ロステムの追究
扉をたたく音。私は慌てて、フィロに服を着せた。
「入ってもいい?」
ロステムの声だ。
「どうぞ」
ロステムが中に入ってきた。
「どう、何か足りないものはない?」
「いや、十分すぎるくらいだよ、本当にありがとう」
「そう、よかった」
ロステムはその場に座り込んで、フィロにぐいと体を寄せてきた。
「そろそろ教えてくれない?」
「何のこと?」
「とぼけないで」
ロステムの目がきらっと光った。
「フィロの体に、何か変なものがくっついてるよね?」
ぎくりとした。あの時か。ロステムを暴走する馬から助けた時。
「何を言ってるのか分からない」
「僕、見たんだ。君に抱かれて、馬から離れた時、あの後、すぐに君に目を覆われたけどね」
ということは最初の出会いから気づかれてしまったということだ。予期せぬ出来事とはいえ、ツメが甘いことをしてしまった。フィロは不安げに私を見た。私は『何も言うな』と目くばせした。
「何か蔦のようなものがフィロの体から伸びた。それに、馬は怯えたんだ」
「参ったな。いくらほしいの?」
ロステムは腹を抱えて笑った。
「いらないよ、そんなの。僕が欲しいのは、別にある」
「何さ?」
「秘密を教えて」
「いやだって言ったら」
「フィロは普通の人間じゃないよって村の人たちに話しちゃおうかな」
優しそうな顔をして、とんだ坊やだ。大変だった一日終わりにとんだ大仕事が待っていた。
ただでさえ、私の痣のことを快く思っていない人が少なくないのに。
しらばっくれても、体の蔦の入れ墨を見られたら、言い逃れはできない。どうすっかな。ロニが緊迫した雰囲気を感じ取ったのかくうんと鼻を鳴らした。先ほどロニを可愛がってくれたロステムは完全にロニを無視している。フィロが口を開きかけたが、私はそれを手で制した。
「フィロは寄生植物の宿主にされてしまったんだよ。今は薬を飲んでるおかげでどうにかなってる」
「フィロはなんで、無事でいられるの? 普通の人は宿主になんてされたら、死んじゃうんじゃない?」
「そこまで」
私は笑顔をつくった。相手を怖がらせ、黙らせるための笑顔だ。何が降りかかるか分からない旅路で、怖い人たちと渡り合うために、身につけた技だ。自分では確認しようがないが、目の前のフィロやロステムを見ると、それなりに気持ちの悪い顔ができているようで、そういう反応を見ると、気分がよくなるのだが、目の前の坊やに通用するものどうか。
「それ以上は、私も君も一緒に死ぬことになる」
「それはそれで面白そうだけど」
思わず苦笑いが出た。
「君も懲りないね」
「僕は、君たちの秘密をしゃべったりしないよ」
「君の人格は、この際、関係ない」
「何でだよ?」
「じゃあ、たとえば、私たちの秘密を知っている君が、それを暴こうとする奴がこの家に押し掛けてきて、『知ってることを話さなければ、お前の母親を殺す』って、脅されたら、君はどうする?」
その一言でロステムは固まった。
「即答できないってことは、そういうこと。そういう可能性があるんだって、考えただけで怖い。命を落とすかもしれない秘密なんて、関わらないほうがいい。私たちもこれ以上、自分たちが死ぬ可能性なんて増やしたくない」
「……分かった、ごめんね」
ロステムは消え入りそうな声で答えて、下を向いたまま部屋を出ていった。