ジェラルヴィーネ お祭り(中編)
母さんのお祭り開会宣言を待たずして組手が始まったよ。
それなのに閲覧席はどんどん人で埋まっていく…。
組手を見れる人なんて孤児院の大人しかいないのに不思議だよ。
打撃音とかを聞きたいのかな?
姿は見えないし飽きる気がするのに何故だろう?
もしかして強者の雰囲気を感じたいのかな?
クリスタは完全に孤児院の仕事を放棄しているよね…。
組手の方が大変だけれど本気で楽しんでいるから怒られても仕方なしだよ。
叔母さんもそれなりに鍛えてきたみたい。
秘儀を極めてから最低でも元の魔力移動速度に戻す必要があったからね。
そこまで鍛えれば種族差で誤魔化せる。
クリスタは魔力を微調整して休憩なしで組手を続けるつもりなのかな?
叔母さんには魔力を満たした手足で攻撃されているように見えているはず。
僅かずつ使う魔力量を減らしていって叔母さんが魔力量を変化させた辺りで止める。
普通に考えればクリスタの方が格上だね。
種族差で対等な組手になっているだけだから。
人間にできることは限られている。
その中でクリスタは限界近くまで鍛えている。
このまま鍛え続ければ誰も超えられない最強の人間になれる。
叔母さんが慌てているのを見るのは面白いね。
対処するだけで精一杯になっているよ。
お昼まで続ければ慣れるだろうけれど何かを仕掛けることはできないね。
「姉さん、クリスタを鍛えすぎだよ。竜王を相手に魔力消耗を抑えて組手しているじゃない。叔母さんはそれに気付いていないようだから上手く調整しているね」
「2人の組手は破壊を狙うよりも楽しんでいるだけだからね。クリスタは長く楽しみ続けられるようにしているだけだよ。気付けない叔母さんは鍛錬が足りないね。私たちとは組手できないよ」
母と呼ばせたいなら組手の相手くらいはできないとね。
組手しても呼ばないけれど…。
「叔母さんと組手したいの?」
「酔うと母と呼べと煩いからね。最低でも組手できないと母とは呼べないよ」
「叔母さんに付き合ったせいでシィーナ叔母さんの鍛錬が予想よりも進んでいないね」
「クリスタにボコボコにされると分かっていただろうからね。流石に可哀相だから鍛えたのだと思うよ」
「同じ条件にしても種族差は明確にあるからね?姉さんがクリスタを鍛えすぎなんだよ!」
「クリスタは放っておいても鍛え続けるよ。人間最強の座を誰にも譲るつもりがないからね」
「少しは妥協を覚えさせてあげないと。疲れちゃうよ?」
「本人は楽しんでいるからいいじゃない。叔母さんの方が疲れているよ」
「クリスタと楽しめる状態まで鍛えるのか更に上を目指すのかでしょ?」
「そうそう。シィーナ叔母さんは変態だからね。一緒に上を目指すのは大変だよ」
「母さんは何なの?私たちの方が成長速度は上だよね?離されている気がするよ?」
「母さんの鍛え方はおかしいからね。休みなく常に鍛え続けているから。鍛えている時間が圧倒的に負けているよ。同じ時間鍛えることができれば差も縮むけれどね」
「母さんからすれば寝ながら魔力を動かし続けるなんて楽だったね。寝ながら感情把握をし続けてきた訳だから」
「そういう事だよ。それに母さんは遊びながら鍛えているからね。簡単すぎるとつまらないから遊びを難しくするという超越者だから。今の状態で母さんを真似ると死ぬよ」
私たちが強くなる理由は母さんを超すことだけなのに…。
母さんがおかしいくらいに強くなっていくから鍛錬をやめられない。
やることがないから別にいいけれど…。
私たちの暇潰しの為に鍛えているのかな?
