シャーロット お祭り(前編)
「皆様、本日はお祭りです。よろしくお願いします」
外からアグネスの声が聞こえる。
本当に真面目だよね。
お祭りは恒例だし、先週から予告されているのだから大丈夫なのに。
まあ、恒例だから聞きにいかないとね。
今日は休日だから私の肩に精霊の子が座っている。
休日は時間制で座る精霊の子が代わる。
何で私の肩に座りたいのかがよく分からないのよね。
別に困らないし賑やかだからいいけれどさ。
シルフ(シルフィードの弟)とレム(ウィスプの妹)を肩に乗せて社の外に出ていく。
「何か願いごとはあるかな?お祭りに問題はないかな?」
「問題ありません。本日予定されております組手の閲覧席も満員御礼となっております」
組手する4人が見学を許可しているからね。
風圧と音で凄い組手だと分かるけれど目で見る為には秘儀を極めるのが必須だよ。
見たい理由は人それぞれだから好きにすればいいけれどね。
「ありがとう。組手については中で伝えておくよ。お祭りの開会宣言前から始めると思うけれど気にしないでね」
「分かりました。それでは失礼します」
アグネスは丁寧な一礼をしている。
私が社に入るまで動かないのは分かっているから早く戻ろう。
社の扉を閉めるとアグネスが動き出した。
真面目過ぎるよ!
「今日の組手は大人気みたいだよ。お客さんで埋まっているみたい。予想通りだけれど頑張ってね」
「さて、ジィーニ。行こうか!」
「予想通りだけれど早すぎるよ!まだ寝起きだよ!」
「掠り傷を受けたら私と交代ね」
「破壊されたら私と寝る場所交代だよ」
「本当に寝る場所を賭けているじゃない。シャルは何かジィーニに助言したの?」
ヴィーネが掠り傷を受けると予想していて、ウィーノが破壊されると予想している。
寝る場所を賭けているのは何故だろう?
「みんな家族だから特別な助言はしていないよ。破壊するつもりで組手しないと破壊されるよ、とだけは言ったよ。フェニックスと精霊の子を除いて闘技場に今から行くの?」
「今日まで地獄の日々だったよ。シィーナ叔母さんには悪いけれど破壊させてもらうからね」
「実に素晴らしいね!鬼気迫る組手ができそうだよ」
「姉さんはどうするの?」
「うーん…。クリスタと叔母さんもすぐに組手するだろうし闘技場に行くよ」
「私はクリスタを呼びに行くわ。転移」
こんなに早く呼びに行くなんて…。
クリスタは予想通りで喜んで組手するだろうね。
「姉さんが行くなら私も行くよ。いってきまーす。転移魔法」
ウィーノが私に手を振りながら4人を闘技場に連れていった。
「フェニックスはエマやベティーナたちと遊んでくるんだよね?」
「はい。約束していますので夕暮れまでは遊んできます。それではいってきまーす」
「「いってらっしゃーい」」
お祭りの開会宣言前から動きすぎじゃない?
「皆はどうするの?私と一緒に行動する?兄姉の元に行く?」
「私たちがお母さんの肩に座っていると精霊が勢ぞろいしてしまいますから、仕方ないので夕暮れまでは兄姉の元に行きます」
代表でドリュアスの妹のドリアードが答えてくれた。
「それなら兄姉と楽しんできなさい。みんな待っているよ?一緒にお祭りを楽しみたいんだよ」
「はーい…。いってきまーす」
ダークがふてくされているよ。
本音は姉と遊びたい癖に。
素直じゃないんだから。
「「いってきまーす」」
「はーい。いってらっしゃーい」
精霊の子たちが一斉に兄姉の元に飛んでいった。
お祭りは始まっていないけれどね…。
転移。
海底の砂浜に移動した。
セイレーンの子がプカプカ浮いていて可愛いね。
アマーリエが保護者みたいだよ。
「この子たちは私が見ているからユリウスを呼んできて」
「分かりました。シャーロット様」
私は浮かんでいる子たちの頬をツンツンする。
「ふぁー。くふふ」
「んあー。ふふっ」
可愛いねー。
赤ちゃんは何でこんなに可愛いのかな?
