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土地神様は吸血鬼  作者: 大介
第2章 多種族国家シェリル

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閑話 レナーテ 譲れない物

お祭りの時が来ました。

シャーロット様の声でお祭りの開始を宣言されます。


そして、回復魔法を街中に展開するのです。


ああ、美しいです!

回復魔法を使えるので、違いが良く分かります。

本当に美しい魔法陣なのです。


どれだけ研究を重ねたのでしょうか?

あの魔法陣は思い付きではないと思います。

同じ魔法陣が展開されている様に見えて、実は違いがあるのです。

恐らく、今まで経験してきた治療の度に魔法陣を改良し、それでも組み込みきれなかった病気や怪我の治療を別の魔法陣で行なっているのです。


感動的な光景です。


神様が1つの魔法で簡単に回復している訳では無いのです。

細かい治療まで含め、今まで経験してきた全ての病気や怪我を治療してくれているのです。


神官が行う回復魔法など、これを前にしたら子供の児戯に等しいのです。

1000万ギルを要求するような治療では無いのです。

見た目は綺麗に回復している様に見えて、実際は元通りとはなりません。


ですが、シャーロット様は完全回復を実現されているのです。

神様が人の為に努力して下さっているのです。

この光景に拝まずにはいられません。


拝んでいると声がかかりました。

「レナーテ、シャーロット様がお肉を持って来て下さいますよ。準備をしなければいけません」

「カーリンの言う通りですね。神様が用意して下さるのです。こちらも、お出迎えの準備をする必要がありますね」


私たち5人で子供を古着に着せ替えます。

食事で汚れてもいい様にする為です。


そして、シャーロット様が大きなお肉を持ってやって来ました。

そこからは、いつも通りです。


厄災のドラゴンの尻尾の燻製を焼き本人の前で子供たちに食べさせるのです。

そして、悔しがらせて楽しんでいるのです。


とんでもない光景です。


神々の遊びは人の領域から外れています。

シャーロット様とヴィーネ様は厄災のドラゴンを怖がる素振りもないのです。

仲のいい本当に家族の様なのです。


この国に恐れるものは何もありません。


子供たちがお肉を食べ終わった後、お風呂に入らせるのもいつも通りです。

そして、昼寝をして夕暮れ少し前に子供たちが一斉に起きて着替え始めます。


神様からお小遣いをもらえるのです。

子供たちも良く分かっていますね。


さらに、私たちにもお小遣いを下さるのです。

一月の給料より多いのです。


拝まずにはいられません。


どうして、ここまで人に優しく出来るのでしょう?

