閑話 ディアナ リンゴ飴とりんご酒
「さて、祭りも近くなって来た。有言実行だ。ディアナも私の秘書としてリンゴ飴を作ってもらうぞ」
嘘ですよね?
区長会議で1000本とか言ってませんでした?
3人で作るのですか?
「ほ、本気なのですね?」
「当然だ。この街の住民にリンゴ飴が渡らないのは駄目だ。お前も分かるだろ。選別を乗り越えたんだ。りんご酒は無理でもリンゴ飴なら頑張ればいいだけだ。ダミアンにも伝えたが間に合わない。今回は完全な手作業だ。目標は2000本だ。分かるだろ?」
全く分かりませんよ?
りんごが2000個…、確実にありますね。
頭の悪い区長会議でシャーロット様にお願いしてしまっています。
シャーロット様とヴィーネ様が食べられないのは論外です。
子供たちが食べられないのも許されません。
問題は大人たちですね。
街の住民はリンゴ飴を食べながらシャーロット様を思う人が多いのです。
ああ、作るしか無いのですね。
私の考えは甘過ぎたようです。
お菓子屋のおじさん、フーゴはお祭りの前々日から準備を始めています。
私たちが手伝うのは前日と当日です。
流石にこの数です。
リンゴ飴は前日に作り置きします。
そうでなければ不可能ですから。
マリアンネさんが、フーゴに声を掛けます。
「フーゴ、手伝いに来たぞ。今年は屋台を2台出す。妖精用と普通用、何本用意するべきだと考えた?」
「売り切れるのが前提です。妖精用1200本。普通は2000本。計3200本です。この数でも確実に売り切れます。やりますか?」
「リンゴ飴が3200本?頭がおかしくなりそうですよ」
「やるに決まっているだろ。最後の区長会議の後始末だ。次回はお願いしなければいけないかもしれないが、今回は手作業で乗り切る。何を手伝えばいい?」
「りんご400個を、皮を残して、種を取り、縦に4等分に切って下さい。串を縦に皮を二度突き破るように刺して頂ければ準備完了です。私はその間に普通のリンゴ飴を作り続けます」
「400個を包丁で切るのですか…。ああ、私の腕大丈夫かな?」
マリアンネさんとフーゴが笑っています。
「祭りの日に回復してもらえるだろ?問題はないな?」
「ああーー!そうですよね。明日には全快ですよね。今日は腕が千切れても問題ありませんでした」
「その覚悟が必要です。鍛えていなければ、腕は上がらなくなるでしょうからね。お願いします」
フーゴは笑顔でおかしな事を言いました。
「りんごは余分にあります。10個くらいまでなら、食べながら作業してもいいですよ」
「それは助かるな。りんごを食べるだけで、かなり体が動くからな」
頭のおかしな会話を2人がしています。
そして、私たちの地道な戦いが始まったのです。
フーゴは前々日からりんごを洗ったり、材料を揃えたりしているはず。
この人、リンゴ飴に命懸けですね。
選別に残るような男性は、こういう人なのですね。
納得ですよ。
疲れを感じた時に試しにりんごを食べました。
嘘でしょう?
本当に疲れが取れるわ。
以前食べた時は、異常に美味しいりんごとしか思いませんでしたが…。
こんな効果まであるのですか。
恐らく全ての種族が買いに来るでしょう。
フーゴの予測も間違っていません。
確実に売り切れます。
3200本のリンゴ飴が売り切れるって…。
おかし過ぎるわよ!
腕が上がらなくなった頃、準備が整いました。
りんごに飴を絡める作業は、フーゴとマリアンネさんがやってくれました。
私は長椅子の配置を指示したり、屋台の配置を指示したり、お祭りの準備をしました。
そして、お祭り当日です。
シャーロット様の開始の声とともに、回復魔法が降り注ぎます。
「腕の疲れが取れたー!」
ああ、神様!
こんなにも素晴らしい事をして下さっていたのですね。
健康だった私はあまり実感する事が出来ませんでした。
「街長じゃないと本当に楽だわ」
え?
何を言っているのでしょうか?
街長の仕事の方がはるかに楽でしたよ?
リンゴ飴を作り過ぎておかしくなりましたね。
そして店員もします。
多種族の子供たちが笑顔で買っていきます。
あれ程の美味しさです。
さらに、学校で勉強していますからね。
当然だと思います。
妖精用は、妖精や小さい子、初めて食べる子の味見で買われていました。
すぐに隣の列に並び、普通のリンゴ飴を買っている子を何人も見ましたからね。
そして奇跡的に夜まで余りました。
大人が子供よりも笑顔で買っていきます。
街の大人は、子供の時間にリンゴ飴を買う事はしません。
自分たちが買った為に、シャーロット様が食べれない事を恐れています。
その為、夜の部になると街の大人がリンゴ飴を求めるのです。
前回は余らなかったからでしょうか?
物凄く感謝されるのです。
リンゴ飴凄過ぎですよ。
そして、夜の部の中盤になった頃に売り切れたのです。
完売ですよ。
予想通りですが意味が分かりませんね。
「お疲れ様でした。2人とも飲んで下さい。リンゴ飴に儲けはほぼ無いんで、代わりです」
「気にしなくても良かったんだが…。これをくれるのか?来年も手伝いたくなったぞ!」
「りんご酒じゃないですか!お酒が苦手なので控えていた間に、買えなくなって後悔していたのです」
「疲れも吹き飛びますよ。ディアナさんは結婚もしていないですし、楽しまなければいけませんよ」
「気にしなくてもいいですよ。今は目ぼしい男性はいません。少し待ちます」
「それがいいだろうな。今は相手を探す時ではない。普通に飲んで楽しんだ方がいいぞ。私は子供がいるから家に帰らせてもらうが、ディアナは誰か捕まえて飲めばいいさ」
こうして、マリアンネさんやフーゴと別れたのです。
そして、私は苦手なお酒を軽く舌に乗せました。
な、何ですかこれは?
土地神りんごが凝縮されています。
体が若返ったようですよ。
苦手な酒精が体に染み渡っても、拒絶感や吐き気がありません。
これは、美味し過ぎますよ。
ああ、失敗しましたね。
買い溜めしておくべきでした。
ドワーフが来たので、もう無理でしょう。
いや、マリアンネさんが、りんご酒の為ならリンゴ飴を作っていいと言っていました。
つまり、マリアンネさんでも手に入らなくなっているのです。
確実にお願いするでしょうね。
増産決定です!
未来は明るいですね。
ちびちび飲みながら歩いていると、危険な人たちを見つけました。
孤児院の集団です。
巻き込まれたら終わりです。
確実に引きずり込まれます。
今日は1人で飲んでいるのが一番でしょう。
この国は夜に女性の1人歩きが、全く問題ないのですからね。
酒屋に向かい、りんご酒があるか確認しました。
当然のように売り切れていました。
本当に残念です。
ドワーフたちが、そこら中の地面に寝転がっています。
りんご酒を買えなかったからといって、樽酒を1人1樽とかおかしいですよ。
今日1日で全てのお酒が売り切れそうです。
噴水の長椅子に座り、りんご酒をゆっくりと味わいます。
ああ、今夜は月が本当に綺麗ですね。
1人酒も良いですよね。




