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145.合流は出会いを連れて

 ネクターさんとの約束の時間がやってきて、待ち合わせ場所へと向かう。

 遠くにブロンドの髪が見えて、私はほっと胸をなでおろした。

 エンさんと二人でお出かけするのも楽しかったけれど、二人きりは良くない。


「ネクターさん!」

 私が大きく手を振ると、彼もこちらに気付いたのか慌てて駆け出してくる。

 例の如くそのままネクターさんは……スライディング土下座を決めた。


「申し訳ありません‼ 僕としたことが、一度ならず二度までもこのような愚行‼」

「やめてください! 気にしてません!」

 いや、本当のところは石鹸屋(せっけんや)さんであんなことになるならネクターさんにはいてほしかったけど! 土下座はやめて!


 エンさんもすっかりネクターさんのこの姿には見慣れたのか、呆れた様子でネクターさんの首根っこをひょいとつかみあげる。

「ほら。お嬢さんも困ってるだろう」

 ネクターさんを無理やりに立たせたエンさんは「まったくどうしてこうなったんだか」と頭をかいた。


「気にしてませんから! ネクターさんがしっかりお休みできてよかったです!」

「ですが……」

「しかし、も、でも、も禁止です!」

「す、すみません……」


 謝らないでください、と私がご主人さま命令を発動すれば、従者であるネクターさんに拒否権はないわけで。彼はしゅんと小さくうなだれた。たれ耳が見える気がするけど……私としては元気を出してくれた方が嬉しい。


「ネクターさんも合流できたことですし、お洋服を買いに行きませんか? 今日はそれが目的でしたし!」


 シュテープのお洋服も、ベ・ゲタルのお洋服も、紅楼国(クロウコク)では珍しいデザインでどうしても目立つ。

 いや、シュテープから来た私たちからすれば、こっちのお洋服が珍しいんだけど。


「そう、ですね」

 渋々ではあるが、ネクターさんもなんとか立ち直ろうとしてくれているみたい。顔を上げてうなずくと、「エン、案内をお願いします」とエンさんの方へと頭を下げた。


「任せとけ」

 エンさんはにっと笑うと、商店街を再び歩き出す。

 昼を前にして商店街もかなり人が多くなってきた。雑踏の中で背の高いエンさんはよく目立つ。


 というか、ネクターさんとエンさんが並んで歩いている姿は、正直、どこでも目立つ。目立ちすぎる。

 イケメン二人が商店街を歩いているだけなのに、映画やドラマの撮影みたいだ。


「……お嬢さま?」

「どうかしたのか?」


 二人を遠巻きに見ていると、前を歩いていた二人に突然振り返られて、私は思わず大きなため息をついた。

「……なんでもないです」


 さっきの店員さんとのやり取りみたいなことが、後何度発生するのだろう。

 神様、私、乙女ゲームイベント不可避の匂いがプンプンしてます。


「それならいいが」

「疲れたのでしたら、どこかで休憩しましょう」


 二人はきょとんと首をかしげていて、まったく自覚がないらしい。

「大丈夫です!」

 私がブンブンと首を振って二人に追いつくと、二人はなぜかそっと左右に別れて、私の両脇をかためる。

 ……うん。やっぱり大丈夫じゃないね!



 *



 到着したのは小さなお洋服屋さん。

 紅楼(クロウ)独特のデザインがふんだんにあしらわれた布や装飾が、こぢんまりとしたお店の入り口を覆い隠すんじゃないかと思うほど飾り付けられている。


「いらっしゃいませ!」

 ここでも目ざとくイケメン二人を見つけた女性の店員さんに声をかけられる。


 チラ、とこちらを窺うお姉さんと視線がぶつかって、「違うんです!」と内心で必死に弁解していたら……

「お客さま!」

 ガシリと手をつかまれて、私は「ごめんなさい!」と思わず謝罪した。


「なんてかわいらしいお嬢さんでしょう! わたくしめに、お洋服を見繕(みつくろ)わせてはいただけませんでしょうか!」

「はぇ……?」

 キラキラした瞳には、ハートマークまで見えるような気が……。


「はぁ……。お前な」

 エンさんが軽く店員さんの頭をはたく。「あてっ」とかわいらしい悲鳴が聞こえた。


「ちょっ⁉ エンさん⁉ さすがに暴力は……」

「悪い。こいつは俺の妹だ」

「え⁉」


「すみません、お客さまがあまりにもかわいくて申し遅れてしまいました。わたくし、インといいますの」

「エンさんの妹⁉」


 ゆるくウェーブした赤い髪、透き通るような紅色の瞳はたしかにエンさんとよく似ている。身長は私と変わらないくらいだけど、出るところは出て、くびれるところはくびれて、というスタイルの良さも、エンさんに通ずるところがあるような……。


「とにかく! お兄さまがこんなにかわいらしいお嬢さんを連れてきてくださるなんて! わたくし、感激です! お嬢さん、良ければわたくしにコーディネイトさせてください!」


「え⁉ いい、ですけど……」

「悪いな、お嬢さん。そういうわけだ、ちょっと付き合ってやってくれ」


 どうやらイケメンには全く興味がないらしい。エンさんの妹さんなら、それも納得できなくはないけれど……。

 それにしたって、どうして私がロックオンされているのでしょう⁉


「はぁ……。それにしても、まったくなんて美しい色の髪なのでしょう。その紫の(つや)、かわいらしさの中に大人の気品を感じます……。それに、瞳も綺麗な色! 明るさと円満さをたたえた瞳、陽光の輝き、生命を燃やすエネルギーを感じられますわ……」


 (ほお)に手をあてて、私を上から下までチェックするインさん。

 なんだかよく分からないけど、謎のポエムまで始まってしまって、私もぴしりと身を固めるほかない。


「あ、あのぅ……」

「お声まで小鳥のようなさえずり! 風が運ぶ韻律(いんりつ)は国を豊かにするでしょう! あぁ、お嬢さん! ここまでわたくしのインスピレーションをかき立てるドールのようにあいらしいお方は初めてですわ!」


 やばい! やばいです、エンさん! 助けて! あなたの妹さん、ちょっと変わってます‼

 私がヘルプの瞳をエンさんに投げると、彼はあろうことか首をフルフルと横に振った。

 その顔に書かれているのは「諦めろ」だ。


「ネクターはこっちだ」

 おろおろするネクターさんの首根っこをひっつかまえたエンさんが、ずるずるとネクターさんをお店の奥へ引っ張っていく。


「さ! お嬢さん! わたくしたちはこちらへ!」

 訳もわからないまま、私もなぜかインさんに手を引かれる。

 そのまま片っ端からそこら中にあるお洋服をあてがわれたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うん、フランちゃん。君は乙女ゲームの主人公になったのだ。ネクターさんとエンさんが脇を固めてたら仕方ないよねッ! 大丈夫ッ! 君なら十分行けるッ! (⌒▽⌒) と思ってたら、エンさんの妹さ…
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