閑話 カーリン 天使に出会った日
私は冒険者でした。
4人パーティの後衛です。
男性2人、女性2人のパーティです。
パーティーの男性の1人から将来結婚しようと言われていました。
冒険者は命懸けです。
一攫千金を狙う博打なのです。
結婚できる人は珍しいです。
無傷で引退できる人は見た事がないです。
男性とは、結婚した後に生活に困らない資金を溜めたら、引退しようと話していました。
冒険者の皆が夢見るような話ですよね。
そして、良くある話が起きました。
ダンジョンに行く途中の雨でぬかるんだ山道を歩いていた時、落石に遭いました。
パーティーで被害にあったのが私だけだったのは、運が良かったのでしょうね。
男性2人は落石で潰れた私を見て逃げて行きました。
パーティーの自然解散です。
良くある話かもしれません。
でも、私には信じられませんでした。
溜めたお金を使えば神官に頼んで治してもらえると思っていたのです。
神官に払う金額をもう1人の仲間だったクリスタが教えてくれました。
まさか神官に払うお金が最低でも1000万ギルとか…。
もう笑えませんが、笑ってしまいたいです。
「諦めないで、カーリン!この場所ならすぐにシェリル街に着く。そこまで耐えて!」
「クいスあがいうなら、そのまいまでがんばうよ」
落石の時、唯一逃げずに助け出してくれたクリスタの言葉だけを信じて耐えました。
クリスタに背負われてどれくらいの時間が経ったでしょう?
意識が朦朧として時間の感覚も分かりません。
「生きてるよね?」
「うん」
「お願いします!シャーロット様を呼んで下さい」
クリスタは何をお願いしているんだろう?
男性の兵士が私を見て、すぐに声をあげました。
「急患だ!シャーロット様を急いで呼んでくれ」
「かしこまりました」
若い男性の声が聞こえたと思ったら…。
突然、目の前に深紅の髪に瞳、真っ白な肌。
普通は吸血鬼だと思うかもしれませんが、私は天使だと思いました。
天使が迎えに来たと思ったのです。
「高位回復魔法。間に合った、危なかったー。兵士の皆もお疲れ様」
「シャーロット様、ありがとうございます!」
「とんでもございません」
クリスタがお礼を言っています。
兵士の男性は恐縮しているみたいです。
目の前の女の子は、シャーロット様って言うんだ。
体中の痛みは無くなったけど、私の体はどんな状態なんだろう?
訳が分からなくて、ぼんやりとしていました。
突然、クリスタに頭を叩かれました。
「こらー、お礼くらい言いなさいよ。全て元通り、綺麗に治して下さったのよ!」
「え、嘘でしょ?1000万ギルも払えないよ…」
絶望感でいっぱいです。
奴隷として娼館で働かされるかもしれないと思ったりもしました。
不幸な未来予想で頭の中がいっぱいです。
「私は無料だよ。ここに来れば治療は無料だから安心してね」
「では、何をお返しすればいいのでしょうか…」
涙ながらに話していると、クリスタからまた頭を叩かれました。
「何を絶望しているのよ。シャーロット様の話を聞いていたの?無料って言ってるでしょ」
「治療は無料でも何かあるのでしょ?」
私の言葉を聞いていたシャーロット様は笑い出しました。
とても可愛い笑顔です。
「フフ。面白い子だね。じゃあ、街で働いてもらおうかな。孤児院で働いてくれる?」
「孤児院でいいのですか?一生懸命に頑張ります」
クリスタが驚いています。
孤児院は酷い環境なのでしょうか…。
「嘘ー?カーリンが街の住人になるの?私だってなりたいのに、申請して待ってるんだよ!」
全然違いました。
街に住む私に文句があったみたいです。
私たちの話を聞いていたシャーロット様がまた笑いました。
本当に可愛いです。
天使ですよ。
「フフフ。面白い2人だね。君もこの街で働く?」
「はい!働きます。私はクリスタです。よろしくお願いします」
「2人とも街長に任せちゃおう。転移魔法」
突然、目の前の景色が変わりました。
隣にはクリスタもいるので安心ですが、目の前にいる女性はマリアンネさんでは?
「マリアンネ、面白い2人見つけたから仕事をあげて。カーリンは孤児院で決定、クリスタは未定だよ」
「かしこまりました」
やっぱり、マリアンネさんです。
いつの間にか冒険者組合で見なくなったのです。
新人の頃にクリスタと一緒に色々と教えてもらいました。
2人で心配していたのですが、この街にいたのですね。
何をしているのでしょうか?
