第114話:わくわくざぶーん
磨かれる(物理)
続いて入ってきた人物を見て驚いた。白い肌に白い髪の毛、妖艶と呼んで差し支えないほどの色気、並のオスなら前かがみになってしまっているんじゃないだろうか。
「お邪魔します、マリエ様」
「えっ、もしかして虹香?」
「はい。せっかくお湯に浸かるんだからさぁゆっくり浸かれる様にねぇ」
「人化出来たの?」
「出来ないとは言ってないねぇ」
なんと、虹香さんが大人の女性の姿になって入って来たのだ。凹凸に関しては何も言わないことにした。まあ元が蛇だからね。
クロさんを探したが見当たらない。どうやらクロさんはお風呂入らないみたい。いや、クロさんの身体って雷で出来てるからみんな痺れるんだろうけど。
「篝火さんはそんなだらしないお肉をぶら下げてるんですか?」
「やかましい、洗濯板。おんしに分かるか知らんが、マリエはわっちの胸に顔を埋めて嬉しそうにするのじゃぞ?」
ひあっ!ってマリエさんのセリフはスルーされるようだ。いや、マリエさんを責める気にはならないが、そういうの見たことないんだよね。
「それは今までご苦労さん。今度からはあたしの身体でマンゾクさせちゃうんだから」
「マリエ、あんたはどっちを選ぶんか? この蛇か? それともわっち?」
ここで、なんと、このワシを選ぶと申すか!とか言うのは間違いだよね。それにその役はクロさんにお任せしたい。
「二人とも、落ち着いて、落ち着いて」
「こうなったらマリエを綺麗に磨きあげられた方の勝ちでどう?」
「望むところよ!」
「ひやっ、待って、そんな所まで洗わなくていいからあ……」
二人にもみくちゃにされてこっちに視線で助けを求めてくるマリエさんを残して、ぼくは風呂場を後にしたよ。
『もうあがったのか?』
『うん、マリエさんたちにはゆっくりして欲しいから』
『……そうか』
クロさんとそんな会話を繰り広げて三十分ぐらいあと、腰がヘロヘロになってるマリエさんが両側から篝火さんと虹香さんに支えられて出てきた。いつもより肌がツルツルになってる気がする。
「いいお湯でしたねぇ」
「いつまで人の姿でおる気なん?」
「さあ、別にいいじゃありませんか」
「ぐぬぬ」
いや、良くないと思うんだよ。だって……
「あの、お食事の用意はいかが致しましょうか?」
このホテルの従業員が御用伺いに来た。マリエさんはフラフラしながら、「あと三十分後にしてください」と言っていた。まあヘロヘロになった腰を立たせないといけないからね。
「虹香、ちょっとそこに座りなさい」
「なんですかぁ?」
「人化出来る、というのを黙っていたのはまあいいでしょう。実際にして見せてくれたんだから隠す気はなかったんだよね?」
「当然ですねぇ。あたしはテイムされた身ですから」
「お風呂場で、あんな風に、あちこち、身体の隅々まで、触られて、どれだけ、私が、恥ずかしかったか!」
赤面しながら怒鳴っている。うん、ぼくも恥ずかしいと思ってるだろうから上がったんだよ。武士の情けってやつかな? えっ、止めろって? 出来るわけないじゃん!
「あれは篝火がさぁ、した事あるって言うからつい」
「つい、じゃありません! それに、篝火! あなたに身体の隅々まで洗われた事なんてありませんよ!」
「いやあ、すまん。ついつい」
「ついついじゃありません!」
そんな感じで説教してたらご飯が運ばれてきた。食事は五人分。ぼくとクロさん、そして虹香さんの分はでかいプレートに盛り付けられていた。これは手を使って食べられないから食べやすいようにしてくれたんだろう。虹香さんが残念そうに蛇に戻ってパクパク食べ始めた。
しばらく話をして、これからどうするのかを相談。ぼくはとりあえずこの街を見回ってみたいということでマリエさんたちもそれに賛同してくれた。
翌朝、朝一番に従業員の人が朝ごはんと報告を持ってきてくれた。
「おはようございます。マリエ様にお会いしたいという面会のご依頼が何件か来ております」
「ひゅえ!?」
「この街の商業組合長、街の統括管理官、イエローエリアの衛兵隊長、レッドエリアのボス、よりどりみどりです」
どう考えても選びたくない選択肢だ。しかし、このホワイトエリアにイエローエリアやレッドエリアの人が居るのも変な話だ。
「ええと、でしたら朝ごはんが終わりましたら順番に」
「……かしこまりました」
恭しく頭を下げて従業員はさがった。マリエさんは凄くどんよりした表情でご飯を口に運んでいた。大丈夫! ぼくたちがそばに居るんだ。堂々としてればいいよ!
……どうせ全部答えるのは篝火さんだろうし。で、朝ごはんを片付けて、食後のお茶まで飲み、少ししたところで、最初のお客を連れて来たと従業員。
失礼します、と入って来たのは割とがっしりした体つきの中年男性だった。まあ顔の程はグレン程じゃないかな。でもまあ悪くないんじゃない? モンドさんよりは上っぽいし。




