閑話 アンゼルム 土地神りんご酒争奪戦
ああ、儂の手元に土地神りんご酒が60本もある。
もちろん現金即払いじゃ。
当然儂のお金だけで払っておる。
他のドワーフから金を集めたりはしておらんよ。
現時点では全て儂の酒という事じゃ。
たまらんのう。
これを独り占めできたら、たまらんのう。
今すぐ飲みたいのう。
一気に飲みたいのう。
目の前のうるさい邪魔者さえいなければじゃが。
ヴィーネ様の念話さえなければ独占したのじゃが…。
本当にうるさい奴等じゃのう。
「族長、早く渡してくれよ。俺はもう我慢できねーんだよ。何で族長が持ってるんだよ。年寄りは酒より水飲んでればいいじゃねえか。それか、ドワーフ酒でも飲んで酔ってろよ」
「こんな風になっちまった原因はドワーフの独占だよ。だから秘密にしたのに何やってんだか」
「本当にそうですよ。何の為の5人の秘密だったのですか?あなた達の動きが怪し過ぎるんですよ。後を付けられる程にね。自然に仕事に行くように買いに行けば見つかる事は無かったと思いますが?」
「本当に最悪だぜ。でも、60本もあるんだ。各部署に10本ずつ配れば丁度いいと思うが、どうだ?」
「私は研究していたので飲んでいないのですよ。あの時誘ってくれればこのような事には」
「俺は怖くて付いて行けなかったんだ。本当に失敗だよ。とりあえず飲ませてくれ」
部署長がうるさくてかなわんなあ。
お前たちの言う通りにしておったら儂が飲めんじゃろうが。
本当に頭がわるいのう。
「あほか、各部署に配ったら儂の分が無いじゃないか。お前たちは族長に対する敬意が足りないのう。考えるまでも無い。儂が6本、各部署に9本ならええぞ。いい案じゃろ?」
「大人は頭が悪いみたい。皆でコップで分け合えばいいのに。土地神りんごジュースは美味しかった。やっぱり友達と飲まないとね。分かってないねー」
「本当だよ。皆でお金を出し合って一緒に飲んだジュースは最高だったよ。このままだと誰も飲めずにお蔵入りだよ。本当に馬鹿な大人たちだね」
「今子供たちがいい事を言いましたね。族長はコップ1杯でいいですね。お年寄りには刺激が強い。独占するような事まで考えている。本当なら飲むのを止めるべきだ」
「そうだぜ!引退した方がいいんじゃねーか?ドワーフが酒を独占する意味すら忘れちまってる」
「ドワーフにとって酒の独占は戦争だよ。族長、本気で私たち全員とやりあうのかい?」
「ああ、ついに掟を破るのか。しかも、族長が破るとか終わってるな。もう禁酒しな」
「研究したいんだがお酒の味も気になるんだよね。やるしかないか」
「俺が案内したのに黙って味わった族長を許す事は無いね。その腕へし折るぜ」
小童どもが。
お前ら全員の腕をへし折るくらい訳無いわ。
全員仕事ができなくなって泣くんじゃな。
「当然じゃ。このお酒にはそれだけの価値がある。お前らも分かっておるじゃろ?」
「決定だ!部署代表者で腕相撲だ。族長は1人だけだぜ。他の部著は代表者6人選ぼうぜ」
「本当に仕方が無いですね。しかし、代表者を選ぶのは得意ですから」
「毎週腕相撲してたら仕事にならないよ。あんた達、お金稼げなくなるよ?」
「これからずっと俺たちが独占させてもらうわ。本当に悪いな」
「ドワーフに産まれたのです。お酒の勝負に逃げては研究もできませんね」
「お酒に巡り合ったのは俺のお陰だろ?とりあえず飲ませてくれ!」
「大人たちって毎週土地神りんご酒を60本も買うお金あるんだ。お小遣い増やしてくれないかな?お菓子買いたいんだけど」
「本当に無駄な文化。時代は平等だよ?何で独占しようとしてるのさ。ヴィーネ様が独占しないように分配した意味ないじゃない。本当に頭悪くて恥ずかしい」
ドワーフは族長を頂点として6つの部署に分かれている。
守備:ドワーフは他国を攻めない。守りに全力を注ぎ部族を維持してきた。
鍛冶:魔石を削る事もできる。武器や防具の制作を主に行う。
衛生:洞窟内の衛生管理。病人や怪我人の治療を行う。
装飾:様々な美術品から装飾品まで造形美を追求する。
料理:食材を管理している。ドワーフ酒も作っている。
研究:独自に様々な研究をする(主にお酒の味)。シェリル国に来てからは一緒に研究をしている。
ドワーフの腕相撲は相手をの腕を骨折か複雑骨折させての決着が多い。
今までお酒で揉めた事は無い。
お酒の独占を禁じていたのも仕事にならないからだ。
しかし、土地神りんご酒の魅力はドワーフを本気にさせてしまった。
大人たちは本気で腕相撲を行いシャーロットに回復させてもらう事になった。
それが毎週のように続いたのであった。
呆れたヴィーネが国長として指示した。
族長は2週間に1本。
各部署は2週間毎に順番で1本だけ族長に献上する事になった。
「大人って馬鹿よね。どれだけお酒で迷惑かけるのかしら」
「恥よ。ドワーフの恥だわ。私たちの代では平等に分け合いましょうね」
族長が掟を破ってしまうほどの魅力でした。




