表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おかわり! ~お屋敷を追放されたかわいそうな私と料理長は異世界を食べ歩きます!~  作者: 安井優
6品目 デシと花咲き誇る時

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

262/305

262.花を添えて、ダッチベイビー(1)

 緊張と静寂に包まれるキッチン。

 私はゴクリと(つば)を飲み込んだ。


「では、お嬢さま、準備はよろしいですか?」

「は、はいっ!」

「緊張しなくて大丈夫ですよ。僕が隣で指示を出しますし、リラックスして頑張りましょう」


 ネクターさんにニコリと微笑まれ、私は意識的に肩の力を抜く。

 ついに、ホテルの近くにあるキッチンを借りての実践だ。

 おじいちゃんもキッチンの向こうでこちらの様子を窺っている。


 おじいちゃんのシュガーローズを使うんだもん。おいしいお菓子にしてあげるからね!

 ぐっとおじいちゃんにサムズアップして見せると、おじいちゃんはゆっくりとうなずいた。


「今回は初めての実践なので、簡単なものを作ります。お嬢さま、ダッチベイビーというお菓子はご存じですか?」

「ダッチベイビー?」

「パンケーキの一種ですね。スキレットと呼ばれる鉄製のフライパンを使って生地を焼くケーキです。エンテイさまのシュガーローズを使って、リンゴのソースも添えましょう」


 ネクターさんは小さめのフライパンを私の方へ「こちらです」と手渡すと、まずはオーブンで予熱するように、と指示を出す。


「いきなりケーキとか、ソースとか……私、本当に作れるでしょうか……」

「大丈夫ですよ。ダッチベイビーは特に簡単なものですし、リンゴのソースも難しくはありません。お菓子作りの基本もこれでおさえることが出来ますので、まずはやってみましょう」


 ネクターさんに指示された通り、スキレットをオーブンに入れる。オーブンの温度を設定して、ボタンを押すと、

「お嬢さま、なぜ予熱を行うか分かりますか?」

 ネクターさんから質問が飛んできた。

 これ、昨日ネクターさんと一緒に勉強したやつだ!


「えぇっと……短時間で熱を通して生地をしっかりふんわり仕上げるため! でしたよね!」

 記憶をたどって答えを引っ張り出せば、ネクターさんが両手で丸のサインを作る。

「正解です。さすがはお嬢さま。物覚えが良くていらっしゃいますね」

「やった!」


「では、次の工程へ。ボウルに卵を割り入れてください。今回は、卵黄と卵白は分けなくて良いですよ」

「了解です!」

「出来たらミルクを注ぎ入れます。分量はこの線まで」


 卵の殻を入れないように注意深く割り入れて、ミルクを計量カップへ注ぐ。指定された分量をきっちり入れたら、ネクターさんが私に待ったをかけた。


「粘度や性質の違うものを混ぜ合わせるときは?」

「ハッ! そうでした! 少しずつ、混ぜながら入れる!」

「正解です」


 卵を軽く混ぜてから、ミルクを少しずつ注ぎ入れる。少し入れては混ぜ、また少し入れては混ぜを繰り返す。均等に混ぜ合わせないと味に偏りが出るらしい。


 次は薄力粉。

「粉は?」

「必ずふるう! 少しずつ混ぜる!」

「素晴らしい」

 こちらも計量した分だけをふるいにかけて少しずつ。


「粉が塊にならないように混ぜてください。とはいえ、あまり混ぜすぎると膨らまなくなりますから、出来るだけ優しく、丁寧に。切るように混ぜてみてください」

 ネクターさんのアドバイスを受けて、ゆっくりと混ぜていく。粉の塊を卵とミルクの液体で溶かしていけば、次第になめらかな生地が完成した。


 ちょうど良いタイミングでスキレットの予熱も終わったらしい。ピピッとオーブンが軽快な音を立てる。

 熱いから、とネクターさんがオーブンから取り出してくださって、私はそこにバターを置く係だ。


「わぁっ!」

 バターの欠片をスキレットの上へ落とせば、じゅわっと泡が弾けて、みるみるうちにバターが溶けていった。


 まんべんなくそれらを広げて、先ほどの生地を流し込む。後はスキレットごとオーブンに入れて焼くだけだ。

「これでダッチベイビーの基本部分は完成です」

「え! 本当に簡単です!」

 もっと難しいものかと思っていたのに。ケーキって意外と単純な材料の組み合わせなんだ。


「基本的なお菓子ですからね。さあ、焼けるのを待つ間に、リンゴのソースを作りましょう」

 私が感心している横で、ネクターさんは休む暇を与えることなく、リンゴの皮をむいていく。


「お嬢さま、シュガーローズを三つほどそのお鍋に砕いて入れてください」

「分かりました!」


 いよいよエンテイおじいちゃんのシュガーローズが登場だ。飾りつけ用にいくつか取っておいてくれ、と最初に言われているので、それを守って比較的綺麗なものを避ける。

 形が崩れてしまっているものを三つ選んで、手で花びらをちぎっていく。パリッと砂糖菓子の砕ける音がして、手が甘い香りに包まれた。


 綺麗な紫とオレンジのシュガーローズが入ったお鍋に、ネクターさんが切ったリンゴが入る。

 すでに水気を帯びて柔らかくなった砂糖の塊がリンゴと絡むと、リンゴからも蜜が溢れた。


「これをじっくり煮込めば、リンゴのソースも完成です。お嬢さま、砂糖を熱するときは?」

「弱火でコトコト!」

「ばっちりですね。では、やってみましょう」


 ロボットのような片言の答えでも、ネクターさんは満足げにうなずいてくださるから、私も気分が良い。

 焦げ付かないようにお鍋の中をくるくるとかき混ぜる。


 しばらくすると砂糖が完全に溶けて、リンゴから出た汁気と混ざり合った。

「煮詰めすぎるとジャムになってしまいますから、今回はここまでにしておきましょう」

 ネクターさんがお鍋の中の様子を見て、火を止める。最後にシナモンを加えて味を整えれば、リンゴのソースも完成だ。


「さ、生地も焼けたようですよ」

 オーブンから取り出されたスキレットの上に、これでもかとふわふわに膨らんだダッチベイビーが。


「良い匂い~!」

 焼き菓子特有の香ばしい匂いに、自然と笑みがこぼれる。


「後は飾りつけですね」

 バニラアイスと先ほど作ったリンゴのソース、それにシュガーローズを綺麗に盛り付ければ完成らしい。


「飾りつけが一番緊張します!」

 ふぅ、と深呼吸を一つ。


 まずはバニラアイスへと手を伸ばす。ダッチベイビーのちょうど真ん中、くぼんでいる所にスプーンでアイスを添えれば、生地の熱でアイスが溶けていく。


「次は、リンゴのソースをかけて……。最後に、シュガーローズを……」

 まだ花の形を保っている美しいシュガーローズを添えれば――

「完成です!」

 私の初めてのお菓子作りは無事に幕を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] エンテイさんに見守られる中、二人の共同作業は続く。ネクターさんの問いかけに元気よく答えているフランちゃんが、今日も眩しいですなッ! あとは愛の力で、隠し味もバッチリですぞ。 (*☻-☻*)…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