偽物
上空から急速に街に接近してくる人がいる。
こんな事をする人はいない。
ジェラ姉ちゃんも同じように接近するが、結界を破るような事は絶対にしない。
ぶつかる直前で速度を落とし、わざと痛がっているのは知っている。
本当に優しいからね。
この速度なら2重結界。
安全を考えて全ての国を結界で覆う。
苛立って転移しようとしたら、ヴィーネに手を引かれた。
「母さん、国長の仕事を奪わないでよ」
「そうね。一緒に行きましょう。どんな人か見てみたいのよ。転移魔法」
速度を落とす気配もない。
このままでは結界に当たる。
問題ないけど…。
結界が見えていないか破るつもりか、どちらかだろうね。
結界に触れる直前にその人は停止した。
正確にはヴィーネが停止させたんだけどね。
「私の国に何をするつもりかな。ワイバーン君」
そう、私は始めて見た。
青色をした空飛ぶ蜥蜴だよ。
翼が付いているだけしか違いが分からない。
ああ、翼を除いても2mはあるから大きさは違うね。
「小娘どもが。厄災のドラゴンを知らないのか?俺に手を出してただで済むと思っているのか?」
「ジェラルディーンなら私の産みの親だよ。知ってるけど、どうかしたの?」
「し、知ってるのか?俺はジェラルディーン様の一番弟子だぞ。俺に手を出したらこの国は終わるが、いいのか?」
なーんだ。
ただの馬鹿だったよ。
ジェラ姉ちゃんの偽物になって脅そうとしたんだね。
でも、ヴィーネが予想外の事を言ったから慌てているみたい。
ジェラ姉ちゃんに関係がない被害者も多そうだね。
有名になるとこういう馬鹿も湧くんだ。
馬鹿がいる事は把握していると思うし連絡する必要もないか。
ジェラ姉ちゃんは賢いからね。
「もしかして、君を殺したら叔母さんが怒って攻めて来るの?それは楽しみだよ。目の前で尻尾焼きがまた見れるね」
「あなた本当に馬鹿よ。ジェラ姉ちゃんが弟子なんて育てる訳が無い。そんな事も知らないって事は会った事も無いんだね。細いから食べるところも無いね。君は無価値だよ」
「俺を殺すと全てのワイバーンを敵に回すぞ。それでもいいなら好きにするがいい」
「じゃあ殺そう。敵対種族の殲滅が楽になるよ」
「そうだね。滅ぼす事になるのか…。残念だけど、敵対する相手には手加減しない事にしてるんだ」
何を慌てているんだろう?
街の人を殺すつもりで来たなら、自分も殺される覚悟くらいしないと。
「分かった。降参だ!お前たちの配下になる。好きに使ってくれ」
「いらないよ。弱いし馬鹿だもん。今まで何してきたか記憶を覗くよ…」
ヴィーネが記憶を覗いたって事は、人を食べる種族の可能性があるね。
すぐに私の為に行動しちゃうんだから。
母親想いで嬉しいね。
「母さん、こいつは駄目だよ。ワイバーンの中でも相当のクズ。言葉を話すから高年齢だけど知能は幼稚だよ。空中で解体して魚か魔獣の餌にしよう」
「じゃあ、苦痛を与えてから殺しましょう。それが、あなたが今までしてきた事への償いよ」
上空を見ている子が何人かいるね。
子供は感覚が鋭いから。
「ヴィーネ。海の上空に転移するよ。転移魔法」
「母さんらしいね。罰は私が与えていいの?」
何だこの人?
震えているよ。
駄目だ。
討伐隊や国防隊を思い出しちゃう。
「ヴィーネに任せるね。私だとやり過ぎちゃいそうだよ」
「最後に言い残す事はある?ワイバーンの分際でドラゴンを名乗った事が、ドラゴンの族長に知られたら滅ぼされるけど、どう思う?」
「知った事か。俺は今まで好きに生きて好きな物を食べてきた。他の奴の事なんて考えた事もない。勝手に滅ぼせばいい」
「ワイバーンを君で判断しないようにしよう。ちゃんと見定めてから必要なら滅ぼすよ。ヴィーネお願い」
「そうだね。こいつを基準にされたら可哀想だよ。どの種族にもクズはいるからね。じゃあ、やるね」
翼が千切りにされていくね。
魚が食べやすいようにしている見たい。
手足の先からゆっくりと凍らせるなんて、手間の掛かる事をしているなー。
なんか喚いてるけど聞こえないから、沈黙の魔法がかけられているね。
最後に氷を細かく砕いて終わりだね。
海で溶けて小魚も食べやすい大きさになるね。
好きに食べてきたんだから、好きに食べられるといいよ。
「ヴィーネお疲れ様。今日は嫌な気分だよ。帰って寝よう」
「はーい。私はそれが一番好きだから」
転移魔法。
社に帰って布団を敷いて、2人一緒に布団に入る。
暫くするとヴィーネが抱き着いてくるから、その後に私も眠る。
ヴィーネが歳を取って抱き着かなくなったら寂しくなりそう。
お母さんも、そう思ってくれていたのかな?
そうだと嬉しいな。
私はずっとお母さんに抱き着いていたからね。
どの種族にも駄目な人はいます。