保育科に行くと凄い癒されるよ。
この子たちにはここでしか会えないのが残念だね。
「お待たせしました。シャーロット様」
「待ってないよ。この子たちに癒されていたからね。今日のお祭りも歌ってくれる?」
「勿論です!私は行けませんが全力で歌わさせていただきます」
聞くのも恒例みたいなものだよね。
絶対に断らないと知っているから。
セイレーンたちも皆の前で歌うのを楽しみにしているよ。
ユリウスに50万ギルが入っている袋を渡す。
出産のお祝い金も含めて少し多めだよ。
「それじゃあよろしくね」
「ありがとうございます。アマーリエ、お祭りが始まるまでは見ててあげて」
「はい。お母さん」
「今日はユーリアとお祭りを楽しむの?」
「はい。私がしっかりとお祭りの楽しみ方を教えます!」
「お姉ちゃんだね。頑張って!」
「ありがとうございます」
「ここにクラウディアを呼ぶね。念話、砂浜まで来て欲しい」
「かしこまりました」
すぐにクラウディアが砂浜まで来た。
高等科を卒業してすっかり海の女王様だよ。
「お待たせしました。今日は何かありましたか?」
「お祭りだよー。学校に通っている子もいるからお小遣いを持ってきたんだ」
クラウディアに20万ギルが入っている袋を渡す。
お祭りの屋台が豊富になってきたから1人2000ギルのお小遣い。
「シャーロット様。私たちはお店で稼いでおりますのでお小遣いは必要ありません」
「分かったよ。全員が学校を卒業したら渡すのをやめるから。今日はお祭りを楽しんでよ?」
「分かりました。早く卒業できるように妹たちを鍛えます!」
「違うからね。お祭りを楽しんでよ!範囲高位回復魔法」
クラウディアは自分に厳しく妹にも厳しくだからね。
「それじゃあまたねー!転移」
2人に手を振りながら砂浜を後にする。
シェリル区の噴水の上空に移動した。
やっとお祭りの開会宣言ができるよ。
国全域に念話する。
「今日はお祭りだよ。みんな全力で楽しんでね!範囲高位回復魔法。病人や怪我人はいないよね?何か問題があるなら私は食事場所の屋上か噴水の近くにいるから声を掛けてね。聖地シャーロットのお祭り開催だよー!」
皆から思い思いの声が聞こえる。
日に日に国が賑やかになっていくよ。
転移。
今の人数ならギガントボア1頭で十分だね。
ディーン姉ちゃんの尻尾もあるから…。
シィーナ姉ちゃんが昨日尻尾を持って帰ってきた時には皆が唖然としたね。
ディーン姉ちゃんはとても悲しそうだったよ…。
ギガントボアの心臓を氷魔法で一突きする。
恒例の川でギガントボアを綺麗に洗う。
本当に手慣れたよ。
転移。
食事場所の屋上に移動する。
ギガントボアを念力で浮かせたまま念話する。
孤児院と保護院にいる全員に声を掛ける。
「さあ、食事場所の屋上で鉄板焼きの準備だよ。尻尾も持ってきてね。全力で行動だよ!」
少しして屋上の扉が開いた。
先頭は天使カーリン。
そして天使の後ろにはクラーラがいる。
やはり侮れないね…。
「カーリンは火の魔石を置いた後、いつも通りクラーラとハイディをお願い。ビアンカとチェルシーは大皿を持ってて。レナーテとクリスティーネとシルキーは担当する机を決めて子供たちがしっかりと焼いたお肉を食べているか確認をお願いね。すぐに保護院の子も来ると思うからみんな仲良くね」
「「分かりました」」
「シャーロット様、こちらをお願いします」
「ありがとう。一緒に斬り分けるよ」
レナーテが持ってきた尻尾を念力で受け取る。
尻尾は食事場所の冷凍箱に入れておいたからね。
「シャーロット様、準備できました!」
「すみません。遅れました!」
アルフィーたち保護院の皆も来たね。
「保護院の職員は子供に鉄板焼きを教えてあげて。さあ、食べるぞー!」
「「かしこまりました」」
尻尾を斬り分けて鉄板に乗せていく。
そしてギガントボアを斬り分けて大皿に乗せていく。
「とても美味しい尻尾は1人1枚だからね。まずは尻尾から食べよう!」
「「はーい!」」
「カーリン、1周するまでは指揮をお願い。クラーラとハイディは少し待っててね」
「かしこまりました」
「「はい!」」
お祭りの日は孤児院も保護院も関係ないよ。
みんなが楽しまないと駄目だからね。
・・・・。
子供たちが1周したみたいだね。
尻尾は残っているし浮かせておこう。
ギガントボアを斬り分けて鉄板と大皿に乗せていく。
甘い匂いが漂ってきた。
「今日は初心に返って土地神りんご焼きよ。やはりこれが一番だわ」
「おいしー!やっぱりこれだよね。本当に何度食べても飽きないよ」
「凄く美味しいね!それにお祭りいつも楽しいよ!ハイディは大喜びだよ!」
カーリン軍の総帥クラーラがご満悦だよ。
ハイディはとても純粋だね。
最後までお肉を食べ続けた子はやはりジェナだった。
5枚は食べたと思う。
凄いよね…。
「子供がお腹いっぱいになったら大人の時間だよ。尻尾から斬り分けていくよ」
「「はい!」」
シルキーはカーヤを負ぶったまま他の幼い子たちと遊んでいる。
カーヤは保護院の救出要請でヴィーネが助けた子だよ。
コリンナが幼い子たちをまとめているね。
幼い子たちが集まっている机だけ保育科みたい。
とても癒されるよ。
大人もお腹いっぱいになったみたいだからアルフィーに404万ギルが入った袋を渡す。
「アルフィー、大人のお小遣い20万ギル。子供は2000ギルだよ。よろしくね」
「はい!ありがとうございます!」
子供たちと一緒に孤児院に行き子供たちがお風呂に入り着替えるのを見学する。
誰もクリスタがいない事について触れないのは何故だろう?
