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おかわり! ~お屋敷を追放されたかわいそうな私と料理長は異世界を食べ歩きます!~  作者: 安井優
3品目 ベ・ゲタルと新たな挑戦

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113/305

113.空はどこまでもアオくて

 コンテストの結果は、三十分ほどの審議を経て発表されるとのことだった。

 集まった参加者や観客はその間にセージワームを使ったお料理をブッフェ形式で食べられることになっており、レストランは多くの人で賑わったまま。


 私とネクターさんはオリビアさんに無理を言って、特別にレストランの裏手にあるお庭に向かった。

 アオを(とむら)うためだ。


 アオは審査員の人たちに綺麗に食べてもらえて、跡形もなくなってしまったのだけれど、アオのおうちは私の手元に残っていたから、代わりにそれを埋葬してあげることにした。


 ネクターさんが厨房から借りてきたライターでおうちに火をつける。パチパチと()ぜた火は、やがて緩やかに天へと昇る煙に変わった。

 青く澄んだ空に吸い込まれていくそれは、細く、長く、どこまでも続いていくようだ。

 おうちが燃え尽きて灰に変わると、私たちはそれをお庭に埋める。


「……こうして、灰は土に(かえ)り、その土がまた次の命を芽生えさせ、命が次なる命に引き継がれていくのですね」

 ネクターさんはやわらかな土をそっと固めながら呟いた。

 私に教えてくれているというよりも、自分に言い聞かせているような声色だった。


「アオは、幸せだったでしょうか」

「えぇ。僕はそう思います。自らが望んで出場したコンテストで、これだけ多くの人を笑顔にしたのですから」


 パンパンと土を盛り、私たちは両手を組んで祈りを捧げる。

 食前に捧げる祈りのように。けれど、この祈りは、アオだけのために。


「他の昆虫食も、今度試してみようかな」

「えっ⁉ お、お嬢さま……⁉ ご無理はなさらなくても……」

「無理じゃなくて! そうしたいんです! ま、まだちょっと怖いけど、ネクターさんもいるし」


 ネクターさんは、私の表情をじっと見つめて何かを考えるように黙り込む。しばらくすると、大きく息を吐いて

「わかりました」

 と力強くうなずいた。


「さ、そろそろ戻りましょうか。結果が発表されるころですし」

「どうせなら優勝したいですけど! ステージに上がっちゃったから、失格になってるかもしれませんね」


 アオのことを思えば、我慢してあげた方が良かったんだろうな。

 でも、後悔はしていない。アオのことを、ちゃんと食べてあげられたから。


「失格でも、ベ・ゲタルのセージワームコンテスト史には名を刻んだでしょうね。優勝するよりも名誉なことです」

「そうだといいんですけど! アオが天国で怒ってたらどうしよう!」

「その時は、夢に現れるかもしれません」


 ぴぇ! と鳴いて私を一喝するアオを思い浮かべると、かわいらしくてつい笑みがこぼれる。

 アオは真剣に怒っているつもりだろうけれど、迫力があまりにもなさすぎる。


「また姿を見せてくれるなら、怒られてもいいです!」

「お嬢さまのおっしゃる通りです」

 ネクターさんも同じような想像をしたのか苦笑した。



 *



 ネクターさんといくつかブッフェからお料理をとりつつ、ステージへと向かう。

 ちょうど準備を始めていたところだったようで、他の人たちも少しずつステージの方へと集まっていた。


 ブッフェのサラダやつまみをもぐもぐと食べていると、ステージ上にオリビアさんが立つ。

「そろそろ、結果を発表するモン! みんな集まっで~!」

 拡声器を片手に呼びかけた声は、レストランの外、国立公園内にも響いているらしく、レストランの外にいた人たちもぞろぞろとやってくる。


 優勝候補の人たちの名前に混ざって、シュテープの、と私たちを噂する声が聞こえてきて、なんだか胸が高鳴った。

 参加できればいいと思っていたはずのコンテストも、いつの間にか優勝したいと思うようになるだなんて。

 これもアオのおかげだ。


 ドキドキとうるさい鼓動をしずめるため、大きく息を吐いた瞬間。

 ふっと会場の明かりが消えて、代わりにステージがスポットライトによって照らされる。

 改まった様子で登場した司会者のお兄さんがマイクの前に立つと、観客たちの喧騒は自然と小さくなった。


「さぁ! 皆さん、お待ちがね! 結果発表の時間だモン!」

 ガラガラガラ、とベ・ゲタル特有の音楽が鳴り響き、スポットライトが赤や黄色や青にくるくると色を変える。


「まずは、審査員特別賞がや! 今から呼ばれた番号の人ば、ステージの上に上がってきでほしいモン!」

 バァンッ。シンバルが華やかに弾けた音に合わせて、司会者は数字を並べる。


「五番! 三十二番! 三十六番! 五十四番! 八十二番! ……最後に、九十八番!」


「へ……?」

 読み上げられた数字に、私とネクターさんはもちろん、周りの人も口々に声を上げる。

「九十八番、って……」


「フラン! お兄さん! 二人ばステージに上がるモン!」

 オリビアさんに呼ばれて、夢でも、聞き間違いでもないと分かる。

 互いに顔を見合わせると、急に実感がわいてきて、ステージを上がる足が震えた。


「さ、二人ばこごに並んで!」

 指示されるがままステージ中央にネクターさんと並ぶ。

 私たちの前に立った司会者のお兄さんは、観客の方へと向き直ると、ゴホン、と咳ばらいを一つ。


「九十八番の二人ば、コンテストの最中にステージに上がっで、セージワームば食べるアクシデントがあっただば、本来ならば失格だモン。ただ、その味ば本物で、愛が伝わっできただば、審査員たちの協議の結果! 今回ば特例としで審査員特別賞を授与するモン!」


 司会者の説明に、わぁぁっと観客たちから歓声が上がる。

 審査員の人たちもみんなにっこりと笑みを向けてくださって、私たちは素直に表彰状と記念品を受け取った。


 あれだけコンテストで騒いでおいて失格にならなかったのだから、本当にその味は世界一だったんだろう。

 粋なはからいに感謝して、あたたかく受け入れてくれた観客の人たちにも改めて頭を下げる。


「……アオ、私たち、特別賞をもらったよ」

 私はもらった表彰状を自らの胸元に抱きしめる。ネクターさんと、私と、そしてアオの二人と一匹で勝ち取った特別賞だ。

 それ以上は、何もいらなかった。


「アオ、今まで本当にありがとう」

 お別れは笑顔で。

 私の中で生き続けるアオに向かってお礼を述べれば、遠く、空の向こうから「ぴぇ!」とアオの鳴き声が聞こえた気がした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ちゃんと弔えて、そして特別賞までもらえるなんて……アオちゃん、見てるか!? 君の勇姿は、たくさんの人に、認められたんだぞーッ! ( ;∀;) 本当に、これ以上は何も要らないものとなりまし…
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