第109話:龍王たちの叩頭
謝罪は大切。
宴会では特にどうということも無く時が進んだ。晶龍君がアシュリーさんとパイリンさんとに挟まれて青い顔をしてたのは良かったのか悪かったのか。ごめん、ぼくにできることはなさそうだよ。
で、宴会では、リンファさんが次から次へとぼくにお肉を持ってきて、食べられないって言おうとすると悲しそうな顔をするので、あーんって食べさせてもらっていた。トゥグリルさんは「ホーンラビットとは肉も食べるのだな」なんて言ってたけど、まあそうかもしれない。ぼく以外食べてるの見た事ないけど。
夜が明けると、アシュリーさんたちは草原の向こうに旅立つという。元々旅立つつもりだったんだって。出発する前に襲撃されたみたいだ。帰ってきた時に砦とか建ってないといいなあってことだからそれはぼくも願ってる。
蜃さんもとても上機嫌だ。これは晶龍君の婚姻が判明したからで、結婚式には呼んでくだされ、なんて言ってた。まあ朝には砂漠に帰って行ったんだけど。
ぼくらは江戸方面に、アシュリーさんたちは草原の向こう側に。お互いに別れてぼく達は旅を続けるのだ。ぼくは、故郷に、帰るんだろうか。
そういえばマリエさんや篝火さんとも別れたっきりだなあ。モンドさんは先に江戸で待ってるらしいので大丈夫。
さて、ぼくらの旅の一歩を踏み出そう! ってあれぇ? なんでぼくはリンファさんに抱えられてるの?
「かってにいなくなっちゃ、メーよ?」
いや、リンファさん、ぼくは別に居なくなったりなんか……って、言葉が通じないんだっけ? いや、待てよ? ここに着いた時のリンファさんは念話を使っていたような……
「しゅっぱーつ」
なんてことがあっても放されることも無く、ぼくらは江戸に向かうことにした。メンバーはぼく、リンファさん、晶龍君、パイリンさんだ。晶龍君はパイリンさんと腕を組んで歩いている。ヒューヒュー、お似合いだぜ!
「うるせー、ラビ。お前こそ、そこが定位置か? お似合いだなあ!」
これは仕方ないんだよ。リンファさんが話聞いてくれないから本当に仕方なく。
子どもの足の速さなんてたかが知れてる。そう思ってた時がありました。歩くスピード自体は大人ほどで済みますが、歩く時間は段違い。普通なら何時間かに一度で休憩とるんだけど、今日は一度もとってない。
日が沈んで薄暮冥々(あたりがうすぐらいようす)になる頃には御宇の街の門が見えた。門番さんは
……知らない人だ。そのまま街の中に入る。
「うちに行きましょう」
そう言われてついて行った。二人とも居ないのに営業しているみたい。誰が旅籠を切り盛りしているのだろう。
「いらっしゃいませ……ラビ!?」
突然、旅籠の従業員の大きい人に名前を呼ばれた。えっ、誰だっけ? ええと……
「ワシだよ、ヴリトラだ」
なあんだ、ヴリトラかあ。えっ? ヴリトラ? なんで居るの? グレンの方は?
「すまなんだ、ワシはそなたに謝らねばならん」
「そちらがラビ殿か」
ヴリトラが頭を下げると、もう一人、今度は違ったタイプの大きい人が現れた。ヴリトラがあごひげの立派な濃い顔なら、こっちの男の人は黒髪黒目のスマートなタイプだ。いや、大きいし、髭は生えてるけど。
「私はこの白鈴と鈴花の父親で、広利王の敖欽という。この度は娘たちが迷惑をかけた」
深々と頭を下げられた。ああ、そうか。パイリンさんとリンファさんのね。それにしてはなんかギクシャクしてるみたいなんだけど。
ほら、ヴリトラと晶龍君は誰が見ても父子って感じなんだよ。雰囲気も似てるし。でも、敖欽さん?とパイリンさん、リンファさんはなんかそういうのがない。もっと言えばパイリンさんもリンファさんも少し離れて見てるみたいな感じ。
「パイリン、リンファ、話が」
「私たちにはありません。行こう、リンファ」
「お姉ちゃん。うん」
どうやら気の所為ではなく隔意があるみたいだ。居心地悪いなあ。リンファさんがパイリンさんに連れられて奥に引っ込んじゃったので、ぼくはヴリトラとの再会を素直に喜ぶことにしたよ。
「それでヴリトラはグレンのそばを離れても良いの?」
「心配は要らん。グレンには許可をもらっておる。何せ事は息子の婚姻だからな」
ああ、なるほど。普通の仕事では身内の結婚とか出産とか葬式とかで休みをくれるところがあるらしい。慶弔休暇というらしい。いや、テイムした魔物に慶弔休暇があるなんて聞いた事ないけど。
「それよりも、晶龍がラビの護衛を放ってしまってすまなんだ」
「い、いいよいいよ。晶龍君とは納得ずくで別れたんだ。今更ヴリトラがとやかく言うことじゃないさ。今でもぼくらは友達だもの」
「かたじけない」
ヴリトラとの話が終わったら今度は敖欽さんだ。こっちもあったか。




