290.みんなのエールを力に(2)
驚いたことに、応援に駆け付けてくださったのはオリビアさんだけではなかった。
「フランちゃん! 久しぶり!」
「相変わらず元気そうだな」
デシの国でひときわ目立つ集団がここにも一つ。ドラゴンハンターのメンバーだ。
「どうしてみなさんがここに⁉」
「ロウとフィーロが行くって聞かなくてな。どうせなら、デシの国で一儲けしようってことになったんだ」
ガードさんによると、数こそ多くないもののコロニー間の雪山には貴重な魔物が住んでいるらしい。
デシでもハンターとして活躍しているなんてすごい!
「ちなみに、ロウさんとフィーロさんはどちらに?」
行くと言って聞かなかった二人の姿が見えない。私が首をかしげると、レイさんが
「フィーロはズパルメンティの友人を呼んでくるって言ってたよ!」
と教えてくれる。
「ロウは、友人が出場するからと言っておりましたが……。なかなか戻ってきませんね。ロウの友人ですから、もしかしてお二人のご友人では? お会いしてませんか?」
イーさんからは逆に尋ねられ、私とネクターさんは顔を見合わせた。
ロウさんと言えば、エンさんの知り合いだったはず。そして、私たちの友人と言えば……。
「まさか、エンが⁉」
ネクターさんは目を見開いた。
紅楼国の服装であれば目立ちそうだけど、出場者の数も多かったし、気づかなかった。
「サプライズだったのかもね」
後ろから声がかかって、私たちは振り返る。
「フィーロさん! それに、スメラさんも!」
「久しぶり」
「久しぶりねぇ! フランちゃん、それにイケメンなお兄さんも」
パチンとウィンクをしたスメラさんに、レイさんが「美人なレディ!」と早速声をかけている。
フィーロさんがレイさんのお尻に一発キックを入れると、「ふごっ⁉」とレイさんから不穏な鳴き声が聞こえた。
「……このキモイのは放っておいて。二人とも元気そうだね」
「えぇっと……その、はい! おかげさまで!」
「マジックスターは使ったかしら?」
「いえ、まだです! 旅が終わってから使おうかなって思って、大事にとってあります!」
「それは嬉しいわ。大切に使ってちょうだいね。今日の成功も祈ってるわ」
「魔法は使えないが、二人なら問題ない」
魔法使い二人からも心強い声援をもらって、私とネクターさんはお互いに力強くうなずく。
みんなが来てくれるなんて思わなくて、なんだかますます優勝しなくちゃと気合が入る。
「さ、そろそろコンテストも始まるだろう? 応援してるよ」
「はい! 頑張ります!」
ガードさんたちとお別れして、私たちはコンテスト会場へと戻る。
フェスティバル会場も人が増えて、なかなか思うように身動きが取れない。
ネクターさんとはぐれないように気を付けながら、コンテストステージを目印にして人ごみをくぐり抜けていく。
「フランさま」
群衆の中で、確かに自分を呼ぶ声がした。
「えっ?」
キョロキョロと周囲を見回せば「こちらですよ」と穏やかな声が後ろから聞こえる。
ケーキが並ぶテントの下、そこにはウェスタさんの姿があった。
「ウェスタさん!」
私の声に反応したのはネクターさんだ。私の少し前を歩いていた彼もその足を止め、くるりと振り返る。
「フォロ先生!」
「やぁ、アンブロシアくん。元気そうだね」
「おかげさまで。どうして先生がここに⁉」
私よりも嬉しそうなネクターさんが、ケーキを食べているウェスタさんのもとへと駆け寄っていく。
ウェスタさんはゆっくりとフォークを置くと、「当たり前だろう」と笑った。
「一番弟子の活躍を見逃すわけにはいかないからね」
ウェスタさんの優しい瞳がメガネ越しにゆるりと細められる。
その言葉に、ネクターさんが「なっ」と口元を覆った。
この仕草がネクターさんの照れ隠しだって、私は気づいている。
きっと今、嬉しくて仕方ないのだろう。ウェスタさんは、ネクターさんにとってずっと憧れの料理長だろうから。
「まさか、フェスティバル会場で会うとは思ってもみなかったよ。フランさまもお元気そうで良かったです。二人で出場するとか。アンブロシアくんはスパルタだったでしょう?」
「はい! おかげで毎晩筋肉痛になりました! 腕の筋肉モリモリマッチョマンです!」
「はは、アンブロシアくんらしい」
私がマッチョのポーズをとると、ネクターさんが「申し訳ありません」と小さく謝る。
スパルタ指導のおかげで、コンテストになんとか間に合う程度にレベルアップしたのだから、謝る必要なんてないのに。
「……さて、そろそろコンテストですね。後で応援席に向かいますから、二人は準備を。楽しみにしておりますよ」
ウェスタさんはにっこりと笑って手を挙げる。
私とネクターさんはお礼を言って、再びコンテスト会場へと向かった。
結局、エンさんの姿を見ることはなかったけれど、もしも、本当にコンテストに出場しているならまだ会えるチャンスはある。
もしかしたら、ライバルとして出会うことになるのかもしれないけれど。
コンテスト会場の方も、どんどんと人が増えて来て活気づいてきた。
受付に並んでいた時は緊張感ただよう空気感だったけれど、それがもっと闘争心あふれる熱気に包まれているような気がする。
私も気合を入れるためにペチペチと頬を叩く。
ネクターさんからのお守りはペンダントにして首から下げている。それに、クレアさんからもらったソングフラワーもポケットの中に。
みんなからもらった声援は、心の中にある。
「ネクターさん、頑張りましょう!」
「えぇ、お嬢さま。僕は、テオブロマ家の料理長として……お嬢さまの従者として、悔いのないよう、全力を尽くすとお誓いいたします」
「それじゃあ、私は……テオブロマ家の一人娘として……それから、えぇっと……」
ネクターさんみたいにかっこいいことを言おうと思って考えたけれど、いまいちパッとしない。うぅん、と唸ってしばらく。
「うん! そうだ!」
私は、テオブロマ家の一人娘ではなく、一人の、フラン・テオブロマとしての答えを導き出す。
「ネクターさんの、最高で最強な相棒として! 全力で頑張ります!」
私は拳を握ってネクターさんの方へ差し出す。
ネクターさんは少し考えた後、「ご自分でおっしゃるんですね」と美しい笑みをこぼして、握った拳をそっと差し出した。
「頼りにしておりますよ。最高で最強の相棒、お嬢さま」
コツン。
私たちの拳がぶつかる。
そこには確かに私たちの決意が宿っていた。