母さんとの組手は本気できついからね。
何だろう…、きついとしか言いたくないくらいにきつい。
地獄から生還したジィーニは相当強くなっているね。
遊んでいると私も抜かれそうだよ…。
「ウィーノ大丈夫?ジィーニ相当鍛えているようだね。確実に姉妹最強を目指している鍛え方だよ。絶対に真ん中は譲る気がないみたい」
「それ程までに真ん中が心地よい訳でしょ?直接勝負で奪い取るしかないね」
「いやいや。私がいるからね?カーリンと遊んでいるウィーノでは私に勝てないよ。自覚ないの?」
「遊んでませーん!目が曇っているようだね。姉妹戦で白黒つけた方がいいんじゃないの?」
「私の見たところだと今のジィーニと同じくらいでしょ?次のお祭りまでは待ってあげるよ」
「ふ、ふーん!次のお祭りは姉妹戦だね。血塗れが予想されるからお客さん入れないよ」
「ウィーノの血が飛び散るからね。結界で防ぐのもあれだし見ない方がいいよね」
「クリスタを鍛えているうちに姉妹最強だと勘違いしちゃったみたいだね。すぐに訂正するべきだと思うけれど次のお祭りまでは待ってあげるよ」
「正直に今は勝てませんと言えばいいのに。素直じゃないねー」
「今姉さんに勝っても意味がないから勝負しないだけだよ。半年後を楽しみにしておいてよ」
「絶対に勝てる勝負が楽しい訳ないでしょ?半年間母さんと毎日訓練したら流石に危ういけれどね」
「それは私の命が危ういだけだよ!母さんと半年間も訓練するなんて唯の拷問だよ!」
また無茶苦茶言っているよ。
後で母さんに怒られてもしーらない。
「今日はお祭りだよ。みんな全力で楽しんでね!。病人や怪我人はいないよね?何か問題があるなら私は食事場所の屋上か噴水の近くにいるから声を掛けてね。聖地シャーロットのお祭り開催だよー!」
ようやくお祭りが始まった…。
組手している4人は無関心だね。
反応したら破壊されるから仕方ないけれどさ。
「ジィーニはかなり母さんと訓練したからね。シィーナ叔母さんが想定していない強さになっているよ。余計なことを考えた瞬間に破壊される強さだね。焦って隙を探し出したら終わっちゃう」
「シィーナ叔母さんも相当強くなっているよ。以前とは別人の動きだよ。母さんの訓練はシィーナ叔母さんの戦略を事前に体に教え込むようなものではなさそうだよ」
「そうだね。強くなる為に鍛えた感じだね。私は見ていて少し余裕があるけれどウィーノは焦っているでしょ?破壊されて終わりだよ」
「焦ってませーん!ジィーニが可哀相に思っただけだよ。お祭りの組手の為に地獄に自ら飛び込む必要があった訳だからね。孵化した直後に組手を挑まれるとか悪夢だよ」
「孵化した直後に組手を挑まれてお祭りまで延期する程シィーナ叔母さんが強くなっている訳だからね。母さんの組手を経て互角に近いという事は自分たちで鍛えるとまずい可能性があると分かっている?姉妹戦にシィーナ叔母さんも確実に参戦してくるからね」
「姉妹戦なのに叔母さんが参戦するのおかしいよね?戦闘狂に常識は通じないから押し通されるだろうけれどさ…。極悪魔人の訓練に参加するしかないのかなー。娘を笑顔で瀕死に追い込むとかおかしいよね?母さんは戦闘狂なんて優しいものじゃないよ。あの訓練には悪の本質が隠れているよ!」
説教されるのを覚悟して言いたい放題だよ。
悪の本質が隠れている精霊女王はまずいでしょ!
私は危険なことは言わないよ。
しーらない。
「孵化したばかりのジィーニを球蹴りでとめられなかったじゃない。ウィーノは既に負けているよね?」
「姉さんが母さんに抜かれる度に補佐していたからね。弱すぎる姉さんが悪いと思わないの?」
「確かに母さんよりは弱いし手加減されていたけれどウィーノに補佐された記憶はないね。ジィーニに張り付くのに必死だった癖によく言うよ」
「本音で言うけれど孵化した瞬間からジィーニは姉さんより強かったでしょ?気付いていないの?叔母さんと一緒だよ?」
「はぁ…。私は妹に負けたことがないから分からないよ。そうだったのー?」
「姉さんに花を持たせているだけだよ。宇宙最強極悪魔人に鍛えてもらうよ。姉妹戦は絶対に勝つ!」
「母さんの悪口を言い過ぎだね。寿命を削っているのかな?私の予想だと一度目の訓練で心が折れると思うよ。自分の口が何を言っているのか分かっているの?」
「全部事実だから問題ありませーん!今日はお婆ちゃんの分身を作る可能性が高いでしょ?お婆ちゃんに訓練をお願いしてくるよ」
「お婆ちゃんの振りをした母さんに地獄に落とされるよ。姉妹戦から脱落だね」
「大体ジィーニが母さんと訓練し続けることができたのがおかしいよ。星の魔力を持っているでしょ?つまり悪だよね!悪に染まっていないと耐えられない訓練なんだよ!」
「母さんの訓練に私を巻き込まないでよ?開き直って言い過ぎだから。リンゴ飴ウィーノの分だけ買っていない可能性すらあるよ。しーらない」
「それはないね。お婆ちゃんの心がそれを阻止してくれるから。聖なるお婆ちゃんと極悪の母さんが混ざり合って今の異常生命体になっている訳だからね」
未知なる力で瀕死にされるよ。
巻き込まれる気がする。
黙らせるべきかな?