ディーン姉ちゃんの相手が実は大変だと伝わったのかな?
クリスタは楽しんでいるけれど本当に大変だからね…。
皆が着替え終わったのでお昼寝の時間。
子供たちと一緒に2階で眠る。
同時に孤児院の子の寝ている場所と保護院の子の寝ている場所を把握する。
保護院の子はまだ20人しかいないから覚えるのが楽だね。
・・・・。
子供たちが起きて着替え始めた。
お祭りの日だけ寝起きが良すぎるのは知っている。
偶に楽しみで興奮して眠れない子もいるから魔法をかけてあげる。
お祭りは意外と体力を使うから昼寝しないと全力で楽しめないからね。
1階に下りて整列を始めるのはお祭りの時だけ。
初めての子に整列する理由を教えてあげるのも恒例だね。
恒例行事みたいなものだし掛け声も一緒。
「全員整列!お小遣いをあげるから並びなさい」
「「はい!」」
「お姉ちゃん達の言う事を守れるね?」
「「はい!」」
「光る雨が降ったら帰って来るわね?」
「「はい!」」
全員に2000ギルを手渡していく。
今までより増額していることに驚く子もいるね。
「よーし、お祭りに参加してきなさい!」
「「行ってきます!」」
これでお祭りが一気に賑やかになるよ。
お祭りには子供たちの楽しむ声が必須だよ!
「毎回一緒だけれど7人にもお小遣いをあげるね。1人いないけれど…」
全員に20万ギルを手渡していく。
「すみません。毎回ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
「・・・・」(拝んでいる)
「天国だね!」
「本当にありがとうございます」
「ありがとうございます。大切に使います」
「これも毎回一緒だね。夕暮れまでは子供たちを見ててあげて」
「「分かりました」」
幼い子たちがシルキーを囲んでいるよ。
大人気だね!
「お母さん。お祭りに早く行こうよ!」
「分かりました。それでは行きましょう」
コリンナがシルキーを急かしているよ。
シルキーはやはりお母さんになったね。
赤ん坊の頃から世話していたらそうなるよね。
だから誰も呼び方を直そうとはしない。
孤児院は子供に平等だけれど呼び方くらいは自由でいいからね。
他の子に不満がないのであれば問題なしだよ!
シルキーが歩くと幼い子たちもついていく。
これなら迷子にならないね!
私は土地神りんご飴を買って闘技場に行かないと。
孤児院を出て噴水に向かって歩いていくと多くの屋台が目に入る。
屋台は街の中にまで続いているから凄い数だよ。
フェニックス発見!
凄い人数で屋台を見ているね。
エラとベティーナとフェリシアの子がいるから200人くらいだよ。
今は子供の時間だけれど保護者も一緒に並んでいるからよく分かる。
本当に全国民が楽しめる屋台が用意されているよ。
エルヴィーラはかなり頑張っているね。
引退してもいい歳だと思うけれど組合長を続けている。
皆が国を盛り上げようとしているから、お祭りの盛り上がり方が凄い。
誰も飛ばさない本当に素敵な国になったよ!
ところで夕暮れには噴水に揃うんだよね。
精霊は兄姉と一緒に来る可能性が高い…。
土地神りんご飴は用意しておいた方がいいね。
大人用8個。
妖精用14個。
多すぎるよ!
買って社にしまっておこう。
恒例行事でも変化があって楽しいですね。




