崩壊
トンネルが暗い。
トンネルが暗いのは当たり前だろというわけでもなく、このトンネルはそもそも5メートルほどしかないトンネルで入り口からでも出口を確認できるほどに短い。だから、本来明るいはずだ。
しかし、トンネルに入った途端光が消えた。光のある出口が消えたのだ。向こうには真っ暗な空間が広がっている。まるで数百メートルにも渡って広がっているようだ。
何かおかしなことが起きていることがわかる。俺はすぐに戻ろうと振り返る。
入り口もない。
どうしようもない不安が胸を押しつぶす。真っ暗な空間に自転車の明かりだけが照らされている。
考えられる現実的な可能性が見つからない。どう考えても非科学的な状況下にいる。思い出すのは夏によくあるホラー特番。
”出口のないトンネル ”
ありがちなタイトルだが、今想像してしまうととても怖い。なまじ想像力が働くため、余計に怖い。
今、自分はまさに出口のないトンネルにいる。
あのホラー特番では何か言っていいただろうか。確か、首のない女が追いかけてくるだったか。馬鹿馬鹿しいことこの上ない番組だったのが少し俺の気持ちを和らげた。
動けない。人間こうも理解できない状況のとき動けないものなのだろうか。現状維持して助けを待つべきだと俺の理性が悲鳴をあげている。
だめだ、くるわけない。くるわけないだろう。現実的に。だって、今は現実的な状況ではない。
行動に出なければ。
いつも読む本では主人公が動かなければ何も始まらないだろう?
震える体を自転車に乗せて進む。音がない空間では不気味にペダルの音だけが響いている。
しばらく進むと震えが治ってきた。少しずつものが考えられるようになってくる。
「そうだ。携帯」
出かける時にスマホを持ち出すのは若者の常識である。その常識に今は感謝している。
俺はポケットからスマホを取り出す。
スマホが光り、映ったのはホーム画面。好きなアニメの画像が壁紙になっている。
その画面を見て、溜息が出た。
圏外
確実におかしな場所にきている。
自転車を漕ぐ。ただひたすらに漕ぐ。
漕ぎ進めると周囲が少しずつ明るくなっているのに気づいた。
怖い。自転車のギーギーという音しか聞こえてこないのが不安だ。家が恋しい。
周囲の明るさがマシになって、半径5メートル先くらいは見えるようになった。
「トンネルが広がっている?」
トンネルの幅が広がっていることに気づいた。