「じゃあ、またねー。転移魔法」
シャーロット様はそう言って去っていきました。
「懐かしい2人じゃないか。何かあったの?」
「カーリンが岩で潰れたので助けてもらいました」
「それは運が良かったね。ここの近くでなかったら死んでいたんだろ?」
「はい。本当に運が良かったです。男たちが逃げたのが最悪ですけど」
マリアンネさんは声を出して笑いました。
「あははは。それも含めて運が良かったのさ。見極められたじゃないか」
「それもそうですね。死に繋がる場面で逃げられるよりいいですね」
「そういう事だ。カーリンは孤児院でいいのかい?」
「はい。シャーロット様と約束しましたから」
「そうかい。あんまり給料良くないけど本当にいいのかい?」
「はい。生活できれば大丈夫です」
「クリスタは何をしたい?」
「私は討伐隊に入ろうと思います」
「分かった。クリスタは当面宿舎で生活だね。カーリンは今日から孤児院に行くかい?」
「はい。すぐに行きます」
マリアンネさんは街の仕事の管理をしているのでしょうか?
あとで違うと分かりましたが、私は夢見心地な気分でした。
ここまでずっと、現実感が無さ過ぎたのです。
周りの人から見たら、呆けていたのでしょうね。
「カーリンを孤児院に連れて行って仕事を教えてあげて」
「かしこまりました」
マリアンネさんが若い女性に指示を出しています。
部下までいるのですね。
クリスタが笑顔で手を振っています。
私も笑顔で手を振って別れました。
若い女性はディアナさんと言って、街長の秘書をしているようです。
街長ってマリアンネさんはとても偉いのですね。
あとで勘違いしていると分かりました。
ディアナさんの説明は孤児院の設備の使い方と仕事の内容でした。
仕事の内容は分かりますが、設備の意味が分かりません。
孤児院の仕事は確かに給料に見合ってはいませんでした。
10人の子供の面倒を見るのは物凄い忙しいのです。
オムツの子供がいないのは助かりました。
でも、子供たちは可愛いし辞めるつもりはありません。
すぐに私に懐いてくれましたから、良かったです。
昼過ぎまでは勉強に行っているので、偶に昼寝できます。
ここの街の子供は皆、勉強しているのです。
凄いですよね。
それに、生活は全く困りませんでした。
給料以上の生活環境です。
というより、意味が分からない生活環境です。
だから給料が安いのかな?
トイレ掃除は便器の汚れを水で綺麗に流して終わりです。
下水道と言う汚物を流す為の管が街の地下を通っているみたいです。
意味が分かりません。
何と毎日お風呂にも入れます。
お風呂釜に栓をして水が出る器具を下げるだけで水が溜まります。
上げれば水が止まります。
栓を外せばお風呂の水が抜けます。
上水道と言う飲める水を流す為の管が地下を通っているみたいです。
お風呂の捨てる水は下水道を通るみたいです。
意味が分かりません。
しかも、ここには希少な火の魔石が何個も置いてあります。
お風呂の水を温める時も魔石を置くだけです。
料理をする時も魔石を置くだけです。
外で肉を焼く時だけ薪を使います。
天使様が、鉄板焼きに魔石は似合わないと言った為です。
食材を腐らせない様に氷の魔石まであります。
木箱の中は常に冷えています。
暑い日は氷の魔石で部屋を涼しく出来ます。
寒い日は火の魔石で部屋を暖かく出来ます。
孤児院は夜でも明るいです。
光の魔石が天井付近に2個置いてあります。
眠る時は魔石を布で隠すだけです。
部屋の隅に紐が2本あり、部屋の明るさの調整が出来ます。
シャーロット様に話を聞きました。
何故、こんなに魔石があるのですかと。
ダンジョンの奥深くでしか見つからないと言われている、貴重な物です。
冒険者組合の組合長の部屋でしか見た事がありませんでした。
孤児院の為に魔石の原石を見つけてきて加工したそうです。
そして、それぞれの魔法を入れたそうです。
とても重要な施設ですよね。
そもそも、魔石って作れるんですね。
私の怪我も致命傷でしたけど、一瞬で綺麗に治りましたし…。
そして、私は思い付きました。
考えるのを止めようと。
天使様だから何でも出来ちゃうよ。
孤児院は子供たちも可愛いし、大好きな天使様も遊びに来るので辞めません!
カーリンは男性不信もありますが、シャーロットに夢中です。
その為、男性が気にならないのです。