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タクト・タタとの再会

 タクト・タタに会う。そして、彼から造血剤を買う。フィロの不調の原因は分からない。でも、水晶血丹が宿主の血を吸う性質であるならば、血を大量に吸われた可能性が高い。

 そうなれば、追加の造血剤を常備しておく必要がある。

「俺はしばらくこの街にいる。馬はいつでも引き取りにいくから。街の電報局で連絡をくれたら、俺はいつでもそっちに行く」

 

 さっそく、電報局に行き、タクト・タタが宿泊している宿に『馬の治療を終えた』と伝言を送る。すぐに、返事が折り返し届き、この日の夕方に会う事になった。フィロは具合が悪いということもあるが、私は一度、サシで話さなければと思っていた。ロニに具合の悪いフィロの用心棒を頼み、私は元気をすっかり取り戻した馬を連れて、タクト・タタとの待ち合わせ場所に向かった。


 タクト・タタは元気になった馬の様子を見て、嬉しそうに目を細めた。馬も久しぶりに主人と再会して、甘えるような仕草を見せた。


「その馬、どうするんですか?」

「泊ってる宿は馬舎があるから、これだけ元気になったら、俺が留守の時は金を払えば宿の人間が面倒を見てくれる」

「歳だから、これから手間もかかるかもしれませんよ」

「まあ、一度引き取るって決めたからな」

 やっぱり、この人は動物が好きなのだ。ロニが懐くのも分かる気がする。

「角犬は?」

「家で弟の番犬をしています」

「そっか、赤ん坊から育てたとしてもさ、角犬が人に懐くなんて、信じられねえな」

「え? 他の角犬は違うんですか?」

「違うなんてもんじゃねえよ。『角犬』って名前、その角で敵を殺すって意味でつけられたんだぜ」

「え?」

「本来はすげえ凶暴な犬種だよ。まあ、あの角を狙って密猟するクソ野郎も多かったから、進化の過程でそうならざるを得なかったかもしれねえが」

 そうだ。角犬は元々、野生の群れで行動する犬だそうだから、外敵を警戒しなければ生き残れないんだろう。

 ロニがこんなに人に慣れているのは、赤ん坊から育て上げたからか。野生の本能も全て封じ込めて。

「それに、普通の角犬の角は、このわんこみたいにこんなにぽろぽろとれたりしないぜ」

「そうなんですか?」

「だから、あの角を手に入れようと思ったら、狩って殺すしかなかったんだ」

 タクト・タタ曰く、角犬の角は本来なら、大きな剣のような円錐型の大きな一角の角だということだ。

 それに比べて、ロニの角は成犬の今でも、親指大しかない。その白い小さい角は白いもこもこの毛に隠れている、というか隠している。だから、角犬だということは、よく注視しないと分からないはずだ。

「じゃあ、ロニはもし、あのまま、群れの中で成長したら、生き残れなかったということでしょうか」

 ロニは、本来与えられたはずのものを持ち得なかった。それも、角犬という犬種にとっては、生き残るための唯一無二の武器が欠けていた。

「その弱点のせいで野生で生きていくには、生き残れないかもしれないけど、お前らと仲良くやってんなら、それでいいじゃねえか」

「私は利用してるだけです。ロニの角が弟の薬になるからで」

「何か悪いのか? 今まで仲良くやってきたんだろ」

 ロニがタクト・タタにしっぽを振っている。やっぱり、この人は動物たらしだ。

「あなたの目的は何ですか?」

 さすがのタクト・タタもたじろいだようだ。

「何だ、いきなり」

「私はそのために、弟抜きであなたと約束をしたんです」

「そうか、大事な弟が俺みたいのとつながりができるのは不安だよな」

「ロニの角を使って、何をするつもりなんですか?」

「人を探してる、その情報がほしい。俺の仲間を殺した奴を探しだす」

「探しだしてどうするんですか?」

「殺す。そのためにあんたの弟と取引をした」

 大分複雑だな。でも、そういう『業』のようなものを背負っている人だということは大体予想はっしていた。復讐ということはこの人が追っている相手はやばい人間なんだろう。そういう人間を追っている人間はやばい場所にすすんで足を踏み入れる。やっぱり、この人に関わったら、フィロの身にも危険が降りかかるだろうな。

「事情は分かりました」

「取引を取り消したいか?」

「いえ、実はあなたと初めて会った日はそう思ってました。だけど、弟の体調が悪化して、原因は分からないんですけど、たぶん、あなたの造血剤は必要なんです。今の弟は苦しんでて私じゃ助けられない。あなたの力をお借りしたくて連絡しました」

「もうこれ以上、あんたの弟を害する真似はしない」

「いえ、私も勝手です。あなたを怖がっておきながら、あなたを利用しようなんて」

「俺が角犬の角をほしがったのは、角犬の薬を欲しがってる奴の子供が厄介な病気でそれに必要な薬になるんだよ。それと引き換えに俺が探してる奴の情報を教えるって取引を持ち掛けられたからだ」

「その人が、ロニ……弟の情報を外にもらす可能性は?」

「ない。長年、薬の研究で多くの人間を治療してき信用の厚い人間だ、俺は薬売りだから、信用してねえけど」

 思わず、苦笑がもれる。

「言ってることがむちゃくちゃですよ」

「あんたの立場じゃ鵜呑みにはできねえよな」

「いえ、信じます」

「いいよ、無理して言わなくても」

 私は一呼吸の間にぐるぐると考えた。目の前のこの人に頼り切ったフィロの顔が浮かび、意を決して言った。

「弟に会っていってくれませんか?」

「いいのかよ?」

「弟はあなたといると安心すると思います。薬のことだけじゃなくて。あなたのことが好きなんです」

 それに少し嫉妬したことは死んでも言わないが。

「あんたの弟、変な奴だよな。俺なんかといてもろくな目に遭わないのに」

 ロニとタクト・タタと馬と共に、来た道を戻る。結局、時間がなかったということもあるが、ミロルとカロンのことは話せなかった。後で、この二人のことも相談してみてもいいかもしれない。


 この人はミロルとカロンのことを利用するような真似はしないだろうから。この人を取り巻く事情は物騒ではあるけれど、この人自身は物騒ではないということが、今日、話をしてみて分かった気がする。

 戻った。そこには、休んでいるはずのフィロがいなかった。


「弟がいません」

 私の焦りに満ちた声にタクト・タタはすぐに反応し、周囲を捜索してくれた。フィロによりそってくれているはずのロニもいない。

「まさか、さらわれたんじゃ……」

「落ちつけよ、そうだとしたら、何らかの痕跡は残ってるはずだ」

 その時、ロニの鳴き声が響いた。私たちはロニの鳴き声がするほうに猛然と走った。

 ロニがかけよってきた。私にこっちだと言っている。そこはこの家の庭だった。でも、私は信じられなかった。家を出る前までなかったはずの光景が広がっていたからだ。

 そこには湖があった。私は何度も目をこすった。

「ここにこんな湖……なかったはず」

 フィロの長靴が落ちていた。ロニが湖の中を吠えている。フィロが中にいるのだ。

「私、潜ります」

「おい、待て。何かの罠かもしんねえぞ」

「だったらなおのこと、行かなきゃ」

「じゃあ、俺が行く」

「あなた、泳げますか?」

「う」

「あなたが溺れても助けられないので」

「待て、これを結んでけ」

 タクト・タタは命綱を渡してくれた。綱を体にぎっちり結んで私が湖に飛び込んだ。

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