第120話:森のなかの邂逅
エリンとマリーはセットで出すつもりでした。マリエとマリーの名前被りは失念してた。
「シロちゃん、私たち、狩りに来たんだけど」
マリエさんがそう言うとシロさんは頷いて森の中に消えていった。寡黙な人だ。いや、虎か。
しばらく草をはむはむしながら待っていたらシロさんはデカい鹿を咥えて帰ってきた。デカいデカい。これはどうするんだろう。解体とか? お肉とるなら必要だよね。
「ありがとう、シロちゃん。よし、川まで運ぶよ」
そう言って川の方……場所はよく分からないから森の中に入って行ったんだけど、に向かった。少し開けた場所に、小さな泉と川があった。水は綺麗そうだ。
マリエさんが腕まくりをする。虹香さんが木の枝に鹿を上から吊るした。
「じゃあ、やるよ」
つぷり、とお腹に刃物を差し込んでいく。そのまま裂く様に顎の辺りまで刃物を走らせる。どぷりと血が落ちる。マリエさんは身体に血を浴びるのも厭わずにそのまま解体を進めた。
内臓に傷はついていない。これは慣れなのか天性のものなのかは分からないけど、マリエさんはそういうのに詳しいみたい。
首は刃物だと落としにくいみたい。どうするのか分からないけど放置だろうか……とか思ってたらシロさんが頭を齧って食べ出した。なるほど。噛み砕いてるけど痛くないのかな?
皮は剥いでなんか丁寧にしてる。まさか鹿の皮を被って変装したりするのかな? あ、材料になるの? 売れるんだ。
「ふう」
マリエさんがペタンと地面におしりをつく。解体が終わったみたいだ。お肉が沢山、皮がひとつなぎ。ツノとまあ解体は終わった。後はどうやって持って帰るかなんだけど。
「お困りのようだねえ。手伝ってあげようか?」
ん? この人をおちょくるような言い方、どこかで聞いた事あるんだけど、まさか。
「エリン!?」
「ごめーとー。今そっちに行くねー」
にゅるっと近くの大木の幹からエリンが出て……なんだ? 出てこないの?
「エリン、ズルいですよ! 私も、私も連れて行きなさい!」
「いや、無理だって。だいたいこのトンネル、精霊形態でしか通れないんだから」
「ふっふっふっ、私の新技、星霊体をみなさい!」
あの、ちょっと、ぼく用事を思い出したから先に大阪に帰っちゃダメ?
「らぁーびぃー!」
しゅぽん、と木の幹からエリンよりも先に何かが飛び込んで来た。そしてそいつはぼくに抱き着くとそのまま胸ですりおろしてくる。
「ああ、この感触! まさしくラビですわ!」
「マリー、痛い、痛いんだって」
「私も胸が張り裂けそうなくらい痛い日々を過ごしてきました。いえ、この「いたい」は一緒に居たいという意味ですね!」
そんなこと言ってない! いや、会えて嬉しくないわけじゃないけど、すりおろしはやめてぇ。
「はいはい、マリー。そこまでにしようか。生きてるかい、ラビ」
「エリン〜、助かったよ。って違う。どうして二人がここに居るのさ!」
「いやあ、しばらく森を通ってなかったでしょ? だからラビの姿が見にくくてね。そしたら鹿を狩ってお困りのようだったからね」
どうやらエリンはぼくのことを見ようとしたんだ。まあブリジットだってイフリートのおじちゃんだって見てたんだからそりゃあまあ見れるか。
「で、マリーは?」
「私は、ラビ人形を愛でながらゴロゴロしてたら」
待て、ぼくの人形ってなんだ?
「……ゴロゴロしてたらエリンが木のゲートを通ってどこかに行こうとしてたから覗いたらラビがいました」
いや、だからぼくの人形って
「それで、私はいてもたってもいられず、星霊体になって割り込んだんです」
……答えてくれそうにはなさそうだ。でもまあ何となくわかった。そうだ、マリーが来てるなら蒼尉さんの足も。
「あ、あの、ラビ君、その方々は?」
マリエさんが声を震わせながらこっちを見てる。篝火さん、虹香さん、クロさん、シロさんは完全に警戒態勢だ。
「葛葉様といい、このお二人といい、正真正銘のバケモノやねえ」
「タイマンでちょい不利、一斉にかかればどちらかは」
いやいや待って? なんで争う前提で話してるの?
『二人とも自己紹介して』
「はあい。私はマリー。あなたとは名前が似てるわね。熾天使と言えばわかるかしら?」
「私はドライアドのエリンだよ。ラビの元仲間だ」
マリーはともかくエリンは戦闘系じゃないと思うんだけどとか思ったら魔法も使えるし、森の中ならマリーにも負けないんだって。だからマリーが微妙に大人しいのか。
「私は、テイマーのマリエです。この子たちはそれぞれ、篝火、シロ、クロ、虹香です」
マリエさんも仲間を紹介する。もう、そろそろこの緊張感やめない? さすがに話すのに疲れるんだよね。あと、マリーはいい加減ぼくを地面に降ろして!




