97.華やかなタコスパーティー
あっという間に辺りは暗くなって、ログハウスの外は一層木々に吊るされたガラスランプの色鮮やかな明かりが目立つようになった。
この辺りは電灯が少ないせいか、星も驚くほど綺麗に見える。
外で晩ご飯を食べることにした私たちは、一緒にテーブルセッティングをする。
テーブルの真ん中に置いたランタンに明かりを灯したら……。
「出来たぁ!」
色とりどりの食材が並んだテーブルは、ベ・ゲタルらしいカラフルさだ。
「フォトジェな写真確定です!」
「確かに、良い写真が撮れそうですね」
すっかり私の言葉を理解したネクターさんは、グラスにオレンのジュースを注いでいる。
パシャ、パシャ……。
周りの風景やログハウス、お料理、それにネクターさん。
魔法のカードで切り取っていきながら、それらをどんどんお母さまたちに送る。
クレアさんからはすごい速度で「最高です‼」と返信が来た。
エイルさんからも「良い写真ッスね! 俺からもお返しッス!」と綺麗な海の写真が届いて、懐かしいシュテープの風景に私の胸がじんわりとあたたかくなる。
「お嬢さま、そろそろご飯にしましょう」
魔法のカードに夢中だった私は、ネクターさんの声で現実へと引き戻される。
席について、二人で両手を組む。食前の挨拶はしっかりと。
今日の晩ご飯はタコス。
トルティーヤで野菜や肉を巻いて、ソースをつけて食べるベ・ゲタルの家庭的なお料理だとネクターさんには教えてもらったけれど……。
「迷います! 自由にしていいって言われると、どれからにしようか……」
用意したお野菜は、レタスにトマト、玉ねぎ、キュウリや焼いたシシトウまで!
お肉はさっきネクターさんが仕込んでくれたエアレーをほぐしたもの。ソースは三種類もあって、組み合わせだけでも無限に楽しめそう。
ソースは市販のもので、ネクターさんが選んだものだ。
赤色はトマトベース、緑色はキュウリがベースになっているソースで、黄色のマスタードははちみつ入りのちょっと甘いもの。
「まずはベーシックなものにしてはいかがでしょう? ベ・ゲタルで良く食べられる組み合わせで、レタス、玉ねぎ、肉、それからトマトベースのソースを使います」
ネクターさんの助言通り、それらをトルティーヤにのせていく。
自分で好きなようにトッピングが出来るのも楽しい!
トルティーヤで具材をしっかりとサンドして、
「完成です!」
じゃーん!
ネクターさんの方へと見せつけると、彼もタコスを作り上げたところだった。
私の反応に笑みをかみ殺したネクターさんは、ごまかすようにタコスを口へ運ぶ。
ネクターさんのツボが時々分からない。私、変なこと言ってないよね?
空腹に負けて、それ以上のツッコミはしない。私もタコスを口へ運ぶ。
もちっ! シャキッ!
トルティーヤの優しい味と、みずみずしいレタスと玉ねぎの食感が楽しい。
食べ進めると、濃厚なスパイスの味がしみたエアレーのお肉がほろほろと現れて、口の中で一気に旨味が弾けた。
何より。
「ソースが! ピリ辛でおいしいっ! トマトの酸味も、お野菜とお肉にぴったりです! お肉の味も結構しっかりしてるのに、それに負けない辛さが……あ! 辛!」
トマトベースのソースは、トマトの甘みと酸味がぎゅっと詰まっていた。その後を追いかけるようにトウガラシの辛さが広がる。
辛い辛い、と言いながらも、オレンのジュースですっきりすれば、またその刺激が恋しくなって……止まらない!
生地の甘みがしっかりしているのも、フレッシュなお野菜の青臭さも、辛味を引き立てて、さらにおいしさが増す。
「んん~! 最高! 最高です‼」
「良かったです。お嬢さま、次は、こちらのソースもお試しください」
差し出されたのは緑色のソース。くぅ、ネクターさん、そのパスは反則です!
一つ目を食べ終えた私は早速二つ目のタコス作りに取り掛かる。
先ほど入れなかったトマトとシシトウをチョイスして、お肉と一緒に挟む。ソースはもちろん緑色のソースだ。
口へ運ぶと、先ほどとは違ってしゃくしゃくとしたやわらかな食感。
緑色のソースは酸味が強く、青臭さがある。鼻を抜けるライムの香りが爽やかで、あっさりとした味わいが食べやすい。
しかも、だ。お肉の豪快な大味がソースやトマトでスッキリとまとめられていて、これまた後味の名残惜しさから次の一口が止まらない!
「これは! また最強のタコスを生み出してしまいました……」
「なんですか、それは」
「そこは、罪な女ですねって言うところですよ!」
ネクターさんは不思議そうに首をかしげる。けれど、その顔はどこか楽しそうだ。
「っていうか、ネクターさん、チーズ入れてるじゃないですか!」
彼の二つ目は、レタスとトマト、お肉、チーズ。トマトベースのソースはそのままだ。
「その組み合わせも最強そうです……」
真似して私もチーズを入れてみたり、マスタードソースとお肉の甘辛いタコスを作ってみたり、様々な組み合わせを試しながら、タコスを食べ進めていく。
アオも、それぞれの材料を少しずつ食べていたけれど、どれも「ぴぇぇ!」と満足げな声を上げていた。特に、エアレーのお肉が気に入ったらしい。仕込みをしたネクターさんもどこか嬉しそうだった。
鮮やかなランプに照らされながら、二人と一匹のタコスパーティーは和やかに進む。
たくさんの食材で彩られていたテーブルの上も、そうこうしているうちにいつの間にか片付いていった。
「はぁ……大満足です! どれもおいしかったし、すごく楽しくて!」
オレンのジュースを飲み切って、ふぅ、と息を吐く。もちろん、幸せの吐息だ。
「お嬢さまに満足していただけて良かったです。本当に」
相変わらずのイケメンっぷり。美しく微笑まれては、私も直視できない。
「さ、片付けはしておきますから、お嬢さまは先に中へ戻ってお風呂にしてください。すでにお湯も沸いているでしょうし」
夜風でお体が冷えてはいけません、と温暖な気候のベ・ゲタルでも心配性を発揮するネクターさん。
イケメンにエスコートされて、体は冷えるどころか熱を帯びているくらいだけれど。
私はネクターさんのその優しさに甘えて、先に中へと戻ることにした。
森の中、風に揺られた木々の優しい音が空いっぱいに響く。
満天の星と、鮮やかなガラスランプの光。何より、キラキラと眩しいネクターさんの笑みをしっかりと脳内の思い出フォルダにおさめて、私はゆっくりと夜を楽しんだ。