第115話:私たち、面会希望です!(低音男声)
面会Part1。光と影。
「この街の商業組合長を拝命しております、太黒屋惣右衛門と申します」
がっしりした身体付きの中年男性は部屋に入るなり、座って指をつき、頭を下げた。丁寧なご挨拶だ!
「あの、テイマーのマリエです。こちらは私のパートナーの篝火と言います」
びっくりしながらも挨拶を返すマリエさん。うん、まあ交渉は篝火さんがやるにしても悪くない反応だと思う。
思えばグレンは交渉とかに向かない人だったなあ。だいたい交渉してたのエリンだもんね。いや、一度ブリジットなね任せたら、「愚民に下げる頭などないわ!」とか言ってたからね。一発アウトだったよ。
「そうでしたか。いや、可愛らしいお嬢さんだ。是非とも仲良くして頂きたいものですな」
「ありがとうございます。あの、こんな朝早くからどのようなご要件でしょうか?」
マリエさんが追従には乗らないとばかりに要件を促す。お世辞とか言ってもダメなのさ。
「そうですな。では、早速ですが、本題に入らせていただきたく。皆様にはこちらに定住されるご予定はおありですか?」
定住!? あー、大阪の街に住みますかって事? ぼくはどの道街には住めないから選択肢は無いんだけど、マリエさんたちは定住出来るならそれもいいんじゃないかな?
「わっちらは定住するんもええと思いますけど、ラビはどない?」
わざわざ篝火さんがぼくに向かって聞いてくる。ほら、惣右衛門さんがキョロキョロしてるよ?
『今ここで旅を終わらせるかっていうならそれは嫌だ。ここには留まらないで旅を続けたい』
「ラビがそう言うんなら」
篝火さんがぼくに言ってきた。これは、きっと、この後も大阪を出て旅を続けるか、というところから来ているのだろう。
「お留まりいただけない、と?」
「ええ、まあ、そうなりますね」
「それは残念です。この宿に泊まられている間、何か困った事がありましたら私共を訪ねていただければお力になりますので」
残念そうにしながらも再び頭を下げて、そのまま惣右衛門さんは帰って行った。これはなんなんだろう?
「まあ、このホテルに泊まるような人間、それも根無し草のテイマーなら街にとどまってくれれば上様とやらの覚えがめでたくなるとか思ってるんでしょう?」
虹香さんが呆れたように言う。なるほど、まあ受け入れられないだろうと思っていてもとりあえず言ってみるというのは大切なのかもしれない。
次に取り次がれて入って来たのはブーツを履いた偉そうなデブのおっさんだつた。こういう奴はだいたい悪人なんだよなあ。
「大阪の統括管理官をしておる、亜久台完太蔵という。貴様がこの部屋を使ったとかいう奴か? なんだまだ子どもではないか」
なんか入ってくるなり座るでもなくそのまま上から睨みつける様にマリエさんを睨む。マリエさんはひっとか小さい悲鳴をあげている。
「なあ、あんた。ここに踏み入ってわっちらのご主人様に随分な目を向けるもんやなあ」
「なんだ貴様は? 私はこの街の……ほう?」
完太蔵の目が篝火さんに向く。視線の先はもうわかりやすいくらいに胸の膨らみだ。
「ほほう、なるほどなるほど。悪くないな。一定以上の水準は兼ね備えているようだ。よし、娘、お前に命令する。この娘をワシに献上せよ!」
突然頭の悪いことを言い出した。いやまあこれはこれで予想出来た範囲ではあるんだけど。そもそもここに泊まったのって御免状があったからなんだけど、そんな事も忘れてるのか、それとも気にしてないのか。
「他のものは、そうだな。マリエとやらは下働きにでも雇ってやる。有難く思え。そこの白蛇は気持ち悪いから蒲焼にでもしてやろう。犬っころは番犬に。ホーンラビットは……そうだのう、うちの息子が変わったペットを欲しがっていたからそれでよかろう」
勝手に自分の妄想を垂れ流すのはどうかと思うんですよ。それに虹香さんを蒲焼だなんて、絶対美味しくないですよ! えっ、そういうことじゃない?
「黙って聞いとったら好き放題言わはるんやねえ。あんたはお客とは呼べんわ」
「なんだと? この街でワシに逆らうのがどういうことか分かっているのか?」
「わっちら昨日着いたばかりなんに、そんな事知っとるわけないやろ。だいたい、何様やねんこのデブは?」
「デ、デ、デブ、だと!?」
人は図星をつかれると激怒するって言うけど、この場合にも当てはまるのかなあ。明らかにお腹大きいんだから自分でもわかってるだろうに。
「帰りい。そんでわっちらの前に二度と顔見せるんやないよ」
「ぐぐっ、貴様!」
なんか抗弁しようとしてたけど周りに部下も居ないからか、そのまま帰っていったよ。覚えてろって本当に言う人がいるんだね!




