第110話:マリエとの再会
御廻りさんとは江戸時代とかの同心とかの呼び名から来たものです。御宇の街にも居ます。
敖欽さんには特に迷惑はかけられてないと思うのだけど、それでも謝罪したいと言うのだから。
「ラビ殿には娘の暴走で晶龍君を取り上げるような形になってしまい大変申し訳なかった」
そっち!? あ、いや、別にそれはいいんですよ。ぼくと晶龍君の間で決めたことだし。友だちとして大事な門出は祝福しますから。
「それと、鈴花の方も、しょっちゅうラビ殿を拘束している様で」
あーまあ、そっちは慣れてますから。なんせグレンと居た時は四六時中すり下ろされたり包まれたりしていたものですから。
「なんでしたら鈴花をラビ殿に貰っていただいても」
ちょっと種族差ぁ! というかリンファさんはぼくのことをそういう対象として見てないというか、そういう対象に見る年齢でもないというか。
「そうですか。残念ですが諦めるとしましょう」
なんで残念そうなんですかね? いや、大丈夫ですよ。リンファさんならきっといい人が名乗り出ますよ。今すぐじゃなくて。というか今すぐ出てきたらそれは通報ものですからね。御廻りさん、こっちです。
「して、これからどうされるおつもりかな?」
『はい、ぼくはとりあえず大阪に行く予定なんですけど……』
「おひとりでか?」
『いえ、一緒に行こうと言ってた人とははぐれてしまいました』
「そうですか」
いや、多分、見つけようと思ったら見つかると思うし、この辺りに居るはずだから問題は無いんですけど。
それにしても敖欽さんってなんかこう威厳があるんだけどどことなく寂しそうっていうか。なんだろうね?
「実はですな、娘たちに嫌われておるようで」
パイリンさんとリンファさんが? いや、どうなんだろう。ある意味納得は出来るんだけど。
「私が来て、事情を聞いて、晶龍君はラビ殿と旅を続けるべきだ、と言ったら嫌われてしまったようだ」
あの、さすがに新婚の二人を引き離すような真似はしたくないんですけど。晶龍君もそれは望んでないんでは?
「晶龍君に関してはやり掛けた仕事を放り出す気かと説教をかませば折れるだろうから問題はないのですが」
心を折りに来るのは問題ないと言わないよ!?
「白鈴が聞いていたらしく、大っ嫌いと言われてしまいまして、その、なんというか」
『いや、でも、パイリンさんが感情昂らせたら大変な事になってるはずでは?』
「その時は晶龍君が直ぐにどこにも行かないから、と白鈴を抱きしめてくれたので事なきを得ました」
それなら晶龍君はぼくと一緒でなくても良いと思うんですが。
「あの小僧め、白鈴に色目を使いおって」
今までのを総合して色目を使ってるのはオタクの娘さんだと思うんですけど、なんて言えないよね。
『ぼくのことはちゃんと見てくれる人が居ますから心配しないでください』
「それならばそれを二人の前で示して欲しい。すぐにでも連れてきて貰えんか?」
ええー、そんな事言ったって何処にいるのか分からないんだから、せめて一週間くらいは探す日程が欲しい。ここに泊まってるとかの奇跡的な事象でもない限りは。
「おお、ラビよ。やっと着いたのじゃな」
『篝火さん!?』
「なんじゃなんじゃ、鳩が豆鉄砲食らったような顔しおって」
『いや、だって、どうしてここに?』
「どうしてもこうしても、逗留先はここになるに決まっておろう。パイリンもリンファも居るのだし」
そうですね。そこまで考えてませんでした。この街の旅籠という旅籠を当たってみるつもりでしたが。
「ほほう? お主が、ラビを連れて行くものか?」
「ええ、わっちでありんす。色男の方。えらい強い気で気絶しそうでありんす」
「ふむ、役者不足ではないかな?」
「大丈夫だと思いますよ。篝火さんはそこそこ強いですし」
「晶龍君ほどでは無いがな」
「余計なお世話でありんす」
篝火さんはずっと警戒を解いて居ない。ぼくを守ろうとしてくれているのかもしれない。いや、この人はパイリンさんやリンファさんのお父さんだから大丈夫と思うよ。
「篝火、外で何をして……あ、ラビ君」
続いて部屋から出てきたのはマリエさんとクロさんだった。ひらひらと手を振られたので、ぼくも前脚を振り返す。
「あの、ご亭主様、うちの篝火が何か粗相を?」
「あ、いえ、そういう訳ではないのです。あなたはテイマー、ですかな?」
「はい、駆け出しのテイマーではありますが」
敖欽さんはまじまじとマリエさんを見た。別にそこまで発育いいわけじゃないから妾にするにはちょっと待たないといけないと思うんだけど。
「……何かラビ殿に大きな誤解をされているようではあるが。まあいい。それならば条件付きで及第点というやつであろう」
何か条件付きって言葉が聞こえたけど、どんな? まさか嫁になれとかは……無いよね?




