争う理由
薄く微笑む娘に違和感を覚えた。
最近は結界を張り、探知範囲もシェリル国とハイエルフの国で留めてある。
半ば諦めながら探知範囲を広げる。
約10万人はいるであろう、殺意を剥き出しにしている人たち。
なるほど。
理由はこれだね。
「母さん、国長に仕事ができちゃったよ。ちょっと出かけるね」
これはまずい気がする。
地形を変えた自分が言うのはおかしい。
しかし、娘の笑顔はそれではすまないと告げている気がする。
海が近くなれば、みんな喜ぶかな?
私は瞬時にその思いを打ち消した。
駄目だよ。
まだ、誘う種族がいるかもしれないんだから。
しかし、ヴィーネがそれを考慮しないだろうか?
有り得ないよ。
私より賢いし、私が悲しむ事は絶対にしない子だから。
何を狙っているんだろう?
「私も付いて行くよ。ヴィーネが何するか気になるし相手が誰か知りたいからね」
「母さんも心配性だね。じゃあ、行くよ。転移魔法」
そこは、何もない草原だった。
少し遠くには大きなお城も見える。
へぇー、凄いね。
どうせ奴隷を使ったんだろうけど。
ヴィーネが指揮官らしき獣人の狼の男性に声をかける。
「君はどこを攻める指揮をしているのかな?こんな大勢、事前に連絡をしてあげないと可哀想だよ」
私もどこを攻めるのか知りたいな。
でも、獣人の男は腰が抜けたのか立てなくなっている。
代わりに副官らしき人間の男が偉そうにヴィーネに語った。
「君たちはどこの子供かしらないが邪魔をしないでくれたまえ。これは、奪われた民を取り返す為の正当なる戦いだよ。もし、邪魔をするなら子供でも容赦しない」
「偉そうだね!辛いのと、痛いのと、苦しいのと、死ぬの。どれが好き?選ばせてあげる」
最悪の4択だよヴィーネちゃん。
絶対最後に死ぬもん。
私だったら即死で許しちゃうけど可愛い娘は違うみたい。
これは、ジェラ姉ちゃんの性格が出ているね。
男は偉そうに口走った。
「子供の分際で生意気な事を口にする奴だ。よかろう!直々に殺してやる」
「分かったよ。全部だね!」
私は見学する。
正直興味が無いからだけどね。
あ、男の口から水がこぼれた。
呼吸ができない量の水を胃袋に転移したね。
もう、辛くて、苦しくて、死にそうだよ?
男が水を一生懸命に吐き出していると、一瞬だが悲鳴を上げた。
おそらく、胃袋の水を凍らせたね。
血が口から見えるから、氷に棘がありそうだよ。
男は声にならない声を出している。
相当の痛みだと思うが、声が出せないみたい。
喉まで凍っているね。
このまま死ぬのを待つだけかな?
あ、闇に吸い込まれた。
ここに死体を残したくないみたい。
意外と綺麗好きだからね。
「さて、指揮官殿。あなたはどこの国を攻めるのか忘れちゃったよね?」
「あ、忘れました。私はどこの国を攻めればいいのでしょうか?」
ヴィーネが笑っているよ。
絶対に記憶操作はしていない。
そういう性格なのは知っているから。
「確か自国を攻め滅ぼすつもりじゃなかったかな?邪魔なんでしょ?王族や貴族が」
「その通りです!今、目覚めた気分です」
狼の男は立派に立ち上がり声を上げる。
「我らが攻めるのは本国だ。奴隷だった者がほとんどだろう。王族や貴族に痛みを教えてやるぞ」
凄い歓声が起きている。
奴隷だけで10万人いたの?
ちょっと酷過ぎる国じゃない?
ヴィーネは釘を刺す。
「孤児や奴隷の子供を殺す馬鹿は、この中にいないよね?」
「勿論です!そのような馬鹿はここで殺します」
私の為だね。
悲しませたくないから言ったんだ。
「お前たち、孤児や奴隷の子供は被害者だ。絶対に手を出すな。あくまで、王族や貴族が敵だ。忘れるな。痛みを思い出せ。屈辱を思い出せ。攻める時は今。行くぞー!」
本当に優しい娘だよ。
指揮官はヴィーネから逃げるように大軍を本国に向けて進め始めた。
シェリル国に関係ない戦いだね。
「ヴィーネ。まさか暇潰し?」
「違うよ母さん。勉強だよ。人はどうやって国を攻めるのか見ておきたくてね」
知ってる顔だよ。
絶対に知ってるよ。
火吹きドラゴンの知識あるもん。
まさか…!
