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沙漠都市 レーガ

 私たちは新たな目的地にたどり着いた。レオル村から、馬車と鉄道を乗り継ぎ、十日かけてこの街にやってきた。 


 ここレ―ガの街は、沙漠のオアシス都市だ。年間の降水量は極めて低いが、街の中心部からほど近い地下水位が高い場所から水を汲んだり、標高の高い南の山脈の雪融け水を引いて、人々は日々の生活を営んでいる。


街の中心部にある市場は多くの人が行きかい、色とりどりの美しい織物や衣装や敷物を広げた店や、羊や豚の丸焼きの屋台。美しい表紙の書物がそろった書店に、珍しい動物に芸を仕込む大道芸など、目を楽しませてくれるものたちばかりだ。


 ロニの毛は、沙漠の気温には辛いだろうと短く刈り込んだ。はさみを入れられても、ロニは嫌がることもなく、むしろ涼しげな姿になってご機嫌だった。


 この街に着いてから、フィロが興奮気味なのが気になった。あちこちをきょろきょろと見回して、見慣れないものを見ては、私の手をぐいぐい引く。最初は、華やかな市場を見て、はしゃいでいるのだろうと思ったが、思い返してみれば、フィロはここよりももっと大きく、人が多い市場へ行っても、こんなに興奮したりはしなかった。


 この軽い躁状態をどうとらえればいいのだろう。フィロが普通の子だったならば、こんな神経質に考えなかった。だけど、フィロの体には厄介な生き物がついている。 些細な体調変化であっても、この生き物のせいではないかとぴりぴりしている自分に改めて気がつく。

 当の本人は、目の前の猿の曲芸を前のめりで鑑賞している。猿が輪投げを成功させたのを見て、頭の上での拍手を繰り返した。こういう時こそ笑ってくれないかと期待してみるが無表情のままだ。

 それでも、楽しんでいることは十分伝わるので、まあ、いいか、とこのまま平和な気持ちのままいてくれることを願った。

 その願いは、あっけなくぶち壊されることをまもなく知ることになるが。


 私たちは、屋台で揚げパンを買って、並んで食べた。楕円形のキツネ色したパンには全体に砂糖がまぶしてあって、ふわふわした生地に油がじわっと染み込んでいる。揚げたてでうっかりすると、口の中を火傷してしまいそうだ。一口かじると、油と少し甘じょっぱい味が絶妙にからみあう。やっぱり、屋台の食べ物はいいな。フィロも気に入ったようで、夢中でパンを咀嚼している。

「ル―、あれ、ほしい」

 フィロが屋台を指さした。それは、青い風車だった。幼児が欲しがるのなら分かるけれども。大体、いつものフィロは玩具なんて興味を示さない。

「何だよ、ガキじゃあるまいし」

「いつも俺のことガキだって言ってるくせに」

 指摘しないつもりだったけれど、言うことにした。

「……ねえ、あんた変だよ」

「何が?」

「興奮してるの、自分でも分かる?」

「普通だよ」

 私はフィロの額に自分の手を当てた。やはり、いつもよりも熱い。脈をとると、いつもよりも早く打っているのが分かった。沙漠の気温のせいもあるだろうが、私と比較しても、フィロのこの状態は、不自然だと言わざるをえないような気がしてきた。

「少し休もうよ。心配なんだ。あんたは、普通の体じゃないんだから」

「俺は普通だよ。今だって、今までだって、ずっと普通なんだ」

 違うじゃん。その言葉はかろうじて、喉の奥に押し込んだ。

 

 この街にやって来たのは、ある人との待ち合わせのためだった。

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