283.いざ試食! 課題も見えて
四人分のピザがリビングのテーブルに並ぶ。
その光景はまさに圧巻!
色とりどりのクリームに、アイスやフルーツ、頑張って作ったかわいい飾りつけがちりばめられたピザは、見た目にもおいしい一皿だ。
「すごいね……」
いつもはクールなレーベンスさんもこれには驚きを隠せなかったのか、目を丸くしてじっとピザを凝視している。
「さっきまではピザがスイーツになるなんてと思っていたけど……これは本当においしそうだよ!」
レックさんも気に入ってくださったみたい。お料理のイメージが強いピザも、飾りつけを工夫すれば本当にお菓子のように見える。
「贅沢なタルトみたいです!」
「お嬢さまのおっしゃる通りですね。見た目も美しく仕上がっていますし、これはコンテストでも受けるのではないでしょうか」
ネクターさんも出来栄えにはホッと胸をなでおろしていた。
想像以上の出来だったのだろう。見た目だけで言えば、本当に今までに見たどんなお菓子よりも豪華だし!
「まあ、料理は見た目だけじゃないし」
レーベンスさんは食べたくて仕方がないのか、早速ピザに手を伸ばしている。
「そうそう、兄さんの言う通り。やっぱり味が大事だよね」
さすがは双子だ。レックさんもレーベンスさんと同じくピザをつまみ上げて食べる体勢を整えていた。
「ネクターさん! 私たちも食べましょう!」
「お嬢さま、まだ生地が熱いので、火傷にはお気をつけくださいね」
「もちろんです! って熱! 本当に熱いです!」
レーベンスさんたちがひょうひょうとピザを手で持っていたから、大したことはないだろうと思っていたけれど。
飾りつけをしていたとはいえ、焼きたてに近いピザだ。ふかふかの耳からまだまだその熱が伝わってくる。
一度ひっこめた手を、今度はゆっくりと近づける。
どれから食べようか迷ってしまうけれど、その時間でさえ楽しいから不思議だ。
「やっぱり、まずはシュテープからですね!」
私は、自らのお屋敷が飾り付けられたシュテープのピザを持ち上げる。
お家型のチョコレート以外にもたくさんのフルーツが飾られていて、華やかな一枚だ。
「では、僕は紅楼国を」
砂漠をイメージしたチーズクリーム。氷で作った岩山チョコレート。紅楼国の要素をたっぷりと詰め込んだピザも、やっぱり見た目が楽しい。
レーベンスさんたちは、シュガーローズがこれでもかと飾られたデシの一枚。
みんなで好きなものを選んで食べられるところも、我ながら良いアイデアだったかも!
これなら会場で知らない人とシェアをしても、自然と話が盛り上がりそうだし。
全員でピザを軽く持ち上げて、乾杯の挨拶代わりにする。
そこからはみんな早かった。
あっという間に口へピザを放り込んで――
「んん~!」
「んっ!」
「うわぁっ!」
「うん」
「「これは、おいしい!」」
思わず揃った声には、みんなで笑い声をあげてしまう。
まったく別々のピザを食べたはずなのに、みんなの感想がまさか一緒だなんて。
「フルーツがいっぱいですごく食べやすいです! 甘すぎなくて爽やかで! でも、お家のチョコレートもあるから満足感があるし!」
「チーズクリームが良いですね。チョコレートの甘さとチーズのコクがすごくよく合います」
「デシのピザもすっごく甘くておいしいよ! 僕はやっぱりデシの人間だから、これくらい甘い方が好きだな」
「うん。僕もこれは気に入った」
みんな口々に感想を言い合って、ピザを食べ進める。
他の人の感想を聞いたら、やっぱりそれも食べたくなってしまうのだから不思議だ。
我慢できない、と他の味も食べ比べたくなって手を伸ばしてしまう。
黙々と食べ進めていると
「お嬢さま、あの……そろそろ真面目に反省会を……」
とネクターさんが小さく挙手をした。
「そうだね。僕もその方が良いと思う」
賛同したのはレーベンスさんだ。やはり、同じ料理人ということもあってか、コンテストに向けたアドバイスがあるのかもしれない。
「確かに、このピザはすごくおいしいのですが……。完璧ではありませんよね」
ネクターさんもしみじみとうなずいて、ポケットからメモを取り出す。
「お嬢さまの意見はもちろんですが、お二人のご意見もぜひお聞かせください。デシの国の方々の好みもありますし」
そっか。私にとってはおいしいピザでも、デシの国の人たちとはやはり味覚が違う。
特においしいスイーツを日常的に食べ慣れている本国の人からすれば、このピザにだって思うところはあるだろう。
意外にも最初に手を挙げたのはレックさんだった。
「僕は素人だけど、この中では一番スイーツを食べてる自信があるから言わせてもらうね。まずは、生地。僕はもっとサクサクしている方がスイーツっぽくて好きだな。後はサイズももう少し小さいほうが食べやすいし、おなかもいっぱいにならなくてすむと思う」
彼の言葉に、ネクターさんはうなずきながらメモを取っていく。
生地は好みがあるだろうけれど、大きさはレックさんの言う通りだ。私もちょうど三枚を食べ終えて、すでに満足している。
「僕も生地はもっと軽い方が好き。デシの人たちは甘いものが好きだからね。生地を薄くして、クリームがたっぷりのっている方が喜ばれるよ」
レーベンスさんもレックさんと同意見らしい。
「そうですね、僕も生地はもっと改良が必要だと思っておりました。ローズオイルを加えましたが、飾りつけやクリームに味も香りも負けてしまって活かせていないですし……。やはり、飾りつけも重要ですね。制限時間の課題もありますし……」
ネクターさんも自分の意見をしっかりとメモしていく。
私にはおいしいピザだったけれど、言われてみればまだまだ改善できそうなところはたくさんある。
私も一生懸命に食べた時の違和感を思い出して、アイデアを出す。
ピザを食べながらの反省会は想像以上に白熱して、次から次へと新しい課題やチャレンジしたいことが見つかった。
早速ホテルに帰ったら、ネクターさんと作戦会議だ。
レーベンスさんたちから「明日以降もキッチンを貸してあげるよ」なんて申し出もあって、大きく前進できた、と私の心に希望の光が灯る。
「明日からも頑張りましょう!」
ぎゅっと両手を握りしめると、ネクターさんも力強くうなずいた。




