280.ピザ作りに初挑戦!(1)
カレーを食べ終えた私たちは、いよいよプレー島群詰め合わせピザの試作品を作るため、キッチンへと足を踏み入れた。
さすが、料理人をしているレーベンスさんがいるだけのことはある。揃っている道具一式に、ネクターさんも「問題ありません」と満足げにうなずいた。
「それでは、始めましょうか。今回は試作品で初めてなので、あまり凝ったことはせずシンプルに作りましょう。お嬢さまのイラストに近いものは目指してみますが、完璧な仕上がりにはならないかと」
「大丈夫です! おいしいものを作りましょう!」
私は魔法のカバンから買ってきた食材を全て取り出してキッチンのテーブルに並べる。
エプロンと三角巾をして、手をしっかり洗ったら、準備完了だ!
「では、やっていきましょう。お嬢さまははかりとボウルを出していただけますか?」
「わかりました!」
レーベンスさんたちに場所を教えてもらいながら道具を出すと、ネクターさんは使う材料だけを選んで分けていた。
「まずは、生地作りからですね。粉をそれぞれ測って入れていきます。お嬢さま、ボウルをはかりの上に乗せていただいても?」
言われた通りに空っぽのボウルをはかりにセットする。
ネクターさんは手際よく粉をボウルへと入れていく。
「ふるいにはかけなくていいんですか?」
「ピザの場合は大丈夫ですよ。後で生地をこねるので、その時に自然と均一になるんです」
「なるほど!」
ネクターさんは、はかりの数字を見て手を止める。ボタンを押すと、はかりに表示されていた数字はリセットされた。
「次はこの粉を……お嬢さま、やってみますか?」
「はい!」
「少しずつ入れてください。表示が五十になるまでです」
ネクターさんに教わって、少しずつ粉の入った袋を傾ける。入れ過ぎないように気を付けながら測り入れて、きっちり五十でストップだ。
その間にネクターさんがまたさらに別の粉、お塩、お砂糖と準備していく。
それらすべてを加えたら、「混ぜておいてもらますか」と指示が飛ぶ。ネクターさんは次の準備だ。
「あれ、ローズオイルもいれるんですか?」
ネクターさんが続いて用意してきたのはシュガーローズからとれるオイルだった。
ピザの生地に油が入っているなんて知らなかった。
「普段のピザにはオリーブオイルを使いますが、今回はお菓子ですので。シュガーローズのオイルは、香りも味もお菓子にはぴったりかと。オイルを入れると生地にサクサク感が出るんです」
ネクターさんはボウルにオイルを加える。一度軽く手で混ぜて、最後にお水を加えたら、ひとまず生地の材料は完成らしい。
「これをしっかりと手でまとまりが出るまでこねます。最初はベタベタしますが、こねているうちにまとまってくるのでご安心を」
ネクターさんはボウルの中に手を入れると、生地をこねていく。なんだか楽しそうだ。
「やってみてもいいですか⁉」
「もちろんです。生地がしっとりとつながるまでお願いします」
ネクターさんとバトンタッチして、私はしっかりと生地をこねていく。
ベトベトして伸ばしにくいと思っていた生地も、数分こねているうちにまとまりが出てきた。全体的にもちもちとした肌触りが気持ち良い。
「兄さん、ピザは作れる?」
「今のレシピなら覚えたよ」
「スイーツピザじゃなくて、出来れば料理の方が良いかな」
レーベンスさんとレックさんも興味津々のご様子でこちらを眺めている。
いつか、レーベンスさん特製のカレー味ピザが出来るかもしれない。
「ネクターさん、かなりまとまってきました!」
ボール状にまとめた生地を見せれば、ネクターさんもその生地を手で触ってうなずく。
「良いですね。では、発酵させましょう。まずは、生地を四等分にします」
生地をゴムベラできっちり四つにわけたら、それらをまた丸める。
「これをあたたかいところで発酵させます。あまり時間をかけずに、三十分程度にしておきましょう」
ネクターさんが丸めた生地をお皿に分けて軽くラップすると、レーベンスさんが「それなら」と食器乾燥機を指さした。
「スイーツコンテストだと、発酵が問題になりそうだね」
レーベンスさんの指摘にネクターさんがうなずく。まだまだここは改良の余地がありそうだ。
けれど、発酵さえ出来てしまえば生地の方はひとまず完成だ。
「次は飾りつけですね!」
「その通りです。ここに時間と手間がかかるので、コンテストの時は分担しましょうか」
ネクターさんはフルーツやチョコレート、水あめにシュガーローズ、飾り用の砂糖菓子や食紅なんかも次々と選んでは並べていく。
何にどう使うのかは分からないが、シリコンの小さなカップやおたま、ラップ、つまようじなんかも一緒に並べられた。
「今日は、イメージのしやすいモチーフから作ってみましょう。具体的にどのような飾りつけを行うかはもう少し検討が必要なので……。代表的なイメージを一つずつ並べていきましょうか」
「えぇっと、ベ・ゲタルは絶対にアオを入れたいです! アオのかわいいモチーフを作りたいです! それから、紅楼国は……うぅん、やっぱりドラゴンかなぁ。難しいですよね?」
「そうですね、ドラゴンは少し……。まずは、あの岩山のイメージを作ってみましょうか」
「たしかに! それならイメージにもぴったりだし!」
「デシは、シュガーローズを使ってデザインするとして、ズパルメンティとシュテープですが……」
「ズパルメンティはやっぱり海とか水のイメージですよね? 水滴とか!」
「なるほど。雨をイメージして、何か簡単な飴細工をしてみましょう」
「後はシュテープだけど……」
自分たちの出身国ということもあって、色々と浮かびはするものの、パッと一つモチーフを、と言われると難しい。
ある意味、最も穏やかで平均的な国がシュテープなのだ。
どうしたものか。
ネクターさんと二人で考え込むこと数分。
私の頭に浮かんだのは、自分にとってもっとも大切なシュテープの場所だった。
「テオブロマ家のお屋敷を、作ってもらえませんか?」
どう考えたって無茶だ。難しいと分かっている。それでも、挑戦したい。
私がネクターさんに問いかければ、彼はゴクリと唾を飲み込んだ。




