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63.文化の違いも楽しんで(1)

 ベ・ゲタルで有名な市場へと向かって、ネクターさんはホテルから再び車を走らせた。

 この国は森や川、山がある関係で、町同士の距離が遠いのだ。


「本当に車社会なんですね」

「地形の関係で鉄道をひくことが難しいんだそうですよ」

「どうしてなんですか?」


「木々が多く、地面にたくさん根を張っているでしょう?」

 ネクターさんは窓の外へと目をやる。私も助手席側から地面を覗き込むと、確かに木々の根がたくさん張り巡らされているのが一目でわかった。


「あまりにも複雑に根が張られていて、整地をしてもまた生えてきたり……そもそも整地に莫大なお金がかかったりするんだそうです。目には見えませんが、水脈もかなり通っているらしくて、地盤がゆるかったりするのも原因だと聞いたことがあります」


「へぇ! 鉄道をつくるのも大変なんですね……」

「木が多いと電線を引くのも大変ですし、山や川があるとトンネルや橋の工事も増えますからね」


「しかも、こんなに木が多いのに蒸し暑いですし! 比較的気温が安定してるって聞いてたから、大丈夫だと思ってたのに」

「乾期の今が最も暑いですから」


 シュテープで買ったお洋服も厚手のものばかり。ベ・ゲタルのお洋服が着られるのは嬉しいから良いんだけど!

 シュテープからわずか二日で移動できる距離の国で、こんなにも違いがあるなんて面白い。


「こっちのお洋服は派手な色とか柄が多いらしいですよ」

 私の言葉に、ネクターさんが思案顔を見せる。何かを心配したり、不安に思ったりするときのいつもの表情だ。


「そういえば、ネクターさんってあんまり派手な色のお洋服とか着ないですよね?」

 ネクターさんのお洋服は色も形もシンプルでフォーマルものが多い。


「僕が着れるような服があると良いのですが……」

「ネクターさんならなんでも似合うと思います!」

「そんなことは……」

「大丈夫ですよ~! ちょっとワイルドな感じに着崩したりしてもおしゃれそうだし、素朴なスタイルでもネクターさんならおしゃれな感じになります!」

「……普段そういったものを着ないので、きっと落ち着きませんね」

「ネクターさん、イケメンは武器ですよ! 使っていきましょう!」


 私がぐっと親指を立てると、ネクターさんはますます眉を下げて口をつぐむ。

 ネガティブな思いを無理やり飲み込んだのか、苦々しい表情のまま、顔を進行方向へと戻した。



 *



 大きな川を一本渡り切ったところで、生い茂っていた木々が突如開けた。

 車が大量に行きかうベ・ゲタルの主要な高速道路と合流して、私たちの車もその流れにのっかる。


 しばらく走った後、高速を降りて、お店や街路樹が立ち並ぶ国道沿いへ。

 建物はどれも鮮やかな色彩で、植樹された緑とのコントラストが美しい街だ。

 同系色でまとめることを様式美としているシュテープに対して、ベ・ゲタルではカラフルこそ正義って感じ!


「なんだか元気になります!」

「シュテープの整然とした美しさも好きですが、こういう風景も面白いですね」

「ますます異国って感じがしてきました! 看板とかも派手だし、目移りしちゃいます」


 まずはお洋服屋さんに行きたいところだけれど、どこのお店もとにかくド派手で、どれがお洋服屋さんなのか一目には分からない。

 しかも、ベ・ゲタルにはギルドの風習がないのか、見慣れたギルドの看板もないので、お店の一軒一軒をしっかり見て回らないと見落としてしまいそうだ。


「本当に全然違いますね! プレー島群は貿易も盛んだし、文化とか風習とか、もっと似たような雰囲気があってもいいのに」

「気候も環境も違いますからね。それに、文化や風習は貿易では手に入りませんから」


 ネクターさんは口角を上げると、

「だからこそ、どんな食材が売っているのか楽しみですね」

 と付け加えた。


 お料理のことは絶対に楽しみにとっておきたい!

 そう思っていたから、私も詳しくは調べていないのだ。お野菜や果物が有名なことは知っているけれど、それ以外のローカルフードもたくさんあるはず。


 公共の駐車場に車を停めて、私たちは目的のお店を探す。

 平日の昼間だというのに広い歩道もたくさんの人で賑わっていた。

 この辺りがベ・ゲタルの中では最も観光地らしい場所なのかもしれない。


「あぁ、大きなフーズマートがありますね。洋服屋を見つけたら、フーズマートを覗いてみましょうか」

「了解です! お洋服屋さん、見つからないですね」

「布は売っていますが、洋服の加工は別なのかもしれませんね」


 ネクターさんは困ったな、と頭を軽くかいた。

 とはいえ、足を止めることはない。ベ・ゲタル独自の光景を楽しみながら進んでいく。


 この国の風土なのか、陽気な雰囲気の人たちが多くて、街の一角では大きな音楽を鳴らしながらダンスをしている人たちもいる。

 首元のジャラジャラとしたネックレスや、手首のブレスレットが体の動きに合わせて音を立てていてより賑やかだ。


 すっごく楽しそう!

「僕は踊りませんよ」

 先手を打つように隣からネクターさんの声がする。


「何も言ってないです!」

「お顔に書かれてましたので。リッドかウェアマグをお貸しいただければ、撮影はさせていただきます」


 あの輪に飛び込んでも良い、ということだろう。

 私は、「やった!」と素直に喜んで、ネクターさんにウェアマグを渡す。

 そのままダンスをしている人たちの輪の中へ飛び込むと、みんなから歓声が上がった。


 どうやらみんな、この辺りの人みたい。踊りながら、昨晩のことや最近あったことなどを話している。

 年齢も性別も問わず、こうやって気ままに楽しんでいるようだ。


「この辺のお洋服屋さんを探してるんですけど!」

 私も隣で体を揺らしているお姉さんに声をかけると「それなら」と彼女は向かいの道を指さした。


 ジャーンッ!

 締めの音が鳴り響いて、私たちは呼吸を弾ませながらも互いに抱き合う。


「アンタ、気に入ったがや! まだ会えるどええモン!」


 黒髪を揺らすお姉さんにウィンクをもらった私。ネクターさんのもとへと駆け寄ると

「また、知らない人をたぶらかして……」

 と苦笑交じりにお小言をいただくことになったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 車旅からの散策。そして飛び入りでも参加できる路上ダンスパーティーに、更にはお店の情報までゲット。そして見知らぬ人を落とすことも忘れずに……フランちゃん、恐ろしい子……ッ! |ョ゜д゜`;)…
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