やはり、お母様の影響が大きいのでしょうね。

人間としてとても素晴らしい方です。


チェルシーは驚いていますね。

それが普通なのです。


ここの環境が世界一、素晴らしいのです。


シャーロット様は、()()で未来の旦那様を見つけて、と言っていました。

それだけはありえません。


この国にまともな男性は残っていません。

それは、皆が分かっている為、苦笑いです。

神の選別で飛ばされる様な男性がいない国。


なんて素晴らしいのでしょう。

こんなに気持ち良く街を歩ける国はありません。


ヴィーネ様から念話(テレパシー)が入りました。

土地神りんごと命名すると。


当然の事ですが今はまずいです。


「リンゴ飴は私が並ぶので、りんご酒はお願いします。あれは、1人1本までですから皆で買いに行って下さい」

「レナーテ、分かってるって。りんご酒だけは譲れないね」

「勿論です。土地神様のりんごを使ったお酒です。必ず手に入れます」

「ええ。りんご酒は必ず買う必要があるわ。買えなかったら保存してあるのを持って来るから、安心して」

「え?そんなに美味しいの?私も買いに行く感じだよね…」


リンゴ飴の列に並びます。

やはり、数が少なくなっている感じですね。

それでも、この時間まで売り切れていないのは凄いです。


前回は買えませんでした。

あれ程悔しい事はありませんからね。


今回は買えそうです。

奇跡です。


「リンゴ飴を5つ下さい」

「1000ギルね。今年は間に合ったね。本当に欲しい人に食べてもらいたいからね」


お菓子屋のおじさん。

とても素晴らしいです。


おじさんに1000ギルを手渡します。

「ありがとうございます。これを食べなければお祭りが始まりません」

「街の人はそうなんだよね。でも、人が増えて大変だよ。差別する訳にはいかないからね」


そうですよね。

シャーロット様が悲しみます。


「はい。それは、許されないでしょう。神様にお願いしてもいいかも知れませんね」

「ああ、次回はお願いしようと考えているんだ。なるべく、自分たちで解決したいけどね」


素晴らしい心持です。

流石、お菓子屋のおじさんです。


「後ろの人が待っていますね。では、次回も楽しみにしていますね」

「ええ。毎度ありがとうございました」


リンゴ飴を5本持って噴水の縁に座ります。

ああ、今回のお祭りが始まりました。


クリスタが先に戻って来ました。

「りんご酒は買えなかったよ。ビアンカが買い溜めしてるから、お金を手渡してもらおう」

「そうでか。やはり、りんご酒だけは厳しいですね。神様の力が必用かもしれません」


「でも、リンゴ飴は買えたんだ。それも、ぎりぎりだったでしょ?マリアンネさんが手伝ってもぎりぎりって、かなりやばいね。おじさんは()()たちと()()()たち売りたいだろうけど、人気になり過ぎているからね」

「はい。やはり、この国の住民の1人として、リンゴ飴とりんご酒は譲れないのです」


残りの皆も戻って来ましたね。

ビアンカのお酒を取りに行っていたのでしょう。


皆にリンゴ飴を配ります。

「良かった。リンゴ飴は間に合ったのね。これだけは買い溜め出来ないから」

「ついに、リンゴ飴が買えたのね。長かったわ。やっと、本当のお祭りを楽しめるわ」


カーリンとビアンカの気持ちが良く分かります。


「何これ?土地神りんごで出来ているんでしょ?ただのりんごじゃないね。美味し過ぎるよ。普通のりんごが食べられなくなる味じゃない?」

「チェルシーも知ってしまったわね。皆が必死になるのも分かるでしょ?でもね、シャーロット様の歴史まで知っていると重みが違うのよ。りんごだけが美味しくなる理由がちゃんとあるのよ。ビアンカ、教えてあげなよ」

「そうね。リンゴ飴を食べたのだし教えてあげるわ。リンゴ飴とりんご酒は本当に特別なのよ。シャーロット様が幼い頃に食べた事のある食べ物はリンゴ飴しかないのよ。お母様との思い出が詰まっているから、特別に美味しくなるのだと思うわ。そのりんごで出来ているりんご酒も、美味しいに決まっていると思うでしょ?」


本当はお母様の血とリンゴ飴だけですけどね。

お母様の献身が素晴らしいのです。


決して誰の血も飲ませず与えず、焼いた肉も食べた事が無いなんて。

徹底して自分の血だけを与えたのです。


そして、お祭りの日は一緒にリンゴ飴を食べたのです。


教師になってから色々と知りました。

子供たちが身体強化を誰かに話すなんて、ありえないでしょう。

シャーロット様が、どれだけ御自分の体を破裂させながら考案したのか…。


回復魔法があるとはいえシャーロット様には必要のない技術です。

人の為に御自分を犠牲にした献身による技術の結晶なのです。


神と呼ぶべき人ではございませんか!


