閑話 マリアンネ 未来の為に
この国の未来を考える。
確実に私たちの居場所はないな。
「ディアナ、大人たちを教育出来ると思うか?」
「無理ですね。変わりません」
「大人たちを教育しないと未来に居場所はないぞ」
「自業自得です。現状維持で許されたのが奇跡的な状況です」
その通りだな。
現状維持で許された。
自分の体を壊し続け街を守るように大人を教育してきたシャーロット様。
その努力を完全に否定してしまった。
何度機会があった?
ヴィーネ様が言ったシャーロット様を便利な兵器として見ている。
区長の誰も否定出来なかった。
区長全員が国を守る気が無い。
これで、自分たちの国だと言えるのか?
そして、決意した結果が国防隊の解散だ。
区長だけは国を守るという気概を見せて欲しかった。
そして、シャーロット様は大人を見放した。
確実に見放したと分かってしまう。
この国に害が無いように動いているが、今までは事前確認があった。
しかし、今は事後報告だけになってしまった。
つまり、事前に区長たちに確認する意味がないから。
事後報告は子供の為だろうな。
そして、私たちは子供の教育を強化出来たのか?
区長の誰か1人でも教師を推薦したか?
孤児の世話をする人を推薦したか?
誰も何もしていない。
口だけだったのか誰もいないのかは分からない。
国の方針を考える為の区長会議。
あれから一度も実施していない。
考えれば分かる話だ。
何故区長会議がシャーロット様にお願いする内容を決める場なのだ。
気付いたのが今頃だったとは心底馬鹿過ぎるよ。
この国の空気に染まり過ぎたようだ。
余りにも愚か。
国の方針を決める会議で土地神様にお願いする。
区長の誰も疑問を感じていない。
シャーロット様は我慢して大人を教育しようとしていたのに。
そこには誰も気付かない。
ここまで腐りきっていたのか。
だが、今更反省しても遅すぎる。
もう、お願いをする事は出来ない。
だから区長会議をしない。
本当に愚かだよ。
今こそ区長会議で国の方針を決めるべきだろう。
区長の誰も何も言わない。
全員が思っていた訳だ。
土地神様にお願いする内容を決める場所だと。
「ディアナ、区長会議は何の為にやっていたんだ?」
「国の方針を決めるという建前で、シャーロット様にお願いする内容を決める場所ですね」
「この国の在り方は最初から終わっていたんだな」
「そのようですね。現在の区長が誰も動きませんから。口だけでしたね」
「街長になった時この違和感に気付くべきだった。汚染されたようだ」
「ええ。この国の大人は皆、毒を持っている様です。外から来た獣人は毒を持ち込みました」
「この国に長はいらない。子供たちが新しい仕組みを作る。今ほど本気で街長を辞めたいと思った事はないよ。記憶を消された馬鹿が羨ましい」
「仕事が無いですからね。区長を纏めるのが仕事なのに、区長が何もしていなければ、何もできませんから」
「現状維持をするにしても区長も街長もいらないだろう。解散のお願いに行くべきだな」
「それを許してくれるかどうか分かりませんが、動くなら早めの方がいいでしょう」
「そうだな。今からお願いしに行く」
「分かりました」
私たちは社に向かった。
以前来た時と景色が変わっている。
「シャーロット様、お願いしに来ました」
「どうしたの?何かあったの?」
笑顔で出て来てくれるのは変わりませんね。
それが今はとても辛いです。
「区長や街長を解散して、中央だけを残し、他は呼び名が必要無いと思います」
「子供たちは食事に困ったりしない?大人たちの給料は大丈夫なの?」
「では、税理官として私は中央に残り街の住民から税金を集めます。別に区長が集める必要はありませんから。それで給料は問題なく払えます」
「そうすると、建前上この国は誰が管理しているのかな?」
「シャーロット様は土地神様ですのでヴィーネ様ではどうでしょう?」
「私が長になると殺しちゃうよ?いいの?」
「せめて、記憶を消して飛ばすでいいじゃない。誰を殺したいの?」
