第100話:急進派の急発進
モデルは徳川四天王
『砂漠の方にアシュリーちゃんって子が居るんだけど、その子がなんか困ってるみたいでさ、相談に乗ってあげて欲しいんだけど』
『なんじゃ、ラビ、ぬしの女か?』
『いやあの、人種族に興味はないよ? ぼくの好みはもっとこう、毛並みの整ったいい匂いの……じゃなくて!』
『冗談じゃよ。アシュリーちゃん、のう』
『ううー、晶龍君なら多分詳しいことは分かるんだけど』
『ふむ、ならば小僧と合流するか』
えっ? 合流って、もう長い別れみたいにしてきたのに? 男の別れに言葉はいらないってキメてきたのに?
『仕方ないじゃろう。あの小僧が大事なことを忘れておるのが悪いのよ』
『うう、なんか納得いかないけど仕方なさそう』
などと話してたら会話の内容が分からないからか例の元信とかいうバカが口を出してきた。
「貴様、うさぎ風情が望みを聞いて貰えるだけでもありがたいのになかなか話そうとせんとは、上様を愚弄するつもりか!」
うさぎ風情だって。まあこういう人はたくさんいたよね。グレンと一緒の時も、「モンスター風情が!」なんて言ってる人多かったもんね。特に大きな国の大臣クラスの人間に多いんだよね。権威主義っていうのかな。
「元信、さがれ」
「上様?」
「お主が居るとラビ殿が萎縮するではないか。三度は言わんぞ、さがれ」
「……はっ」
渋々ながらも元信は去っていった。非常に悔しそうな顔をしてたからきっと納得はしてないと思う。
「すまなんだ、ラビ殿。改めて望みを教えて貰えぬか?」
「上様、じゃったか。ラビはの、友人の為に使いたいそうじゃ。アシュリーという名に聞き覚えはあるかの?」
「アシュリー……はて?」
どうやら上様はアシュリーちゃんの事は分からない様だ。
「アシュリーとは、確か草原に住むワザリアの巫女姫でござったかな」
「ほほう、モンド……いや、幸之助殿は知っておったか」
「拙者の仕事は情報収集も含まれておりますからな。ショウ殿やラビ殿と出会ったのもあの辺でござった」
「幸之助、どの様な御仁か報告も兼ねて申してみよ」
上様の顔が引き締まった。為政者としての顔だろう。空気の使い分けが上手い方だな。
「拙者の調べによりますと、草原をまとめているのはワザリア族という遊牧民族。もちろん一箇所に留まるような方々ではありませんが。有名なのは巫女姫のアシュリー殿と兵のまとめ役たるトゥグリル殿ですな」
「兵のまとめ役、などと言葉を濁さんでも良い。我が国以外では「将軍」というのは一軍籍の役職に過ぎんことは分かっておる」
「いえ、ワザリア族には将軍という位すら無くて、巫女姫以外は皆同じなのです」
どうやら上様の気の回しすぎだったみたい。少しコホンとして仕切り直し。
「しかし、ワザリア族であったか? そのもの達がどうして」
「おそらくは急進派の奴らでしょう。草原を領土として増やすつもりでは?」
「ばかな、そんなことをしても治める者が」
「急進派から大名にしろと言われるのかもしれませんな」
「やれやれ、厄介なことよ」
なるほど、急進派はワザリア族たちを追いやって自分たちの勢力を伸ばしたいんだね。何となくわかるよ。
「ワザリア族から反撃されるとは思ってないのか?」
「おそらくは蛮族など恐るるに足りぬとか思っているのでしょう」
「愚かな事だな」
反撃を考えない、いや、低く見積るのは良くないことだと昔誰かが言ってた。シルバー爺だったか葛葉だったか。
「それでしたら、危ないのでは?」
マリエさんが口を出してきた。危ない?
「あ、すみません。その、ワザリア族さんたちを恐れてないなら気軽に侵略してしまうかもしれません。今回の失点を帳消しにする為にも」
今回の失点、というのはジョーカーを招き入れたのが急進派だということ。侵略戦争を勝手に起こす事のどこが「失点の帳消し」なのかは分からない。彼らは侵略戦争ではなくて、「平定」という言葉を使う。酷い時には「教化」なんて言ったりする。どこまでも正しいのは自分たちだ、という姿勢は崩さない。
「ふむ。それだと危ういかもしれんな。誰かある! 今すぐ宇多の屋敷を調べよ!」
何人かの影が飛んだ。おそらくは忍者とかいうやつだろう。昔グレンに聞いた事がある。魔法のような術を使って偉い人のそばに仕える影の存在だって。ブリジットの事かな?って聞いたらブリジットほどうるさくないよって笑ってたっけ。
あの後にブリジットから貰ったゲンコツは痛かったけどグレンとおそろいだったから楽しかったな。
「上様。ご報告にございます。宇多、正伊、神原、種井の急進派四家が兵を率いて、草原に向かったとの由!」
「なんだと!?」
どうやら早まった行動に出られたみたいだ。これは止めないといけないよね!




