激怒と天使
私は社で寝転がって昔を思い出していた。
やっぱり、お母さんと一緒の時間は幸せだったよ。
今も街の皆が頑張ってくれていて充実はしているけど、お母さんは特別だよ。
お母さんの事を考えたら、居ても立っても居られなくなり社を飛び出す。
そして、お墓の前で手を合わす。
「お母さんと同じ場所にいけるのは、何時か分からないけど、その時までは必ず皆を守るからね」
何と無くボーっとしていたけど、突然探知範囲に不快な反応がある。
機嫌のいい人と、恐怖している人が6人。
何だこれは?
街の外ではあるけど、すぐ近くだ。
移動しているみたい。
もしかして、この街を目指しているのか?
私は転移魔法でマリアンネの元に行く。
「マリアンネ。私には分からない事があるから、ちょっと付き合って」
「かしこまりました」
そして転移魔法でご機嫌な人の元に行く。
太った鞭を持った男が馬車を引いており、中には檻に閉じ込められた子供が6人いた。
人間だけじゃないみたいだ。
突然現れた私たちに太った男が驚いている。
しかし、汗を拭きながらニヤニヤし始めた。
私には分からない。
「マリアンネ。説明をお願い」
「この男は奴隷商人です。檻に閉じ込められている子供は商品です」
「これはこれは、この近くの街の方ですか?子供が高く売れると聞いたものですから」
「マリアンネ。こいつは何を言っているの?」
私は怒りでどうかなりそうだ。
無意識に爪が伸びている。
殺気が止められない。
髪が浮き上がる。
「落ち着いて下さい、シャーロット様。私たちの街以外の国では、奴隷を売る事は許されています」
「つまり、皆殺しにすれば解決する?」
「奴隷はこの子たちだけではありません。多くの国は奴隷を使って汚い仕事をさせています」
「国が奴隷を使う?当たり前の行為だという事か。じゃあ、私の視界に入ったこいつだけ殺すか」
「少しお待ち下さい。この男が子供を高く売れると誰から聞いたのかを確認するべきです」
「そうだったね。そうしないと、また、子供が奴隷にされちゃうね」
男はさっきから無言だな。
「おい、お前は誰から何を聞いた。正直に言えば痛みなく殺してやる。黙っていたら地獄の苦痛を味あわせた後に殺す。好きな方を選べ!」
「な、ななななんでこんな事になっているんだ?俺はただの商人だぞ?」
耳障りな声だ。
風魔法。
左腕を斬り落とした。
「いぎゃーーー」
「誰が余計な事を話していいと言った。早くしろ!」
「おい!お前は早く話した方がいい。黙って得する事は何も無いぞ」
「冒険者組合で聞いたんだ。無料で治療してくれる馬鹿な吸血鬼がいるって噂になっている」
「マリアンネ。これは、冒険者を皆殺しにすればいいか?」
「いいえ。今後、人の出入りを厳しくしましょう。お祭りの時は住民限定にしましょう」
「そうだな。無暗に殺すのは良く無いな。お前の記憶を覗いて、関係者全員をここに召喚する」
男を念力で固定して記憶を探る。
こいつらが話していたのか。
4人が笑いながら私を馬鹿にしているな。
それは、好きにすればいいが殺す。
私が直接治した記憶はない。
お祭り目当てで来たのか。
クズどもが。
どこにいる?
探知範囲を100㎞に拡大。
意外と近くにいるな。
召喚魔法。
「やあ、噂の馬鹿な吸血鬼だ。お前たちを殺す為に呼び出してやったぞ。その場で殺しても良かったが、善良な人もいるだろうから止めておいた」
全員固まっているな。
青ざめて泣いている奴もいる。
何が悲しいのか理解出来ない。
可哀想なのは奴隷の子供だろう。
「一言くらい話す時間をやる。馬鹿な吸血鬼に言いたい事はあるか?ああ、お前に用はもうない。闇魔法」
「ああ、あ!マリアンネさんじゃないですか。助けて下さい」
「私たちが何をしたと言うんですか?」
「なんで、なんでこんな事に」
「・・・・」
冒険者だから反攻してくると思ったが何も無いな。
何だこいつら?
