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244.お花だらけのランチメニュー

 街にあふれるカフェやスイーツショップを見て回っていた私は、ついに運命の出会いを果たした。

「ネクターさん! 見てください! ほら、フラワーショップのお花ランチだって!」

 たくさんのお花に囲まれたフラワーショップの入り口に立てられた看板には、美しいイラストが描かれている。


「おいしそうですね、ここにしましょうか」

 ネクターさんも一通り看板に描かれたメニューを眺めてうなずく。


 二階にカフェを併設しているらしい。店の脇に『カフェはこちらから』と書かれた小さな木札がかかっていた。

 案内にしたがって人一人分程度の細い階段を上がっていく。


 木製の扉を押し開けると、チリン、とかわいらしい鈴の音がひとつ。

「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」

「お二人さまです!」

「こちらへどうぞ、お席へご案内いたします」

 これまたかわいらしい制服を着たお姉さんが、私たちを窓際の席へと案内してくださった。


「お店の中もお花がいっぱいですごくかわいいですねぇ!」

 薄いピンクの壁にかかった白いレースには、お花の刺繍がたくさんついているし、そうでなくても観葉植物が置かれていたり、各テーブルには小さな一輪挿しの花瓶が置かれてたり。


「お嬢さまがいてくださって良かったです。僕一人では、このお店には少し入りづらいので」

「お客さんも、女性が多いですもんね。ちょっと香炉宮(こうろきゅう)を思い出します!」


「デシの国の男性は気にしないのでしょうか。全体的にファンシーな雰囲気ですが」

「ずっとこの国で育ってたら、きっと慣れちゃいますよ。デシだと、男性が女性にお花を贈るなんて行為も当たり前なんだそうですよ。お父さまから聞いたことがあります」

「……なるほど。見習わなくてはいけませんね」


 ネクターさんはふっと笑みを浮かべながらこちらへメニューを差し出す。

 薄いガラス板のモニター、そこへ大きく映し出されたランチセットがやはり目を引いた。

 お花を使った美しいプレート。デシらしい小鉢の並ぶ色鮮やかなメニューだ。


「決めました! ランチセットにします。ネクターさんは?」

「僕も同じものを」

 店員さんを呼んで注文を済ませる。後は運ばれてくるのを待つだけだ。



 *



「お待たせしました」

「わぁっ! 綺麗!」

 テーブルの上に並べられたプレートに、感嘆の声が口をついて出た。


 小さなお花がちりばめられたサラダに、ジャガイモの冷製スープ、たっぷりのハチミツがかかったバゲット。メインにはお花のフライ。

 デザートにもお花が使われていて、キイチゴのアイスにはパンジーとミントが添えられている。


 私たちはシュテープ式の挨拶を済ませて、早速お料理に口をつける。

 私はスープ、ネクターさんはサラダだ。

 スープをスプーンですくって一口。ひんやりとした口当たりが、先ほど見たばかりの雪景色を思い出させる。


「ほぁぁ……優しい味です! ジャガイモの素朴な甘みがおいしい……」

 ジャガイモのホクホク感が残ったまろやかな舌触りに少しの塩気が味を引き締める。


「冷たいスープって飲みやすくていいですよねぇ。ついつい飲み過ぎちゃいます」

「そんなお酒みたいな……」

 私の感想にネクターさんはクスクスと笑う。そんなに変なことを言っただろうか?


「サラダも新鮮でおいしいですよ。ベ・ゲタルと同じく、自国で育てたものを使っているんでしょうか。この花も、少し酸味がきいていておいしいです」

 サラダにちりばめられた綺麗なオレンジのお花は、デシではよく食べられる代表的な花だとネクターさんが教えてくれた。


「お花のフライも挑戦してみますっ!」

 サラダを食べ、バゲットを食べ……私はいよいよお花のフライに手を伸ばす。

 美しく咲き誇る花をそのまま揚げているから、見た目もお花そのままでかわいい!


 お店特製のソースにくぐらせて――

「いきます!」

 いざ、実食!


 サクッ! ザクザク……もきゅっ……。

「ん! お花の食感が思ったよりしっかりしてます! わ、独特の苦みがまろやかなソースに相まっておいしい……! ちょっとクセがあって、それが余計にはまりそうです!」

 フライの断面から鮮やかな黄色の花びらがのぞいていて、お花を食べている実感がふつふつと湧いてくる。


 繊細なお花の甘い芳香、やわらかな花びらの食感、ほんのりと残る苦み。

 揚げ物のサクサク感とマヨネーズベースのまろやかなソースとの相性がばっちりで、新鮮なのにまったく抵抗なく食べられる。


「はまっちゃいそうです……! すごくおいしい! 苦みも後に残らないし、食べやすいです」

「たしかに、これは面白いですね。最後にふわっと鼻を抜けてくる甘みが上品で……」


 ネクターさんも一口食べてその魅力に気付いたのか、パッと目を輝かせた。早速メモに何かを書き留めていくあたり、彼の心にも刺さるものがあったのだろう。

 ソースも単品をチロリとなめて、「ふむ」とペンを動かしている。


「甘いバゲットとの相性も良いですね。フライを塩でいただけば、甘いものとしょっぱいものの組み合わせでお互いがより引き立ちそうです」


 すっかり料理人モードになったネクターさんは、じっくりと一つ一つのお料理を味わっている。

 味覚も少しずつ回復してきているからか、いろんなことが分かるようになってきたみたいだ。


 締めはキイチゴのアイス。キイチゴの濃いピンクに紫のパンジーと緑のミント、コントラストも鮮やかで見た目にもかわいいアイスだ。

 口に運べば、優しい花の香りが鼻を抜け、フルーティーな甘酸っぱさがふわっと広がる。


「わぁ! アイスもおいしい! パンジーって全然クセがないですね! 食感もシャキシャキでおいしいです!」

 パンジーは凍らせているのか、それともドライフラワーになっているのか、まるでシャーベットのような食感だ。


 フルーツや甘いアイスとの相性は抜群で、お花の繊細な甘みが加わることで味にも深みが出ている。

 とろけるくちどけに、濃厚なキイチゴの甘みと酸味、さっぱりと爽やかに楽しめる一品は、まさにお料理のラストにふさわしかった。


「いろんな味が楽しめて最高です! 大満足です‼」

 幸せのため息をほう、と吐く。

 ネクターさんもアイスを食べ終えて、お水に口をつけると、同じように幸せそうな顔でほっと息を吐き出した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさに、百花繚乱のランチって感じがしますなぁ。フランちゃんの食べ方もいつもの通りで、食べる楽しさが伝わってきます。しかしやはり、誰か女性を連れて行きたいお店っぽいですな(笑) (⌒▽⌒) …
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