第11話:ひっさつ、始末人
人じゃなくてホーンラビットですけど
ダメだ。こいつらは今ここで殺さなきゃいけない。でないとあの優しい牛さんが殺されてしまう。やっぱりゴブリンたちは何も反省してなかった。
それにしても一人は見捨てて逃げたはずなのになんで合流してたんだろう?
「しかし見捨てて逃げるなんてひでぇぜ」
「ああした方が復讐に来ると思われねえから油断させられるんだよ。その証拠にちゃんと森の浅い所で待ってただろうがよ」
「でも俺が動けなきゃ見捨てたんだろう? 幸いあいつらミルクに夢中で俺の事なんか見ちゃいなかったからなあ」
そう言ってグギャグギャ笑った。そうか、こいつらはぼくらを騙したのか。もう復讐に来ないと思わせるために。いや、もっとも牛さんにはバレバレだったんだけど。
「さてよっと」
「どつした?」
「そろそろ足が痛くなってきちまったよ」
「しゃあねえなあ。じゃあ応援呼んでくるから待ってろ」
「夜までここで待つのか?」
「動けねえんだから大人しくしときな。ほれ、木の実でも齧っとけ」
「ちっ、まあ後で肉が食えるからいいか」
どう考えても牛さんを食べる気満々だ。でもここで別れるなら好都合だ。ぼくは前の方のゴブリンを追った。だってあっちをとめないとゴブリンの集団が来ちゃうからね。
「ええい!」
「ぐはぁ!?」
追い付くのは簡単だ。所詮二足歩行のゴブリンが四足で走ってるぼくに勝てるわけないよ。ぼくは森の前の方に回り込むと、顔面に強烈な蹴りを叩き込んだ。グレンを悶絶させたこともある一撃だ。本気で蹴れば骨くらい簡単に折れるよ!
「痛ってぇ! くそ、なんだ今のは?」
突然の横っ面からの攻撃だったからか、ゴブリンはぼくの姿を見失った様だ。これは好都合だ。もう一発かましてやる。
「もう一発、喰らえ!」
「なっ、お前!」
今度は間一髪でかわされた。攻撃する時に叫んじゃダメだね。ついつい叫んじゃった。でも技とか魔法とかを放つ時は叫ぶってグレンも言ってたんだけどなあ。
「こんな所まで追いついてきたのかよ」
「牛さんは襲わせない!」
「バカがよ! あの牛はもう終わりだ。俺が巣穴に帰ったら大集団で襲ってやる。いくら強くても四方八方から剣で刺されたらどうしようもないだろう?」
「分かってる。だから」
ぼくは頭のツノを構えた。
「ここでお前を殺す」
ゴブリンはケヒャヒャヒャと笑った。
「俺を、殺す、だと? ホーンラビットに過ぎないお前が? バカか? 俺がホーンラビットごときを狩れないとでも?」
そうゴブリンは言うと剣の刃をペロリと舐めた。あれ、美味しくないよね? なんで剣を舐めるんだろう? ゴブリンなんだから唾液に毒とかついてないよね?
「てめぇはメインディッシュ前のオードブルにでもしてやるよ!」
ゴブリンが大振りに剣をぼくに向かって振るう。そんなものが当たるわけが無い。いや、当たったら痛そうだなとは思うけど。
ゴブリンは直ぐに剣を返してぼくを狙う。一度通り抜けた剣が同じような軌道で帰ってくるのはグレンが良くやっていた手だ。いや、あっちは速さが凄かったけど。
そっちもかわすとぼくは距離を取った。ゴブリンは腰を低くして剣を構えている。
「なんで当たってねえんだよ!」
「そんなトロい攻撃に当たるわけないだろ!」
こう見えて鍛錬は欠かしたことは無い。いやまあ大抵みんなについていけずに一発でやられちゃうんだけど。それでもグレンと二人だけの時は頑張って避けたもんだ。グレンが手も足も出なかった時だってあったんだもん。
「くそぅ、絶対ぶっ殺してやる!」
それからゴブリンは剣をやたらめったら降り始めた。周りの草とかもなぎ倒されていく。逆に言うとぼくには当たらずに草を刈っている。まああまり背の高い草は食べにくいからカットしてくれるのはありがたいんだけど。
「死ね、死ね、死ねぇ!」
「いい加減しつこい!」
ぼくはステップで避けながら後ろ足で思いっきりゴブリンの顎を蹴り上げた。ガチン、と音がした感じがして、ゴブリンが泡を吹いて倒れた。
「はあ、はあ、やっ、やった、やったぞ! ゴブリンを倒したんだ!」
そしてぼくはそのゴブリンにトドメをさすことにした。このまま放っておいたら仲間に回収されるかもしれないんだもんね。
頭の角をゴブリンの喉に照準をあわせて突き出す。ゲヒャッと声がした気がした。ゴブリンは喉から血を流して動かなくなった。今までもゴブリンとは戦ってきた。でもグレンが居なくて一人で倒したのは初めてだ。
「こっちの方から声が聞こえたぞ?」
感傷に浸ってると茂みの奥の方からゴブリンの声が聞こえた。数は複数居る。
「おい、こいつ死んでるぞ?」
「ああ? なんだよ、バカ二人の内の一人じゃねえか。なんか魔物に襲われたんだろ」
「何の魔物に襲われたのかは調べてみる必要がありそうだな」
「全く。この忙しい時に。おい、お前ら、人数集めろ!」
どんどん話が拡がっていく。しまった。始末したゴブリンを隠しておかなきゃいけなかったんだ。




