第108話:ドナドナドーナードーナー(幸之助視点)
事後処理のようなもの。
旗本の兵たちを指揮して倒れているヤツらを捕らえる。戦闘があると思ったので、八万騎とは言わなくてもかなりの数を動員したはず。まあ拙者には指揮権などないのでござるが。
捕らえたヤツらは順次荷車に載せて江戸表へと送り出している。ガタガタして傷に響くかもしれぬが、死ぬよりかはましであろう。
「モンド……幸之助様」
「どうしたでござるか、マリエ殿」
テイマーのマリエ殿。この度は役に立ってなかったなどと言ってはいかん。拙者とて大した役には立っておらんかったのだから。
「あの、私、何も出来なくて、だから、せめて、何かお手伝いをと」
「気にするほどではないのでござる。そもそもマリエ殿くらいの歳のおなごが戦場に来るのもどうかと思うのでござるよ」
「おや、モンド。お主、随分と優しいようじゃな?」
茶々を入れてきたのは篝火。マリエ殿の使役する化け狐だ。体型は随分と豊かなのだが……い、いかん、幸奈にジト目で見られてしまう。違うのだ、その、ほんの出来心で。
「ふん、まあ女性に優しくするのは当然だと教えられておるからな。なんでも、「紳士」と言うらしいではないか」
「真面目くさった顔で紳士とはな。これは面白いことを聞かせてもらいんした」
「お主らはこれからどうするのだ?」
「せやねえ。あの子らが帰って来てから決めるのがええと思うんよ。それまでは御宇にでも滞在する予定でありんす」
江戸への流通を担ってる御宇ならば滞在するのにちょうどよかろう。まあ、拙者も御宇は通らねばならんからな。送って行くとしよう。恐らくショウ殿たちは歓待されておるだろうしな。
積み込みは今も続いている。生半可な数では無い。しかも数が多すぎて用意した荷車が間に合わん。となれば調達せねばならん。御宇にはどの道行かねばならんのだ。
御宇でマリエ殿たちと別れて、拙者は先に江戸へと戻る。もちろん報告の為だ。拙者の連れている荷車には四天家のそれぞれが乗っている。輝臣殿は目を覚まさんが、それ以外は持ち物を改めて押し込めている。
「おい、三芳野の! ワシをこんなところに閉じ込めて、タダで済むと思うなよ?」
「タダですまんのはそなただ、宇多殿。自分が何をしたのか分かっているのか?」
「おうよ! 上様のために領土を広げようとして失敗したのだ。だが、一度や二度では諦めぬ。傷が癒えたらまた出向くのみ!」
この男はどうやら本当に領土拡張で上様のためになると思ったらしい。仕方ない、教えてやるとしよう。
「お主らには謀反の疑いが掛かっておる」
「なっ!?」
驚いたのは宇多殿と正伊殿のみ。まあ種井殿は気絶しておるし、神原殿はとうに気付いていたのだろう。
「当然であろう。上様の指示もなく、勝手に私兵を集結させ、軍事行動を起こす。どう見ても謀反ではないか」
「ちっ、違う! 決して、決してその様な事は!」
「まあトドメは拙者に攻撃した事だな。上意に背けばどうなるかぐらいは分かるであろう?」
そう、あの時拙者はちゃんと上意であると告げて戦闘の即時終了を求めた。それに従わない、という事は上様の命令が聞けないという事である。
「あ、あ、あ……」
「まあ宇多殿は家財没収の上、江戸十里所払いという所か。金を出しただけであろうしな」
「お、おおお? そ、それは、助かる……」
「三芳野殿ぉ、ボクは? ボクは単についてきただけなんだよォ」
「……まあ正伊殿に何かを出来ようとは思わんのだが、その辺は白州にて申し開きをするがよかろう」
この二人は大したものでもない。問題は……
「私は無理であろうな」
「むしろ主犯である、と言われておるよ。神原殿は何か別の証拠でも出てこん限りは腹を召さねばなるまい」
「ふむ、切腹は趣味では無いのですがね」
淡々としたものだ。恐らくあの後から来た娘、パイリン殿に格の違いを見せつけられたからだろう。愕然としておったからな。
「気絶しているであろう種井殿もおそらくは腹を召される事だろう」
「気にするな。龍種と戦えただけで本望よ」
「……起きておられたか」
「うむ。世界は広いのだな。願わくば武者修行の旅にでも出てみたかったが」
「上様の前で申し開きをするが良い」
斯くして、江戸に戻り、上様に謁見する。取り調べの中で宇多殿が主導で進めていた事を知り、それに乗じて神原殿が謀反を起こそうとしていた事も明るみに出て両名とも斬首。宇多殿は最後まで見にくく命乞いをしていた。
正伊殿は何の寄与もしていなかったので、御家取り潰しの上、江戸十里所払い。種井殿は斬首という事で髪だけ切って、北方へ武者修行の旅に。頭を丸めて心機一転を目指すそうな。
まあこれが今回の顛末でござる。あとは彼らが帰ってくるのを待つのみよ。帰ってくるのかは分からぬが。




