第101話:我ら四天家、江戸(こうと)の貴族!(元信視点)
弱腰派、覇権派と呼んでるのはこいつらの中での呼び方です。そのまま調和派、急進派と同じです。
ワシの名前は宇多元信。大名たる宇多家の跡取りだ。幕臣として今は上様の側周りを勤めておる。
ワシには気に食わんやつがおる。それが三芳野幸之助。大名にもなれぬ貧乏旗本でありながら、上様の覚えめでたく、様々な任務に駆り出されておる。
ワシもそのくらい出来ると意気込んでやってみてはみたものの、所詮、ワシみたいな高貴な者に下々の雑務など似合わぬのだ。ワシは上様の身の回りのお世話をするのみ。
ある日、ジョーカーという男がやって来た。我が国の版図を広げたくないかと。上様は足るを知れとか何とか言っておったが、樽とはワシのこの身体のことか? 嫌味だったのか? まあいい、新たな領地が見つかれば、我らが覇者になる事も可能である。砂漠までの平原を我らが領土とするのだ!
気がついたら邯鄲とかいう都が出来ており、そこでは享楽の限りを尽くせた。これはいい! 幕臣の皆にも広めねば。
気付いたら江戸城に居た。おかしい。確かうさぎのような耳をつけ扇情的な網タイツを履いたピチピチなおネエちゃんとイチャイチャしていたはずなのだが。
なんと! あれはジョーカーとかいうやつの見せていた幻覚で、そこからワシらを助け出したのが幸之助だと? ふざけおって!
ワシらは上様から叱責をされた。今後は付け込まれぬように、と諭されてな。このままでは我らの面目丸つぶれではないか。ただでさえ、上様が弱腰派寄りであるのに、我々覇権派の立場がないではないか。
ここは大御台様にお出ましいただくしか。いや、それだと我らの無能っぷりを強調する事になる。何とかならんものか。
……そうか! 先に領土を獲得してしまえば文句は付けられまい。そうだ、我らで兵を出して侵略すれば良いのだ。ワザリア族とやらの蛮族は砂漠においやればいい。なんでもアシュリーとかいう娘がいるそうだからそいつはワシの妾にしてやろう。
「何をぐひぐひ吠えているのですか」
声を掛けて来たのはワシと同格の色男、神原純一郎である。若さ的にはワシより若い。
「おお、純一郎ではないか。今しがた幸之助が戻ってきたところでな」
「三芳野殿が。なるほど。厄介な事だ」
「このままだと草原への侵略も有耶無耶になりそうでな」
「ならば事後報告とするがよろしかろう」
「おお、貴殿もやはりそう思われるか」
ワシは純一郎の同意を得た。なるほど。これは我ら四天家が力を合わせれば何とかなりそうである。私兵もそれなりに動員出来るしな!
「よし、では純一郎は残りの正井と種井にも話して討伐の兵を準備しておいてもらおうか」
「分かりましたよ。まあお二人とも誘わねばあとが怖そうですからね」
そして上様がモンスター風情をワシの上に置いたのが我慢の限界だった。そのまま辞去し、純一郎と落ち合う。
「遅いぞ、元信」
純一郎と一緒に居たのは正井葉蔵。妖怪と呼ばれる気持ち悪い男だ。だが頭は切れる。軍略家だ。もう一人は種井輝臣。巨漢と言っても差し支えない、剣術バカだ。武芸十八般を修め、中でも長戟は馬上で振るえば二三人まとめて打ち倒せるほどだ。
「くっくっくっ、さあ、諸君、我らは存分に草原の奴らを駆逐し、我らの領土を獲得するのだ!」
「それは構わんが元信、お前、馬に乗れるのか?」
「ワシが馬などに乗るわけないだろう。ちゃんと馬車を用意しているさ」
「……まあいい、お前に戦働など期待してないからな」
それはそうだ。ワシの得意は金儲け。この兵を揃え、武器を揃え、糧食を調達したのも全て我が財貨によるもの。金がないのは首がないのと同じなのだよ。
「進め! 草原の部族の者共を殺せ! 褒賞は弾んでやるぞ!」
叫ぶと兵の士気が上がったように感じた。こいつらは食い詰めものの浪人どもが大半だ。もちろん我らの私兵も相当数いる。明日のメシの為ならば平気で殺すだろう。まあ全員に馬を与える余裕はないから徒歩での移動だが。さて、ワシはのんびり到着するまで休むとするかな。
街道を進み、御宇の街が見えた。今回はここには止まらん。なぜならこの街に留まれば兵の士気が緩むかもしれんからな。それに兵は神速を貴ぶとも言うらしい。早く到着して早く略奪して早く蹂躙したいものだ。
草原に出る前の森に差し掛かった。ここを越えれば段々と木が低くなっていき、草原に到る。ワザリアとかいう蛮族がいるならよし、いなくとも砦を築いてしまえば何の問題もない。
ワシらはワクワクしながら森を抜けた。目の前に広がるのは草原と少し向こうに見えるユルトとかいう奴らの住処だ。あんなボロ布しかないとはたかが知れている。ここは文明人の生活を味あわせてやらねばなるまい。奴隷としてだがな!




