エリンは食事しなくていいよ、と見張りを買ってでてくれた。
昼食は様々な果物、キノコのスープ、鹿肉の塩焼きである。果物はぼくも好物ではあるけど、そこまで困ってないし、鹿肉食べよう。
はむっと口の中に鹿肉を入れるとえもいわれぬ旨みが口の中に拡がった。ぼくもだいぶ肉を食べなれてきたなあ。いや、野草の方が美味しいと思うけどね。焼いた肉よりかはどっちかって言うと生の方が……
「終わったみたいだよ」
食事をしてのんびりしているところでエリンが呼びに来てくれた。ぼくらは蒼尉さんの部屋に向かう。
「ゆっくり立って、そう、その調子。久しぶりの感覚だからまずはそれを取り戻してください」
「はい、はい、ありがとう、ございます、天使様」
そこには優しく微笑む絶世の美女と自分の足が地面について居ることに喜びの涙を流す蒼尉さんだった。
「蒼尉!」
朱里さんがそれを見て部屋に飛び込む。そして思いっきり蒼尉さんを抱き締めて「足が、足が!」って言いながらわんわん泣いてるんだ。蒼尉さんはそんな朱里さんの頭を撫でている。
「蒼尉にーちゃん!」
「にーちゃん!」
「蒼尉兄様!」
あとから次から次へと部屋の中に入って蒼尉さんを取り囲む。みんなわんわん泣いている。まあ無理もないと思う。
ドアのところではマリエさんがもらい泣きしていて、篝火さんと虹香さんが呆然としていた。どれほどとんでもない芸当かわかったんだろうね。




