247.祭典準備と再会?
モントブランカの麓のコロニー、ローズへ到着すると、すでに祭典の準備が始まっているのか、町は活気にあふれていた。
何に使うのか分からない大きなオブジェや、ピカピカと光る改造車、布や電球を使った飾りがところせましと町にあふれている。
お花のランタンはもちろん、綺麗な星のランプや子供用のかわいらしい妖精さんのスティックなるものも目につく。
「本当にお祭り前って感じですね!」
「レストランやカフェも、光の祭典に向けて特別なメニューを出しているところが多いですね。どれも華やかで楽しいです」
「デシは暗くなるのがはやいから、こういうランプがたくさん売れるんですかね? ちゃんと火を使う古いランタンもたくさんあるし……」
「そうかもしれませんね。デシの国では、一日中暗い日もあるんだそうですよ」
「そうなんですか⁉」
一か月ほど早ければ、ちょうどその時期だったらしい。一年を通してたった一日だけ、太陽が昇らない日があるんだそうだ。
「ネクターさんは相変わらず博識ですねぇ」
「コロニーの移動の間に、いくつか観光ガイドを読んだだけですよ。デシの国は、環境が特殊で面白いんです」
これで料理のことも色々と調べているんだから、勉強熱心だ。
「旅が終わるころには、ネクターさんはプレー島群ガイドになれそうですね!」
「それをおっしゃるなら、お嬢さまもそうなると思いますが……」
「貿易業の役に立つといいなぁ。私、このお花のランタンが気に入ったから、シュテープでも売りたいです! 子供のおもちゃにも良さそうだし!」
ふよんふよんと持ち手を揺らせば、ランタンは気ままに揺れる。
クレアさんにも、シュテープで似たようなものを考えてもらおうか。最近は、クレアさんも王都の方へと上京して忙しいみたいで、なかなか連絡が取れていなかった。
「それにしても、どのオブジェもライトがふんだんに使われていて綺麗ですね」
「これをモントブランカまで運ぶなんて……。想像するだけでも大変です!」
町中にあふれかえっているオブジェや飾りつけの類は、前日までにモントブランカの特設会場へと運ばれるらしい。
それらの移動や組み立て、特設会場の飾りつけには当然人手がいる。
ボランティア募集の広告が、光の祭典の広告と同じくらい町のいたるところに出ていた。
「ネクターさん、祭典まですることもありませんし、せっかくならボランティアをしてみませんか?」
「ボランティアですか?」
「はい! 観光するのも良いですけど、この町に滞在している間、ただ準備を眺めているだけって言うのももったいないですし」
私の提案に、ネクターさんも「なるほど」とうなずいた。
「たしかに、お嬢さまのおっしゃる通りですね。わかりました、僕はかまいませんよ」
「それじゃあ、ホテルのチェックインを済ませたら、ボランティアの受付に行きましょう!」
広告に書かれた受付場所を魔法のメガネで記録して、私たちは再びホテルへ向かって歩き出す。
「それにしても、お嬢さまは本当にいろんなことに積極的でいらっしゃいますね。他国の祭りで、ボランティアなんて……。なかなか出来ることではありませんよ」
「えへへ。お母さまやお父さまに、大切なことは人とのつながりだって教わりましたから!」
貿易業のことを考えても、人脈作りは大切なことなのだろう。
だけど、そんな打算的なものではなくて、旅を通していろんな人との交流がどれだけ素晴らしいものか実感したのだ。
いろんな出会いがあって、いろんな別れを体験したけれど。そのどれもが私にはすごく良い思い出になった。
「勉強になります」
ネクターさんがふっとやわらかく笑う。
「僕も、旅に出て、ようやくその意味が分かりました」
「ネクターさんは、ずっと一人で頑張ってたんですもんね……」
「そうですね。僕は未熟でした。一人で出来ることもありますが、旅に出てからは、一人ではなく、誰かと一緒の方が、何倍も素晴らしい結果を生むのだと気づいたんです」
ネクターさんはしみじみと呟いて、町の人たちへと視線を移していく。
オブジェの設計図を見ながら熱心に会話している二人組、お花のランタンを見せ合う子供たち、ランプを組み立てているおじさまや、飾りつけをするおばあさまと娘さん。
みんな楽しそうだ。
「この旅も、お嬢さまと一緒だったからこそ、素晴らしいものになったのでしょうね」
ネクターさんはホテルを見つけて、私の先を行く。だから、どんな顔でそう呟いたのかは私からは見えなかった。
不意を突かれて、なんだか泣きそうになるのをぐっとこらえる。
「今それを言うのはずるいです! っていうか、旅はまだ終わってないですから!」
泣かないように「もう!」と声をあげれば、ネクターさんはやっぱり振り返らずに「そうですね」と笑った。
*
ホテルのチェックインを済ませ、ボランティアの受付場所へと向かう。
ボランティアの受付場所はすでに多くの人で賑わっていた。おそろいのコートを着た人たちは運営さんのようだ。
ボランティアに参加している人たちも、それぞれの運営さんから何やら話を聞いたり、すでに手伝いを始めていたり、と様々だ。
「こんばんは」
受付でタッチパネルを操作している運営さんに声をかける。私たちに気付かなかったのか、受付さんはバッと勢いよくこちらへと顔を上げた。
「……あれ?」
その顔に見覚えがあって、私は思わず受付さんの顔を凝視する。
隣にいたネクターさんも同じことを思ったらしい。「どこかで……」と小さな声が聞こえた。
「えっと……こんばんは?」
受付さんは曖昧に微笑んで、こちらにタッチパネルを差し出す。
「ここは光の祭典のボランティア受付だよ。二人はボランティアに?」
戸惑いながらも受付を進めるお兄さんの顔をじーっと見つめて、私はとある人を思い出した。
「占いカレー屋さんのお兄さん⁉」
私の声に、ネクターさんも「あぁっ!」とつられて声を上げる。
だが、
「占いカレー屋?」
当の本人である受付のお兄さんは、まったく身に覚えがないと言った様子で首をかしげた。