「極悪の異常生命体はそっちに行く前にウィーノの分の土地神リンゴ飴を砕きそうだよ。明日一緒に訓練するなら考えるけれど、どうする?」
「姉妹戦の為に努力します…」
手遅れだったね…。
まあ、ウィーノの自業自得だよ。
「会話を楽しんでいたヴィーネは次の日ね。未知なる力で捕まえているから。逃がさないよ?」
「はーい。頑張ります…」
最悪だよ…。
完全に巻き添えだよ。
「ウィーノのお陰で姉妹戦はジィーニの不戦勝が決まったよ。反省してよね!」
「この地獄を耐え抜いた先に栄光が待っているんだよ」
「ウィーノが訓練し続ければ私の番は回ってこないね。よろしく!」
「残念でした!そんな事をしたら死にますから。確実に回ってきますー」
母さんと訓練はしておいた方がいいから別に気にしない。
ジィーニがかなり成長しているから私も手を抜けないね。
そろそろかな?
組手を途中で止めるのは悪いけれど破壊されるまで粘りそうだからね。
「ウィーノ、叔母さんを止めてよ。私はクリスタを止めるから」
「クリスタは破壊されるまで続けそうだし叔母さんは気付いていないからね。仕方ないね」
「じゃあ行こうか!」
「はーい!」
【パシィ】
【パシィ】
「クリスタは人間だから一旦休憩。破壊を狙った組手をしている訳ではないでしょ?」
「止められてしまいましたか。残念ですが仕方ありませんね。魔力を回復します」
叔母さんにウィーノが何か言うかな?
「叔母さんも夢中で楽しんでいないで気付いてよね」
「悪かったわね…。完全に頭から抜けていたわ。一旦休みましょう」
叔母さんを擁護したね…。
クリスタの魔力移動速度が速くて総量が確認できなかっただけなのに。
「奥の2人は止めないのかしら?」
「必要ないからね。2人は破壊を目的にしているから集中力を持たせるのも勝負のうちだよ。それに本当に接戦だからさ。体に覚えさせた技術で組手をし続けているよ。何をしようか考えたら破壊されるね」
「あなたから見ても姉さんは強いの?」
「強いよ。私と組手した時とは比べ物にならないね。負けるつもりはないけれど油断したら確実に破壊されるくらいの強さがあるよ」
気にしているね…。
今後どうするのか迷っている。
「それ程までに強いの?鍛えればシャルに追いつけるのも本当かしら?」
「母さんは家族に嘘は吐かないよ。努力すれば母さんに追いつけるのは間違いないよ。私たちが追い越すことができるのも間違いないね。母さんが今でも成長しているのと鍛錬が尋常ではないから離されるだけだからさ。戦闘狂のシィーナ叔母さんが可愛く見えるほど母さんは鍛えているよ。社でゴロゴロしているから鍛えていないように見えるだけだからね」
「ヴィーネにはシャルが何をしているのか見えているの?」
「見えないよ。でも何をしているのかは知っているよ。体の中に魔力で障害物を作り、魔力の球を高速で動かしているよ。色々な形の障害物が体の中にあって接触する前に球の形を変える必要がある。障害物と接触したら体が破裂するからね。それを誰にも見えない速さで一日中続けているんだよ。母さんにとって鍛錬は遊びの延長だから障害物の数や形がどのようになっているのかは分からないね。簡単すぎるとつまらないからと難しくしていくから。今の私やウィーノが真似したら確実に死ぬ。そういう遊びを続けているから誰も追いつけないんだよ」
「魔力を動かすことすら別次元じゃないの。あなたは何故努力するの?」
「この国では皆が何かを努力しているからね。様々な努力の形があるけれど私たちは皆の憧れだから。弱い姿は見せられないよ。それに誰かを鍛える為には自分が強い方がより効果的な訓練ができるからね。クリスタ以外にも私が鍛えてあげたくなる子が見つかるかもしれないでしょ?それに長女だからね。妹には負けられないよ」
本当にらしくないね…。
そんな事で迷う必要ないのに。
「竜の国とは大違いだわ」
「世界一の国だからね。皆が前に進もうとしているのに私たちが停滞する訳にはいかないよ。年齢と種族が誇りの馬鹿なドラゴンではいられない」
「クリスタが回復したみたいね。続きを楽しませてもらうわ」
「限界まで努力する必要はないから。暇潰しで鍛えているくらいの気持ちで十分だよ」
「あなたが私を励ますなんてね…。どうしたのかしら?」
「ただの気紛れだよ。暇潰しに悩むなんて馬鹿らしいと思っただけ」
「素直じゃないわね。誰に似たのかしら?」
「社の中に素直な人がいないから分からないね。みんな癖があり過ぎだよ」
クリスタが近付いて来たね。
「お待たせしました。いつでも再開できます!」
「それでは始めましょうか」
「はい!よろしくお願いします!」
私らしくなかったかな?
社の中で一緒に暮らしているから気になったのかも。
「姉さんが叔母さんを励ますとはね。珍しいものが見れたよ」
「社の中で落ち込んでいる人がいるのは嫌だからね。酔っ払いの愚痴を減らしただけだよ」
ヴィーネは誰よりも優しいのです。
社の中は明るく賑やかでないと駄目ですからね。