無いのかもしれない。
いつも攻めてるの自分だから。
「流石ヴィーネだね。常に自分を高めるなんて素晴らしいよ。母さんも一緒に見に行くよ」
「分かってくれた?本当に知らないんだよね。だって火吹きドラゴンは火を吹くだけだから」
予想通りだよ。
ジェラ姉ちゃんの知識は火を吹いてるだけだよ。
厄災に相応しい被害者の数だからね。
「母さん。戦いが始まったようだよ。見に行こう」
「そうね。王族の顔だけは私も見たいよ」
笑顔で見つめ合う。
似た者同士だったらしい。
指揮官が王族までたどり着いたところが見たいよね。
完全な裏切り行為だもん。
どういう反応するか知りたいよ。
私たちは空を飛びながら戦いを眺める。
なるほど。
貴族には兵がまだ残っていた様だ。
一方的な戦いになると思ったけど激戦だよ。
少しだけ気になるんだよね。
どこを攻めるつもりだったんだろう。
私たちの国までは遠すぎる。
転移魔法が使えれば違うけど、そうではないだろうし。
こんな海の近くから歩いて向かえば大変な事になるよ。
「ねえ。本当はどこを攻めるつもりだったのかな?」
「近隣の国じゃないかな?どこでもいいよ。この大陸での戦争は許さないからね」
国長じゃ無くない?
台詞が大陸の覇者だよ。
もう、この大陸の王だね。
国長でいいのかな?
大陸王とかに名前を変えようかな?
「母さん。間違っても大陸王に名前を変えようなんて恥ずかしい事は言わないでよ…」
「そ、そんな事を言う訳無いよー。国長が何を気にしているの?」
(絶対に嘘だよ。分かってるんだよ。どうせ、名前を考えてたんだよ…)
「聞こえなーい。小さい声で話しても聞こえませーん!」
「まあ、いいや。そろそろ最後の時間だよ。転移魔法」
ここは王様のいる場所かな?
赤い絨毯が敷かれている豪華な部屋。
無駄にきらきらしていて私は苦手だな。
社の方が落ち着くよ。
木の香りとあの広さで十分だよ。
「国王。お前の今までの行為は目に余る。今日をもってその首もらい受ける」
「お、お前は何を言っているんだ。戦争で奪われた民を助ける為に出陣したのではないのか?」
「戦争で奪われたのは奴隷であり今回の兵隊も奴隷ばかり。この国は奴隷を酷使しているだけの野蛮な国では無いか。つまり、国王。あなたの存在が野蛮なのだ」
奴隷の奪い合いか。
本当に馬鹿な戦いだよ。
自分の国の奴隷が奪われたから奴隷を使って取り戻す。
何で奴隷は逃げないんだろう?
あんな草原まであの数で行動するなら家族がいても逃げれそうなのに。
ヴィーネは拍手を始めた。
「素晴らしいよ指揮官殿。ついに国王になる瞬間だ。ところで、何で奴隷は奴隷を奪う為に戦うの?」
「そ、それは…。新しい奴隷を連れてきたら自分たちが平民になれるからです。奴隷から格上げされる為、新しい奴隷が欲しいのですよ」
そんな事だろうと思ったよ。
結局奴隷はいなくならないのか…。
ヴィーネも笑ってるから思った通りだったみたい。
「では、指揮官殿。新たな統治を期待しているよ。転移魔法」
社に帰って来ちゃったよ。
完全に暇つぶしだったね。
「人は奴隷の奪い合いで戦争をするのか。馬鹿な生き物だ。この大陸に必要かな?」
また、大陸王みたいな事を言っているよ。
もう、大陸王でいいんじゃないかな?
「母さん。私はこの国の長だからね。別に大陸の支配者じゃないから…」
私はヴィーネの頭をなでなでしながら答える。
「分かってるよ。ヴィーネちゃん。大陸から悲劇を無くしたいだけだよね。立派な国長だよ」
「分かってくれればいいよ…。お風呂に入って寝ようよ」
「そうだね。十分に勉強したし、お風呂に入って寝よう」
ヴィーネは全ての国の国王を手玉に取る気じゃ?
いや、面倒だから絶対にしないだろうね。
今日は暇潰しかな。
「さて寝ようか。おやすみー」
「おやすみー」
私にすぐ抱き着くヴィーネは、大陸から悲劇を無くす方法を考えているのかもしれない。
自分たちで殺し尽くせば終わるけど、そうじゃない方法を模索しているのかな?
この国に敵対しない限りは、多くを殺さないつもりなのかもね。
優しいね。
私の可愛い甘えん坊の娘は。
ヴィーネの探知範囲は通常時でも世界の大半を見れます。