「シャーロット様に怪我を治してもらったのに馬鹿にした後、子供を高く売れると奴隷商人に話したんだろ。お前たちのせいで冒険者が皆殺しになる所だったんだ。お前たちだけの死で済む事をありがたく思え」
「もういいか?じゃあな。闇魔法」
4人と太った男を消した。
子供たちが死体を見て怯えては可哀想だからね。
私は馬車の中の檻を壊して子供たちを出してあげた。
「皆、誘拐されたり攫われたりしたのかな?」
一番大きな子が代表で答えてくれた。
この子は人間だけど、違う種族の子もいる。
「人間は親に売られました。獣人の子とエルフの子は攫われたと思います」
「ありがとう。獣人の子とエルフの子は親の所に帰りたい?」
「親は殺されました。帰る所はありません」
「親の記憶がありません。どこに帰ればいいのか分かりません」
無茶苦茶な事をするな。
奴隷にする為に、親を殺す。
奴隷にする為に。物心つく前に攫う。
「じゃあ、皆で私たちの街で暮らす?可愛いお姉さんが孤児院をやっていて、ご飯もお腹いっぱい食べれるよ。勉強はしないといけないけど、悪い事をしなければ好きな事をしてもいいよ。どうする?」
「お願いします。皆、恐怖心が抜けなくて答えられないと思います」
大きな子も恐怖心でいっぱいなのに、皆の為に頑張っているんだ。
凄い偉い子だね。
「そっか。君は優しくて強いね。じゃあ、行こう。転移魔法」
マリアンネと子供たちを連れて孤児院へ移動した。
すぐにカーリンに声を掛ける。
「カーリン。子供が6人増えるけど1人で大丈夫?」
「少しきついです。誰か手伝って欲しいです」
「マリアンネ、誰かいるかな?」
「授業中は楽ですから、授業が終わったらクリスタをここに住まわせましょう」
念話でクリスタに話し掛ける。
「クリスタ。授業が終わった後に孤児院で暮らす事になっても大丈夫?子供が少し増えたから見て欲しいんだよ」
「最新設備の孤児院にですか?勿論、いいですよ。子供の面倒もカーリンと一緒に見ます」
「ありがとう。クリスタは本当に優しいね」
「いいえ。シャーロット様やカーリンには敵いません」
「マリアンネ。クリスタが問題ないって。カーリンもそれなら安心でしょ?」
「はい。クリスタなら安心です。授業が終わった後のお風呂とご飯を手伝ってくれるだけで十分です」
「それなら良かった。少し給料を考えておきます」
「よろしくねー」
マリアンネは街長の仕事に戻っていった。
冒険者の知り合いだったからかな?
少し張り詰めた空気だったね。
「今日の夜ごはんは外で鉄板焼きだよ。皆、お腹いっぱい食べてね」
「あの、私はお肉食べられないです」
エルフの子はお肉が食べられないみたい。
「何が好きなの?」
「果物や野菜です」
「じゃあ、外で鉄板焼きをしながら、果物と野菜もお腹いっぱい食べよう。中に果物と野菜は余っているよね?」
「はい。十分ありますから大丈夫です。今日は勉強に行けないから、先にお風呂に入っちゃおう。皆、中に入っておいで」
「カーリンお姉ちゃんは優しいから安心だよ。皆、体を綺麗にして美味しいご飯を食べよう。私は皆の服を買ってくるよ」
皆が恐る恐るカーリンの後に付いて行く。
心配しなくても大丈夫だよ。
本当に優しいから。
男の子2人に女の子4人ね。
背も体系も私とあんまり変わらないね。
獣人の子の服はカーリンに直してもらおう。
転移魔法。
服屋に移動した。
「おばちゃん。私と同じくらいの男の子2人に女の子4人の服と下着を3セットと靴をお願い」
「えらい注文ですね。少しお待ち下さいね…。靴は合わなかったら交換しに来て下さいね」
「分かったよ。ありがとう。全部でいくらかな?」
「たくさん買ってくれましたから、6万ギルでいいですよ」
「駄目だよ。交換とか色々あるかもしれないから10万ギルでいいよ」
「それは流石に払い過ぎですよ」
「いいよ。お金は余ってるから。カーリンが子供服とかを買いに来たら安くしてあげて」
「分かりました。では、そのようにさせて頂きます」
おばちゃんに10万ギルを手渡すと、風呂敷に包んでくれた服や靴を念力で全部浮かせて孤児院へ転移魔法した。
「カーリン。服と下着を3セットと靴を買ってきたけど足りるかな?」
「十分ですよ。多いくらいじゃないですか?」
「多いなら良かった。獣人の子の服の手直しはお願いね」
「分かりました」
「皆、お風呂に入ったら、新しい服に着替えてね。新しい靴もあるけど大きさが合わなかったら交換できるから、ちゃんと言うんだよ」
お湯に浸かって少し肩の力が抜けたかな?