学校と孤児院にはシャーロット様の思いが詰まっています。

辞める事など出来ないでしょう。


「な、なるほど。売り切れる訳だね。ビアンカはそれを予測して買い溜めしておいたんだね」

「ええ。お祭りにどちらも無いなんて許されないのよ。この国の住民はほとんどそうよ。今回はリンゴ飴まであるなんて、素晴らしいお祭りじゃない。最高ですよ!」


私はお酒が弱いのです。

しかし、リンゴ酒だけは必ず飲みます。


当然の務めですから。


ビアンカに1万ギルを手渡して、りんご酒を受け取ります。

孤児院の大人が他の屋台に行く事はありません。


リンゴ飴とりんご酒があれば、お祭りを楽しめるのです。


チェルシーが声を上げました。

「な、何このお酒!ちょっとありえないわよ。これは買い溜めするわ。私も手伝うよ」

「ええ。お願いね。このお酒は特別だから」

「本当に美味し過ぎるよね。他のお酒とか飲むと濁る気がして嫌なのよ。りんご酒だけで酔いたいの。それが一番気持ちがいいわ」

「クリスタもやっと分かってくれたのね。完全にこちら側の人間よ」


私も1口飲みます。

酒精が苦手な私にも、スーッと体に沁み込んでいきます。


ああ、美味しいです。


このお酒で酔っても気持ち悪くはならないのです。

眠たくなってしまいますが、それだけです。


ああ、お酒の風味とともにシャーロット様の歴史まで思い浮かびます。

とても幸せです。


「こちら側の人間って何よ?私は中立派だから!」

「では、ぶどう酒や麦酒も飲みなさい。中立に飲むべきよ!」


「お祭りは特別なのよ。お祭り以外では飲むわよ」

「お祭りを特別だと思う。その心がこちら側なのよ。自分を見つめるべきだわ」


「そちら側に寄り気味だけど、まだ中立よ。寄り気味なのは認めるわ」

「へー。寄り気味なんだ?寄り過ぎて私たちを通り越してなければいいけどね」

「国防隊を殺そうとまで考えていたクリスタ先生が、中立は無いわね」

「へぇー、クリスタは強いんだね。部隊を壊滅できるなんて凄いじゃないか」


お酒を飲む時は聞き役ですが、今回は違いました。

「ちょっと待って下さい。クリスタが何故、国防隊を殺そうと思ったのですか?」

「ほら。本物の信者が気付いちゃったじゃない。もういないからいいけどさ」

「国防隊はね、シャーロット様の秘儀を知って弱者を甚振りたかっただけのクズの集まりなのよ。国を守るつもり何て誰も無かったの。隊長をしていた区長も含めてね。シャーロット様が心を痛め続けていたのよ」

「国を守る気が無い国防隊って、それはクズ過ぎでしょ!壊滅したんでしょ?良かったじゃない」


ヴィーネ様が選別した理由が分かった気がしました。

「もしかして、国防隊が切っ掛けで選別が行われたのではないのですか?ヴィーネ様がシャーロット様を苦しめる存在を許す訳無いですから。そして、国長になって負担を減らそうとしているのですよ」

「レナーテの想像通りだと思うわ。記憶を消されて飛ばされたと聞いたけど、殺されて消されているかもしれないわ。それほどの醜態だったらしいわ。まあ、殺そうと思ったのは本当よ。子供たちの鬼ごっこの結果も馬鹿にしていたからね。シャーロット様が企画して目を覚ましてあげようとしたのに、手加減したとかやる気が出なかったとか言い触らしたのよ。その時から既に殺意はあったからね」

「そこまでシャーロット様を侮辱した存在がいたのですか。何で教えてくれないのよ。私だって手伝ったわよ」


「あんた達が何を手伝うか分かるから教えなかったのよ。孤児院にいる私たちが住民を殺したら、シャーロット様が悲しむでしょうが。分かるでしょ?悪人を殺す時ですら、子供の目に映らない様に配慮する人なのよ。私たちが殺しに行ける訳無いじゃない」

「やはり、神の裁きがあったのですね。消えた、国防隊も元冒険者も地獄に落ちているでしょう」

「気になるんだけどさ。ヴィーネ様はどれくらい強いのかな?」

「一瞬でこの星を爆発させるくらい強はずよ。当然、シャーロット様もね。チェルシー知らなかったの?」


「そこまで規格外だったの?強いのは知っていたけど、本当に神じゃないか!」

「仲間が増えましたね。そうです、神なのです。拝むべき存在ですよ!」

「強いだけでは無いわ。あらゆる献身により、この国は500年1人も病人や怪我人がいないわ。チェルシーは運がいいわ。世界一幸せな国に来れたんですもの」

「そうね。孤児院はその中でも、世界一恵まれた環境なのよ。シャーロット様の愛が詰まっているからね。チェルシーも覚えておいた方がいいわね」

「あなた達、少ない中立派を引き込まないでよ。チェルシーは普通に土地神様と呼ぶだけでいいのよ。それは、間違ってないからね。知れば知る程に引き込まれるわよ。見た目は可愛いけど本当に魅力的なのよ。分かってない奴が多過ぎ。消えたからいいけどね」


クリスタは引き込まれると言っていますが、実際は違うのですよ。

自然と崇めてしまうのです。


チェルシーの教育を頑張ろうと思いましたが、必要無さそうです。

皆、自ら崇めてしまうのですからね。


そして、りんご酒をいつ飲み終わったか分からなくなった時、私は朝を迎えるのです。

自然と崇めてしまうのです。

孤児院は、皆が崇拝しているので染まりやすいですね。

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