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おかわり! ~お屋敷を追放されたかわいそうな私と料理長は異世界を食べ歩きます!~  作者: 安井優
おかわり 二人の旅はどこまでも

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301/305

301.次なる旅行の計画は

「夏休みの予定?」

「はい! もう決まってたりしますか?」


 ネクターさんは、もぐもぐとお魚のソテーを()みしめてから、フォークを脇へよける。

 食べる所作が美しいことはもちろんだけど、お魚の食べ方まで惚れ惚れするほど綺麗だ。


 口を拭ったネクターさんは「まだ決めておりませんよ」と首を横に振った。

「それじゃあ!」

 もうすぐ夏休み。ネクターさんの予定がなくて、私も自由にしていいと言われていれば、提案することはただ一つ。


「また旅行しましょう! 一緒に!」

 私は魔法のカードを取り出して、用意していたプレゼン資料を空中に映し出す。


「……異世界食べ歩きツアー、クィジン大陸編?」

 プレゼン資料に書かれた文字を、ネクターさんは不思議そうに読み上げる。

 しばらくパチパチと目をまたたかせて沈黙した後、笑みをこらえきれなくなったのか、フルフルと肩を震わせた。


「いつの間に、こんなものをご用意してらしたんですか……? 最近は帰りが遅いと思ったら……」

「べ、別に! お仕事中に作ってたわけじゃないですよ! 休憩時間とか! 寝る前とか! な、夏休みが楽しみだっただけで! 別に! いいじゃないですか!」


 何がツボに入ったのか分からないけれど、いまだ笑っているネクターさんに、私は思わずむくれてしまう。

 こっちは真剣なのだ! またネクターさんと旅行したいし! 食べ歩きしたいし! それに、これだってお仕事につながるんだから!


「クッ……、ふふ、すみません。その、お嬢さまが、夏休みを楽しみにしていらっしゃるのがかわい……いえ、何といいますか、無邪気で良いな、と」

「バカにしてません⁉」

「してませんよ。それに、お嬢さまとまた旅が出来るのはとても嬉しいです」


 ネクターさんはひとしきり笑った後、「ぜひ計画を教えてください」と続きを促す。

 スマートにたしなめられたら、余計に私が子供っぽいじゃん! ネクターさんめ。いつか絶対に私が大人なレディになって見返してやるんだから。


「と、とにかく! 今回は、武者修行で行けなかったクィジン大陸の方へ行こうと思います! クィジン大陸の国にも、たくさんのおいしいものが集まってますから!」

 私は空中に浮かんだ仮想スクリーンをスライドして、次のページへとすすめる。


「目的は、とにかくおいしいものを食べること! それから、めいっぱい楽しむこと!」

「分かりやすくて良いですね。具体的にどこの国に行くかはお決めになられているんですか?」


「よくぞ聞いてくださいました!」

 ネクターさんの質問に、私はフフンと次のページを見せる。

 プレゼン資料には、その国の国旗と地形、それに国名がしっかりと書かれている。


「クィジン大陸編、最初の国はスウェースです!」

 ババーン! と自ら効果音をつけて発表すれば、ネクターさんは再び口元を覆って笑みをかみ殺す。相変わらず我慢しきれていない。

 おまわりさん! この人、失礼です!


「す、すみません……。んんっ! す、スウェースは良い国だと聞いておりますし、良いのではないでしょうか」

「デシと似た特徴も多い国だし、プレー島群からも比較的近いので行きやすいかなって。それに、スウェースには独自の文化や珍しい食べ物も多いんですって! 言葉が少し違うんですけど、それも勉強になって面白いかなって思って選びました!」


 私がしっかりと理由を説明すると、ネクターさんは「なるほど」と小さく拍手してくださる。うまくネクターさんを説得できたらしい。


「シュテープの夏と違って、スウェースなら涼しく過ごせるのもポイントです!」

 私は次々とスウェースの魅力をネクターさんに説明していく。

 ネクターさんはそのどれもを真剣に聞いてくださって「良いですね」と賛同してくださった。


「それじゃあ、ネクターさん! 夏休みは、私と一緒に旅行してくださいますか⁉」

「えぇ。喜んで。お嬢さまの専属の付き人として、地の果てまでもついていくとお誓い申し上げましたから」


 ネクターさんはにっこりと笑うと、

「さ、食事が冷めてしまわないうちに食べましょう」

 と料理の続きを私に勧める。


 ネクターさんが選んでくださったレストランは、大衆食堂のような気軽さながら、どのお料理も食べやすく、飽きの来ない味になっている。

 そのおかげか、お客さんも様々な層が来店していてすごく良い雰囲気だ。


「ネクターさん、お魚とお肉を交換してください!」

「かまいませんよ」

 私が頼んだラムステーキをネクターさんに差し出すと、ネクターさんもお魚のソテーを綺麗に切り分けてこちらに差し出す。


「ありがとうございます! んん! このお魚のソテーもすごくおいしい! 白身が甘くてとろっとしてるし、お塩がしっかり聞いててご飯が進みます! それに、ライム? みたいな柑橘系の味がすごく爽やかで!」


「ラムステーキもおいしいですね。塩コショウだけの味付けなのに、すごく豪快で深い味わいです。ラム独特の臭みもないし……。肉もやわらかくて」


 私たちは互いに半分こしたお料理を食べて、顔を見合わせる。

 うん、ここのお店はみんなにおすすめできそう。さすがはネクターさんだ。


「いろんなお料理を食べてきたけど、やっぱりシュテープのお料理って安心しますね! 懐かしいっていうか、ふるさとの味ってこのことなんだなって」

「そうですね。どの国の料理もおいしいですが、シュテープの味付けは僕らにとってなじみ深いですから」


「でも、他の国のお料理もやっぱり食べたいです!」

「夏休みまで後少しですから。それに、どうしても食べたくなったらご用命ください。正確に再現できるかどうかはわかりませんが、少しはお役に立てるかと」


 ネクターさんは最後の一口を頬張(ほおば)って、フォークとナイフをお皿の上に置く。

 どんなお料理でも再現できる料理人が目の前にいるんだから、確かに、色々と作ってもらわなくちゃ損かも……。


「お嬢さま、悪いことを考えているお顔ですよ」

「そ、そんなことないです! 何を作ってもらおうかなって考えてただけです!」

「長く一緒にいると、不思議とお嬢さまの考えていることが分かる瞬間があるんですよ」

 慌てふためく私に、ネクターさんが苦笑する。


「ですが、お嬢さまのためなら、どんな料理でも作ってみましょう」

「……ネクターさんってほんとずるい!」

 イケメンなネクターさんに私が頬をふくらませると、彼は再び声を上げて笑った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おおっ、また二人の旅があるんですねッ! うんうん、二人があーだこーだしながら食べ歩くのが、この物語って感じがしますからねえ。食レポも健在ですし、やはり色んなものを食べてもらわないとッ! (…
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