ゆっくりだけど新しい服に着替えて行く。
獣人の子はやっぱり尻尾の部分を加工しないと駄目だね。
カーリンが早速やってるから大丈夫そう。
座って授業が終わって、皆が帰って来るのを待ってよう。
カーリンは本当に天使だよ。
子供たちも自然と笑顔になる。
半月もしないうちに元気にはしゃいでいそうだ。
見ていると安心するなー。
「あ、カーリン。子供たちの寝る場所は大丈夫?」
「はい。元々大きい布団ですから大丈夫ですよ」
「足りなかったら社に来てよ。お金なんて余っているんだから」
「ありがとうございます。足りなくなったらお願いに行きます」
エルフの子はカーリンにずっとくっ付いている。
カーリンは凄いなー。
あ、子供たちが走って来る音が聞こえてきた。
「ただいまー!」
「あれ?新しい子がいるよ」
「その通り。皆、仲良く暮らすんだよ。そして、今日は鉄板焼きをする事にしたよ」
「お祭りじゃないのに鉄板焼き食べれるんだ」
「やったね!もう楽しみだよ」
「クリスタも帰って来たね。これからよろしくね」
「分かりました。この最新設備を堪能します」
確かに孤児院の設備は特別に私が力を入れたけど、カーリンから聞いたのかな?
それだけで、孤児院の仕事も受け持ってくれるのだから、クリスタも優しいね。
カーリンとクリスタとの出会いを考えれば当然か。
2人とも優しいに決まっていたよ。
「よーし!私が帰って来るまでに鉄板焼きの準備を終えているんだよ。分かった?」
「「はーい!」」
皆、元気がいい返事だね。
ボアを見つけて瞬殺する。
皮を剥いで内臓を取り出して川で洗ってから戻って来たよ。
結構急いだんだよ。
それでも、完璧に準備が整っているから流石だよね。
「ちゃんと準備出来てるねー。さあ、食べるよ」
「カーリン。ボア肉の鉄板焼き用に焜炉があるんだよね?」
「そうだよ。全てがシャーロット様の特注です!」
「内装を見せてもらったけど意味不明だったよ。凄いね」
「でしょ?魔石と特注で溢れているからね。ふふ、毎日楽に温かいお風呂に入れるよ」
「それが本当に凄いよね。一部の地域では始まっているみたいだけど、ここはきっと、一番最初に研究結果が反映される場所なんだね」
「そうだと思う。クリスタもちゃんと手伝ってね」
「分かってるよ。とりあえず、お肉食べようよ」
「私はクラーラの果物と野菜を用意してあげるから、どうぞ食べてて」
「クラーラは焼いた野菜は食べれるの?」
「食べた事無いけど、生物の肉や乳が使われていなければ大丈夫だと思う」
「じゃあ、挑戦してみよっか?」
「うん。挑戦してみるよ!」
「玉ねぎから食べてみよう。この野菜は熱を加えると甘くなるよ」
「あ、あっちち。でも、平気で食べれるよ。それに甘い。凄いねお姉ちゃん!」
「そうでしょう?肉と乳が駄目でも色々な味が楽しめるよ」
「うん。楽しみ!」
私は肉を捌いた後、残りを燻製にしながら話を聞いていたけど、カーリン天使過ぎるよ。
エルフの子はクラーラって言うんだ。
もう完全に懐いてるじゃん。
それに話し方が上手いと思う。
相手の事を考えて話しているのか、自然に出来るのか分からないけど凄いよ。
子供の相手をする天才だよ。
泣きながら頑張りますって言っていたのが懐かしいよ。
本当に絶望した顔だったからね。
全てを諦めたような表情だったもん。
クリスタに頭を叩かれてたのも面白かったし、2人はいいコンビだね。
「皆、これから困った事があったら、2人のお姉さんにお願いするか、私の住んでいる社に来るんだよ。この街は私が絶対に守るから大丈夫。例えドラゴンが攻めて来ても安心だからね」
「本当に安心だから凄いよー。また、半年くらい経てばお祭りもあるし、楽しい事がこれからいっぱい待っているからね。でも、明日からは勉強に行かないといけないからね。子供は食べて勉強して遊んで寝る。皆、分かったね」
「「はーい!」」
元気な子供たちが凄いまとまっているよ。
天使は凄いや!
「じゃあ、私は社に戻るね。皆、またねー。転移魔法」
社に戻り今日を振り返る。
本当に嫌な1日だった。
でも、カーリンが凄いいい1日に変えてくれた。
とても心地いい気分で寝転がる。
カーリンは皆のお母さんだよね。
カーリンを見ていると、お母さんを思い出すよ。
奴隷商人たちの事は次に活かそう。
子供は宝なんだよ。
未来の可能性がいっぱい詰まっている。
お母さん、いい人も悪い人もいるから皆を幸せにするのは難しいよ。
カーリン天使で良いですね。
クリスタも優しいので孤児院は安泰です。