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おかわり! ~お屋敷を追放されたかわいそうな私と料理長は異世界を食べ歩きます!~  作者: 安井優
6品目 デシと花咲き誇る時

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290.みんなのエールを力に(2)

 驚いたことに、応援に駆け付けてくださったのはオリビアさんだけではなかった。


「フランちゃん! 久しぶり!」

「相変わらず元気そうだな」

 デシの国でひときわ目立つ集団がここにも一つ。ドラゴンハンターのメンバーだ。


「どうしてみなさんがここに⁉」

「ロウとフィーロが行くって聞かなくてな。どうせなら、デシの国で一儲けしようってことになったんだ」


 ガードさんによると、数こそ多くないもののコロニー間の雪山には貴重な魔物が住んでいるらしい。

 デシでもハンターとして活躍しているなんてすごい!


「ちなみに、ロウさんとフィーロさんはどちらに?」

 行くと言って聞かなかった二人の姿が見えない。私が首をかしげると、レイさんが

「フィーロはズパルメンティの友人を呼んでくるって言ってたよ!」

 と教えてくれる。


「ロウは、友人が出場するからと言っておりましたが……。なかなか戻ってきませんね。ロウの友人ですから、もしかしてお二人のご友人では? お会いしてませんか?」

 イーさんからは逆に尋ねられ、私とネクターさんは顔を見合わせた。


 ロウさんと言えば、エンさんの知り合いだったはず。そして、私たちの友人と言えば……。


「まさか、エンが⁉」

 ネクターさんは目を見開いた。

 紅楼国(クロウコク)の服装であれば目立ちそうだけど、出場者の数も多かったし、気づかなかった。


「サプライズだったのかもね」

 後ろから声がかかって、私たちは振り返る。


「フィーロさん! それに、スメラさんも!」

「久しぶり」

「久しぶりねぇ! フランちゃん、それにイケメンなお兄さんも」


 パチンとウィンクをしたスメラさんに、レイさんが「美人なレディ!」と早速声をかけている。

 フィーロさんがレイさんのお尻に一発キックを入れると、「ふごっ⁉」とレイさんから不穏な鳴き声が聞こえた。


「……このキモイのは放っておいて。二人とも元気そうだね」

「えぇっと……その、はい! おかげさまで!」

「マジックスターは使ったかしら?」

「いえ、まだです! 旅が終わってから使おうかなって思って、大事にとってあります!」

「それは嬉しいわ。大切に使ってちょうだいね。今日の成功も祈ってるわ」

「魔法は使えないが、二人なら問題ない」


 魔法使い二人からも心強い声援をもらって、私とネクターさんはお互いに力強くうなずく。

 みんなが来てくれるなんて思わなくて、なんだかますます優勝しなくちゃと気合が入る。


「さ、そろそろコンテストも始まるだろう? 応援してるよ」

「はい! 頑張ります!」


 ガードさんたちとお別れして、私たちはコンテスト会場へと戻る。

 フェスティバル会場も人が増えて、なかなか思うように身動きが取れない。

 ネクターさんとはぐれないように気を付けながら、コンテストステージを目印にして人ごみをくぐり抜けていく。


「フランさま」

 群衆の中で、確かに自分を呼ぶ声がした。


「えっ?」

 キョロキョロと周囲を見回せば「こちらですよ」と穏やかな声が後ろから聞こえる。

 ケーキが並ぶテントの下、そこにはウェスタさんの姿があった。


「ウェスタさん!」

 私の声に反応したのはネクターさんだ。私の少し前を歩いていた彼もその足を止め、くるりと振り返る。


「フォロ先生!」

「やぁ、アンブロシアくん。元気そうだね」

「おかげさまで。どうして先生がここに⁉」


 私よりも嬉しそうなネクターさんが、ケーキを食べているウェスタさんのもとへと駆け寄っていく。

 ウェスタさんはゆっくりとフォークを置くと、「当たり前だろう」と笑った。


「一番弟子の活躍を見逃すわけにはいかないからね」

 ウェスタさんの優しい瞳がメガネ越しにゆるりと細められる。

 その言葉に、ネクターさんが「なっ」と口元を覆った。


 この仕草がネクターさんの照れ隠しだって、私は気づいている。

 きっと今、嬉しくて仕方ないのだろう。ウェスタさんは、ネクターさんにとってずっと憧れの料理長だろうから。


「まさか、フェスティバル会場で会うとは思ってもみなかったよ。フランさまもお元気そうで良かったです。二人で出場するとか。アンブロシアくんはスパルタだったでしょう?」

「はい! おかげで毎晩筋肉痛になりました! 腕の筋肉モリモリマッチョマンです!」

「はは、アンブロシアくんらしい」


 私がマッチョのポーズをとると、ネクターさんが「申し訳ありません」と小さく謝る。

 スパルタ指導のおかげで、コンテストになんとか間に合う程度にレベルアップしたのだから、謝る必要なんてないのに。


「……さて、そろそろコンテストですね。後で応援席に向かいますから、二人は準備を。楽しみにしておりますよ」

 ウェスタさんはにっこりと笑って手を挙げる。

 私とネクターさんはお礼を言って、再びコンテスト会場へと向かった。


 結局、エンさんの姿を見ることはなかったけれど、もしも、本当にコンテストに出場しているならまだ会えるチャンスはある。

 もしかしたら、ライバルとして出会うことになるのかもしれないけれど。


 コンテスト会場の方も、どんどんと人が増えて来て活気づいてきた。

 受付に並んでいた時は緊張感ただよう空気感だったけれど、それがもっと闘争心あふれる熱気に包まれているような気がする。


 私も気合を入れるためにペチペチと頬を叩く。

 ネクターさんからのお守りはペンダントにして首から下げている。それに、クレアさんからもらったソングフラワーもポケットの中に。


 みんなからもらった声援は、心の中にある。


「ネクターさん、頑張りましょう!」

「えぇ、お嬢さま。僕は、テオブロマ家の料理長として……お嬢さまの従者として、悔いのないよう、全力を尽くすとお誓いいたします」


「それじゃあ、私は……テオブロマ家の一人娘として……それから、えぇっと……」

 ネクターさんみたいにかっこいいことを言おうと思って考えたけれど、いまいちパッとしない。うぅん、と唸ってしばらく。


「うん! そうだ!」

 私は、テオブロマ家の一人娘ではなく、一人の、フラン・テオブロマとしての答えを導き出す。


「ネクターさんの、最高で最強な相棒として! 全力で頑張ります!」


 私は拳を握ってネクターさんの方へ差し出す。

 ネクターさんは少し考えた後、「ご自分でおっしゃるんですね」と美しい笑みをこぼして、握った拳をそっと差し出した。


「頼りにしておりますよ。最高で最強の相棒、お嬢さま」


 コツン。

 私たちの拳がぶつかる。

 そこには確かに私たちの決意が宿っていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 懐かしい皆様が勢揃いですな、熱いッ! しかもエンさんは参加側とは……これは荒れますよお。しかし、先生からの激励を受けたネクターさんに、筋肉モリモリマッチョマンのフランちゃん。そう簡単には、…
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