第119話:ブラックタイガーはエビだけどホワイトタイガーは白虎
シロちゃんをいつ出すか待ってはいました。おれたちゃ街には住めないからにー
「お客さんかい?」
ベッドに座ったまま蒼尉さんはそう言った。
「そうだよ。うちの孤児院を手伝いたいんだってよ。変なやつらだよなあ」
「そうですか。ご厚意に感謝します」
素直に頭を下げた。この人はいい人そうだ。ふと見るとマリエさんの財布をスった少年がちょっとアワアワしている。
「仁太! 来てくださった皆さんにちゃんと詫びを入れな」
「朱里ねーちゃん……オレ……」
「自分の口から謝んな」
何か躊躇うような素振りを見せてはいたが、最終的には頭を下げた。
「あの、昨日はすいませんでした!」
すいませんでした、の内容は言わないつもりだろうか? いや、言いたくないのかもしれない。だって蒼尉の為にしたんだもんね。自分のせいで罪を犯したと言われたら……
ぼくだって、グレンの為に、と何か罪を犯したのをしられるのはとても辛い。いや、ぼくに何か罪が犯せるかっていうのも疑問だけど。もちろんグレンがぼくの為に罪を背負うのも嫌だ。
「いいですよ、朱里さんからも謝罪はしてもらいましたから。それよりそろそろご飯にしましょう」
マリエさんがニコニコしながら言ったんだけど、孤児院の子どもたちはキョトンとしている。
「さすがに飯にゃぁ早すぎんだろ?」
「えっ? でもお昼ご飯の時間はもう過ぎてますけど」
「お昼ご飯? なんだそりゃ? 飯を一日に何回食うつもりだよ」
朱里さんとマリエさんの問答に首を傾げていたが、どうやら大阪では朝と夕でガッツリ食べる一日二食らしい。もちろんマリエさんは一日三食。ぼく? ぼくは食べれる時にいつまでも。
そうこう言ってる間にマリエさんは篝火さんにお金を渡して買い物に行かせた。その間に家の周りを見回るという。裏には裏庭があって小さいながらも畑の様な跡があった。
「畑はあるんだけどよ。種もねえし育てるノウハウもねえからよ」
「なるほど……」
むむむ、と難しい顔をするマリエさん。いや、畑とか無くても森に行けば食べるものなんていくらでもあるじゃんねえ。
「戻ったよ」
しばらくすると篝火さんが両手に抱えるほどの大荷物を持って帰ってきた。根菜類が多いなあ。
「じゃあお料理するから誰か手伝ってくれる?」
マリエさんがそう言うと、女の子が数人と男の子が一人、前に出てきた。マリエさんはにこやかに笑って水汲み、簡単な皮むき、具材の切りをやらせた。マリエさんはそれらを見ながらスープらしきものを作っている。
「マリエのスープは美味しいからね」
ぼくも旅の間にマリエさんがスープ作ってるのは見た事ある。食べてないんだけど。汁物は熱いんだよ。ぼくは草を選ぶね。マリエさんも無理にとは食べさせてこなかったからなあ。
マリエさんのスープに切った野菜をぶち込んでトロトロと煮る。塩はこの街ではポピュラーな調味料で安価でどこでも手に入る。マリエさんは塩で味付けをして、朱里さんに差し出した。
「味見します?」
「……ああ」
朱里さんは受け取って一気に飲み干す。いや、汁物で具材もあるのに飲み干したよ? 虹香さんはあれくらい私でもできるみたいな顔してたけど。
「こりゃあ美味いね。おい、蒼尉も食べてみな」
そう言って朱里さんが蒼尉さんにスープのお椀を渡す。ベッドの上でゆっくりと口をつける蒼尉さん。
「確かに。これは身体にも良さそうだね」
朱里さんも蒼尉さんも食べて問題なさそうなので子どもたちにも振る舞う。どうやらお腹空いてる子たちは多かったようでスープは飛ぶように売れた。
「さて、じゃあ昼からは私たちは出掛けてきます」
「出掛ける、だって?」
「はい、門の外に」
門の外には南の方に森があったはずなのでそこで狩猟でもするつもりだろう。
「そうかい……まあレッドエリア出るならアタイにはどうにも出来ない。でも、気をつけな。最近あの森にはとんでもない化け物がいる。人食い虎だ。出会ったら逃げるんだよ」
なんだかんだで忠告してくれる朱里さん。あれ? マリエさんがなんか乾いた笑いを浮かべてる気がする。
門番に見送られ、街を出て南の森へと目指す。草原にもそれなりに生き物は出てくるけど、クロさんが威嚇すると逃げていく。まあぼくでも逃げるよね。まあぼくは誰が相手でも逃げるよ!
森に入って少し歩くと前からすごいデカい白の塊が歩いて来た。白の塊、それは見事な毛並みのホワイトタイガーだ。かなり強いと思う。いつでも逃げられる様に……ってぼく以外逃げようとしない?
「シロちゃん」
マリエさんが手を広げるとホワイトタイガーはゆっくり近付いてきて頭を撫でて欲しいと言わんばかりに姿勢を低くした。
「あ、ラビ君は初めてだね。ホワイトタイガーのシロちゃん。よろしくね」
そう言えば居るって言ってましたね。まさかこんなところで出会うとは。




