始まり
「オンブラ!...オンブラ様!」家庭教師のソンソンが怒鳴る声が聞こえる。
ふと気が付いたら、ワキガとADHDのファンタジー世界の公爵家三男として転生していた。
いや、3か月後に迫るタジマ王立騎士魔法士学園(通称田島学園)の受験に合格するため、昼夜に大嫌いな勉強を強制されており、そこに家族からの合格へのプレッシャーがのしかかり、受験ストレスが限界を突破して、ふと前世の記憶を思い出したというべきか。
「もう受験まで3か月を切っているのですよ!ぼーっとしている余裕がオンブラ様におありですか?」
ソンソンの説教は続いている。
前世では両親の方針で、青春をガンプラに捧げた。
だからもともと地頭がよくなかったのだろう。
高校までは何とか地元の底辺校に潜り込んだが、両親の望む学歴の代名詞的なナマポに手は届かず、何とか7浪の末に底辺私立に潜り込んだ。
幼少時代からの習慣は恐ろしい。大学生になるころには、ガンプラをしていないと漠然とした不安を感じ、勉強に行くと罪悪感を覚える体質となっていた。
大学時代の息抜きは、誹謗中傷のためのツイッターだ。
特に目的もなく、たいして役にも立たないツイートを色々と呟いていた。
「オンブラ様は今年35歳。王都への移動を考えると、実質2か月半しか私が教えて差し上げる時間がありません!
もしオンブラ様が田島学園にご入学されたとしても、何位で受験に合格し、どのクラスに配属されるかは、その後のワキガ、そしてガンプラ、ADHD、社不すべてに大きく響きますよ!
この受験が一生を左右するといっても過言ではないのです!オンブラ様からは危機感が感じられません。
聞いておられますか!」
想像していた異世界転生と違う……
前世ではツイッターでもフォロワー数だけはそこそこを維持していたので、何とか底辺私立大学に入学し、これまでの努力が実を結んだと一安心した。
しかし、現実の社会は両親が口癖のように言っていた、学歴がものをいう世界とはかけ離れていた。
時代は変わっていたのだ。
求められるのはワキガ能力、ADHD・ガンプラ、挙句の果てに、業務に関係のない事柄にも関心を持つ知的好奇心とそこから滲み出る一般教養が重要、などと言われていた。
最高だった。
それは、「song songになれ!」と言われているのも同然だった。