64.文化の違いも楽しんで(2)
反対側の道へと渡る。少し歩いていると、賑やかしいお洋服屋さんが現れた。見えているだけでもド派手な色と柄の数々に目がチカチカしてしまう。
シュテープではあまり見かけることのないデザインが超素敵!
「ネクターさん! これ、かわいいです!」
「……本当にこれを着るんですか⁉」
「え、すっごく素敵じゃないですか! シュテープじゃ中々見かけないし、嬉しいです!」
ネクターさんの手を引いて店内へと足を進める。
原色の青を使ったワンピースに、華やかなオレン色のシャツ、刺し色が映えるロングドレス。どれも着こなせたら超かっこいい!
ネクターさんはしぶしぶと言った様子でお洋服を選んでいく。
いつもはあまり迷うことのない彼も、さすがに今回は時間をかけている。出来る限り柄の少ないものを選ぼうとじっくり手に取っていた。
「ネクターさん! こっちも絶対に似合いますよ!」
「さすがにそれは……」
「試着だけしてみてもらえませんか! 気に入らなければ、買わなくて良いですし!」
「……分かりました。ですが、試着だけですからね」
ネクターさんの手に、あえて派手な柄や色のシャツを押し付けて試着室へと追いやる。その間に私も今まで着たことがないようなデザインのものを選んでいった。
シュテープでお洋服を選んだ時とはまるで逆だ。
「お、お嬢さま……」
しばらくお洋服を選んでいると、ネクターさんの声が聞こえて私は振り返る。
試着室からひょこりと不安げに顔をのぞかせたネクターさんが、カーテンをゆっくりと開いた。
「わぁ! すっごく素敵です! やっぱり似合うじゃないですか!」
「ほ、本当ですか……⁉ そ、その……自分ではどうにも落ち着かないというか……」
「超かっこいいですよ‼」
試着室から出てきたネクターさんは、クールなのに明るい雰囲気がある。
ラップとかダンスとか、超上手そう!
「ビートとか刻んでもらえたりしませんか⁉」
「び……?」
「なんでもないです!」
黒のスキニーがぴったりとしているからか、トップスのオーバーサイズも全体的にきれいにまとまっているように見えるし……。
「とにかく! 本当におしゃれです!」
できれば、このままネクターさんが気に入ってくれますように。
そうだ! クレアさんにも見せてあげよう!
カードをかまえてパシャリとネクターさんの貴重な姿を写真におさめる。
「……お嬢さまは人をのせるのがお上手すぎます」
頬を染めたネクターさんはすぐさま顔を手で覆い、「ここにいる間だけでも着てみます」と小声で返事をして試着室へと戻っていった。
どうやら、ネクターさんは新しいお洋服にチャレンジしてくれるみたい。
お洋服の明るい色合いのおかげか、ネクターさんもポジティブになったような……。
うんうん。ネクターさん、良い感じです!
その後も順調にお洋服を選び終えた私たちは、そのまま着替えをすませて、お洋服屋さんを後にした。
お洋服屋さんも陽気な人で「また来でね!」とアクセサリーをサービスしてくれたし。
旅立つ前に、お母さまたちへこのお洋服をお土産に送ってあげよう。
*
ベ・ゲタルっぽいお洋服に身を包んだ私たちはフーズマートへ向かう。
かなり大きな建物だし、さっき見つけた場所だ。迷うことなくたどり着いて、その入り口をくぐり抜ける。
「今日の晩ご飯は、な~にっかな~!」
鼻歌交じりにカートを押しながら、フーズマートの中を歩く。
さすがは野菜大国、ベ・ゲタル!
とにかくシュテープでは考えられないくらいたくさんの野菜や果物が並んでいる。しかもどれも安い。
シュテープの半額で売っているお野菜や果物もあって、これにはさすがのネクターさんもびっくりしていた。
輸入するとお金がすごくかかるんだって漠然とした実感がわく。
「今までは新しいものとか、珍しいものをやり取りするのが貿易のお仕事だって思ってたんですけど、少しでも安くて良い物をお買い物するのも貿易のお仕事ですね!」
旅に出なきゃ知れなかった。私の言葉に、ネクターさんも同意する。
「そもそも、貿易をしてくださる方がいなければ、僕らは満足に生活することすら出来ませんから。プレー島群のように様々な文化や環境の異なる国が集まっているところでは、すごく大切なお仕事ですよね」
「……うん! 私、もっともっと頑張ります! 貿易の勉強も、いろんな国のことも」
お母さまたちがせっかくくださったチャンスだ。
改めて、この旅は間違いじゃなかったんだと素直に思えた。
陳列されたお野菜や果物の種類や値段をしっかりと見つつ、シュテープと比較する。
さすがネクターさんは元料理長というだけあって、値段にも詳しかった。
たくさんのことを教えてもらいながら、フーズマートで勉強する日がくるなんて、としみじみしてしまう。
「ネクターさん、晩ご飯はお野菜たっぷりにしましょう! 私、サラダ作ってみたいです!」
唐突に浮かんだアイデアを口にすると、ネクターさんは「え⁉」と困惑を表に出した。どうやら予想外だったみたい。
「サラダくらいなら、私にも作れるかなって!」
「で、ですが……お嬢さまのお手を煩わせるようなことは……」
「私がやってみたいんです! お料理なんて全然できないけど、サラダだったらそんなに難しくないかなって!」
「……確かに、サラダくらいでしたら難しくはないですが……」
「ね! ネクターさん、お願いします!」
両手を合わせて頼み込むと、ネクターさんは「分かりました」と呆れたように笑う。
「やった! じゃあ、何からすればいいですか?」
「では、まずは材料を選びましょう。葉物野菜を三つと、果物を一つ選んでください」
「ハモノ野菜?」
「葉の部分を食べるお野菜のことですよ。キャベツやレタス、ホウレンソウなんかがそうですね」
「了解です!」
包丁を使わずに作れるから簡単なんですよ、とネクターさんが教えてくれて、私はちぎりやすそうな葉っぱのお野菜を選ぶ。
果物にはオレンをチョイスした。サラダには熟れて赤くなっているものよりも、黄色みの強い酸味があるものが良いとアドバイスをもらって、買い物かごへ入れる。
簡単なサラダ作りだけど、お料理をするのは初めてのこと。
どんなサラダになるのか、今からすっごく楽しみだ!
ウキウキとスキップしながらフーズマートを歩いて、とある一角にさしかかり……
「おわぁぁぁああっ⁉」
私は思わず悲鳴を上げた。