「子供がいない大人と、衣食住と研究に関係していない大人だよ。勿論人間と獣人だけ。どうする?」
「私が決めていいなら飛ばして下さい。この国は腐りきっています」
「ヴィーネ。そんな大変な選別を簡単に出来るの?」
「中央と繋がりの無い大人を消すだけで終わるよ。住民が半分以下になると思うけどね。以前と同じように、マリアンネの国に飛ばせばいいんでしょ?念話で誘導すれば簡単だよ。散らばってると思うから大変なんだよ。こちらから固めちゃえばいいの」
「私は飛ばして欲しいです」
「私も賛成です」
「私よりヴィーネの方が仕事は早いから。賢いからね。私の娘だから」
「ここで自慢しなくていいよ、恥ずかしいじゃない…。記憶の消す内容は。以前と同じだね。変わってないから問題ないね」
以前の選別から何も変わっていない。
変えなくても選別できてしまうという事ですね。
「じゃあ、ヴィーネ。お願いね」
「はーい。あ、1つ訂正。国防軍にいた人は子供がいても飛ばすよ。じゃあ、仕事してきます」
「まあ、当然でしょう」
「はい。子供は可哀想ですが仕方がないでしょう」
「空気重いね。何かあったの?」
「いえ。本当に意味のない役職だと思ったのです。仕事が無いのですから。区長を纏める仕事なのに区長が仕事をしなければ私の仕事はありません」
「そうですね。そして秘書の仕事もありません」
「ヴィーネは私と違って厳しいよ。飛ばす相手と殺す相手がいても不思議じゃない。それでも良かったの?今まで一緒に働いてきたんでしょ?」
「ええ。私の見る目が曇っていました。曇りが取れるなら問題ありません」
「本当にそうですね。私も目の曇りが取れるならそれでいいです」
「私の予想では、ヴィーネは最初から選別が終わっていたと思う。念話とかは、それらしい事を言っただけな気がするんだよね。あの子はかなり見てるからさ。私より厳しい目で」
「それでいいのです。そうしないと今の人は腐ってしまうのです」
「そうですね。厳しいくらいで丁度いいです」
「この国の人は魔獣と向き合っていないから仕方がないかもね。昔は当たり前に危険が近くにあって、それで人が集まってできた街だから。街ができて、2世代、3世代と続く度に、どんどん当たり前になっちゃうんだよね。当たり前だと思っている集団の中に入ると、それが普通だと思っちゃうのかもしれないね」
シャーロット様の方が厳しく選別した気がする。
全てを見て来た方だから。
隠し事なんて出来ない。
殺す事は無いだけで住民はもっと減ったのではないかな。
私が来た時は既に討伐隊があった。
あの頃から大人を教育しようとしていた。
どれだけ無駄にしたのだろうか。
どれだけ侮辱したのだろうか。
土地神様と崇めている方を。
「終わったよ。少し建物を掃除するのに手間取ったよ。人がいない家は邪魔だから消しておいた。配管とかの設計図も私の頭には入っているから心配しないでね。じゃあ、私が国長でマリアンネが税理官でディアナがその秘書でいいのかな?」
「ディアナは秘書でいいのか?」
「ええ。それ以外できませんから」
「じゃあ、孤児院をお手伝いしている人と教師の給料だけはきっちりと払ってあげてね」
「ええ、勿論です。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
「税金の回収は妖精にお願いするといいかも」
「そうですね。そういう仕事もお願いしてみます。では、失礼します」
「失礼します」
私たちは国の中央を歩いて戻って行った。
やはり殆どの家が消えているな。
エルヴィンも消えたか。
グスタフも当然消えた。
区長で消えたのは2人だけか。
私が残れたのは奇跡だな。
人口は1000人を切った感じだ。
しかし、様々な種族が生活している。
皆が中央でまとまればいい。
それが、多種族国家シェリルの形になると思う。
「実に綺麗な景色だな」
「ええ。無駄が無い事はいい事ですよ」
本当にそう思う。
どれだけ無駄なものを背負わせてしまったのだろう。
思い切った政策を打ち出しました。
土地神様に感謝しているマリアンネらしいです。




